やさしい世界はここにあったんだ。『事情を知らない転校生がグイグイくる。』1巻

 

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

  • 作者:川村拓
  • 出版社:スクウェア・エニックス
  • 発売日: 2018-10-22

 

やったぜ書籍化。これツイッターで見た時から好きでした。

 

これがバズって連載化、からのコミックス発売です。連載になってどうなるかとも思いましたが、なんともありません。この世界観のまま、なんなら特別なキャラ追加もなく、無邪気でおばかでヒーローな男の子と、死神とクラスから疎まれている少女のあたたかな交流をまるっとたっぷり楽しめる。

これが非常にね、ほっこりする。大変に安らぐ。
やさしい世界って、あるんだなぁ・・・

本当にただただ2人の関係をニヤニヤと眺めているだけの時間が本当に癒やされます。クソみたいな15時間労働かましたあとに読んだりするとふいに涙があふれることだってある。ふだん読む漫画の傾向としてシリアスっぽいのを好みがちなんですけど、ふとこういう邪気のない漫画を読むと、前より増して気持ちがほぐれてくれる。やさしい世界の断片を、きれはしを、残り香を摂取してなんとか生かされていると言ってもいい・・・。

まぁ「邪気が無い」というとヒロインが置かれている環境はどうなのかという所はあるか。でもこの作品って、ヒロインを悲劇的に描きすぎないところがミソだと感じます。暗くなりすぎない。読者を刺激しすぎない。ある意味では都合のいい設定ですけれど、このバランス感覚をある種メタ的に保っているのが、タイトルにも出ているグイグイくる転校生、高田くん。

彼がに周囲も西村さんも翻弄する見事な天然タラシキッズなのが爽快なんですね。

事情を知らない12

こっちもにやけがとまんねぇんだよな。

クラスメイトたちがいろんな言葉やいろんなイタズラでヒロイン西村さんをからかうんですけど、天然かつ根がいいヤツすぎる高田くんがすべてを浄化するので安心して読める。クラスメイトたちの簡単に丸め込まれちゃうお子ちゃまっぷりも、ある程度読み進めると笑えるポイントだったりする。

事情を知らない11

 

これは深読みのしすぎかもしれないけれど、本作はずっとページ縁が黒ベタなんですよね。ちょうど回想シーンみたいな雰囲気がずっと続いていく。

小学校という狭いせまい世界を描いていく作品だからこそ、なんかこの演出が効いてくる。もしかしたらこの物語自体が、未来のだれかが回想したり読み聞かせている『かつての日々』なのかもしれない。そう思うとさらにノスタルジックで、失われた尊さが輝きを帯びていく。

10年後とかに成人式でドチャクソ美人に成長した茜ちゃんが周囲を見返してくんないかな。それで、また引っ越していったはずの高田くんと成人式で再会して始まってくれふたりのストーリー・・・・・・・。恥ずかしがりませんわたくしは。

 

 

まぁさらっとした紹介になりましたけど、さらっと読めてニヤニヤできるいい漫画です。おすすめ。いかにもモブっぽい造形のヒロインがめいっぱいに愛されて幸せにされる物語、絶対に幸せを約束してほしい。

 

 


 

(ついでの話)

最近いろんな所で見かけるツイッター発漫画の単行本化についても少し書いてみる。個人的にはいい傾向だとも思ってるし、一概にいいとも言えないような気もする。

「グイグイくる転校生」とはぜんぜん関係ない話なので適当に流してください。

 

作家さんや雑誌側としても、そもそも知名度ある状態で需要のあるなかで連載をはじめられるのだから大きなメリットだろうな。あと雑誌連載でイマイチ結果を残せなかった悔しい作家さんが、ツイッター漫画でバズってるのを見ると嬉しくなる。ちょっと前に星海社のツイ4がはじまったあたりで「ツイッターで漫画をアップして拡散されよう」というブームがなんとなくできてきたような気がするけれど、高木さんも正直ツイッターでバズりまくった結果の大勝利という部分も強いし、かんぜんに今のブームですよね。普段使ってるSNSツールで、なんかしらんけど面白い漫画がTLに流れてきたぞ、っていう出会いの嬉しさってのが全体的にプラスに働いてるんだろうなーと感じる。自分自身、めっちゃふぁぼる。夜になって見返す。

ただツイッターってその時その瞬間の「あ、いい!」の脊髄反射的なファボやRTが多い気がして、拡散されることで多くの人の目には触れるだろうけれど、作家さんがそれによってメジャーになれるかというのも疑問だったりしますね・・・。

バズる漫画を傾向を見るとやっぱ4頁でまとまってるショートショート的な掌編がおおいのだけれど、それを雑誌で連載化となったときに、物語が動きにくいって所が弱点なのかもしれない。ツイッターで作者アカウントで不定期連載みたいにアップされる漫画のほうが意外と展開が面白かったりして、雑誌連載化する作品だと停滞しがちなような気がする(個人の感想ですが)。

あと個人的にムカつくんですけど、ピクシブとかツイッターでヒットしたタイトルをすぐに書籍化してくるときの一○社とか○川系列のあのおいしいとこだけ持っていこうという感じが。作家的にもせっかくバズった作品が書籍化されて世に出るなら嬉しいことのはずだけれど、「消費されてる感」が絶妙にモニョってしまうんだよなぁ・・・・・・。WEB誌連載ならともかく雑誌でWEB発ネタを雑誌で連載化させて、それでネットから作品を奪っておいて、やってることはWEB時代の焼き直し・・・・・・みたいなクソダサいことになってる作品見ると泣けますよ。編集なにやっとんじゃと。ツイッター漫画を商業化するならツイッターのリンクからワンクリックで読めるような環境でやらないといけない気がするんですけどね。

なんか文句いうのも辛い。こんな時代ですので、漫画のあり方、読まれ方もいろんな選択肢が出てきたってことなので、ズレた考えなのかもしれないですけども。

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no pain,no love.『潜熱』3巻

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

  • 作者:野田 彩子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-10-12

 

やりきったなぁ・・・!!よくぞ、よくぞ・・・。望んでいた、しかし辿り着けるとは思っていなかったエンディングだった。3巻とコンパクトにまとまってはいるが余韻が凄まじい。喪失感も達成感もある。そしてなにより、背筋が震えるほどの人間の性を見せつけられる。遭難船は見事に本懐を達したのだ。

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻
感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。『潜熱』2巻

致命的だ。末期的だ。ぜったいに間違えている。誰の目にも明らかに、よくない人生を歩みだしている。そんなこと百も承知で彼女は言うわけですよ。

 

選んでしまった。

怖くて不安で 初めから後悔してるのに。

私はあの人を選んだ。

 

はじめての恋だった。はじめて好きになった男の人だった。

けれど相手はヤクザの頭。平凡な19歳の女子大生が接していい相手ではない。にも関わらずどうしようもなく惹かれて、これまでの自分がどんどん壊されていく。狂わされていく。変わり果てていく自分すらも愛おしく、まっすぐ愚かに彼女は堕ちていくのだ。

潜熱32

もはやどんな言葉を投げかけられても無駄だと、どうしようもなく理解してしまっている。

1巻、2巻とますます瑠璃は”女”になっていってしまったことに一抹の寂しさを覚えつつ、いやいや俄然テンションあがるってもんよ・・・!(どっちだ)
完全に開花している。この難易度MAXな初恋にじりじりと灼かれながらも、彼女はどんどん強くなっていく。都合のいい女になって好かれよう、という姿勢はもはやなく。いや愛されたいだけの欲しがりなんかでもなく。逆瀬川と並び立てるような人間になっていく。

意思が弱いようで、こうと決めたことは頑なに譲らないような2面性のある主人公、瑠璃。彼女を通じて物語は進んでいくので読みても彼女に感情移入しながら読み進めるわけです。彼女の味わうはじめての恋の喜びや、闇の世界の恐怖感、好きな人にふれる興奮や、冷たい現実に打ちのめされる無念も。けれどここに来て、・・・いや2巻の途中あたりから察しましたけど、ある種彼女こそが作中No.1のサイコパスなので、どこまで彼女の気持ちに乗り切れるかってのがかなり本作の評価を左右するポイントな気がする。

ストーリーの面白さもそうだけれど、提示される価値観が強烈なのだ。
その価値観をまさに示してくれる瑠璃という女性が恐ろしくそして美しく、目が離せない。

潜熱34

彼女の危うさは、本職のヤクザをしても「1番怖い」と評価するほどだ。

周囲を簡単に振り回して、ときに裏切って、そしてひとりで修羅の道へ。
友人のトモちゃんとのエピソードが語られるこの3巻ですが、持っていきかたが卑怯すぎるんですよ。どれだけ彼女らの絆が深かったか。どれだけ思いやれる仲だったのか。それを思い知らせてから、それでも突き進む瑠璃の姿はもはや鬼。

 

困ったことに、悪気はなかった、なんて言い訳は絶対にしないんです。
全部わかってる。自分の行動がどれだけの人々を傷つけ、不安にさせ、迷惑を振りまき、救いの手を差し伸べてくれるような相手を裏切ることの重みを、彼女は背負っている。
ぜんぶ承知の上で堕ちていく。
肝の座りっぷりがハンパじゃない。本気になった女とは、こんなにも強く恐ろしく残酷で美しいのか。

潜熱33

そんな彼女の火は当然、逆瀬川にも伝わる。
3巻のおっさんはわりと瑠璃さんにデレデレ状態でもうかわいいなコイツって感じだ。
でも今回は彼にも試練は降りかかる。どんなにかっこよくたち振る舞っても結局の所、子供と同年代の女に入れ込んだスケベオヤジだっていう周囲の目は逃れられない。ひょうひょうと大人ぶっても、そういう評価をされてしまうことも彼は知っている。

年の差もありすぎるし、いくら瑠璃の方からアプローチしたとはいっても「純朴な一般人を巻き込むなんて」「いい歳してみっともねえ」なんてそんな陰口だって当然ある。そりゃもう、情けない限りに。

潜熱36

けれど瑠璃と同様、逆瀬川も腹をくくったのだろうという事実が震えるほどに嬉しいのだ。空港での襲撃のとき、必死になってに瑠璃をかばった彼の血走った目にこそ、普段は読みづらい彼の本当の愛情が感じられるように思う。「守ってやりたくなるよ」なんてキザな言葉を口にしたんだ、いい歳こいたおっさんが。そしてちゃんと約束を守った。最高なんだよな。

逆瀬川の元妻の登場が物語のピークでもあり、瑠璃の未来のかけらを提示したものでもあった。逆瀬川に向けた言葉も、瑠璃に向けた言葉もそれぞれの覚悟を値踏みしたいやらしい内容で、だからこそ彼らの本気が試された。

それにしても元嫁の回想シーン、素敵だったなぁ。
短いのになんかいろんな女性が逆瀬川に不思議と惹かれてしまうのがなんとなく分かってしまうのだ。無神経なんだけど奔放で、とおくを見ている顔が妙に様になってて。けれどそれは過去のものだともハッキリ伝わって、瑠璃もいずれこんな未来を迎えるのかもしれないと思うと、それはそれで寂しくもあるし、ほっと安心してしまうような、複雑な心境になってしまう。

潜熱31

最高の場面だ。3巻の76、77頁の見開き。瑠璃という女が化けた瞬間でもあるし、物語の行方がはっきりと定まってしまったシーンだろう。すべてを受け入れて、あるいは諦めて、全部飲み込んでしまった。

 

あなたが後悔した20年が

私のものならよかったのに。

 

かっこよすぎる。なんて切り返しだよ。

あなたが後悔したという20年さえも寄越せというのだ。なんという傲慢。なんという啖呵だ。むちゃくちゃですよこんなん。せっかくの助言も聞く耳持たず、後悔するなんて当たり前のように知っていて、けれど彼女は未来を信じていた。若気の至りとも言えるかもしれない。あまりにも早計だ。こんなアホなセリフ、まともな大人だったらもう呆れているはずだ。

でも人生の先輩として、そして”かつての瑠璃”として、逆瀬川の元妻として、彼女はとても優しい対応をしてくれていた。いや、言っても無駄だと理解したということもきっとあるだろう。死ぬぞと警告したのに自らそこに飛び込もうという阿呆にもはや何といえばいいんだ。「あの子が死んだら夢見が悪い」というセリフが出てくるほどには、瑠璃に対しての思いはあるはずですけどね。もしかしたら20年前の彼女も、今の瑠璃と同じ言葉を吐いたのかもしれない。

 

そしてそしてエピローグ。ここの余韻が抜群にいい。ほぼネタバレしちゃってるようなもんだがやはりここまで読んだ者にとっては、正否どちらであっても、おおきくため息をついてしまいそうなエンディングだ。複雑だけど自分の感覚を表すと、「あーあ。」ってのが1番近い。

人間描写がうますぎる。それはもう最初から思っていたことです。
表情に宿る力がなによりも雄弁に、そのキャラクタの苦しみとよろこびをこちらに伝えてくる。とくに瑠璃は終盤にかけてどんどんも罪深い表情をするになっていった。
そして合わせ技のように繰り出される、言葉という暴力性。惑いながらも自分に忠実に生きていく瑠璃という女性の内面をクッキリと浮かび上がらせてくれたモノローグ。巧すぎる。

エピローグが凄いのはひたすら表情で魅せるというラストシーンを描いたこと。
そして本作の特徴とも言える前述のモノローグを一切用いていないということ。
おだやかな空気のなかにいくつもの感情とドラマが潜んでいる。

そこにどんな思いが宿っているのか、読者は答え合わせができない。なにを思ってこんな表情をしている? そもそもあれからどうなったんだ? 他の人との関係は?

明かされない。なにも。読者に与えられるのは瑠璃と逆瀬川が通わすいくつかの平穏な言葉たちと、それから瑠璃が最後に見せてくれる不思議な表情だけだ。

「瑠璃さん」と逆瀬川が声を投げかけ、「はい」と返事をする。

ただそれだけなのに、何もかもすべてを捨て去ってここにたどり着いた瑠璃という女性のすべてが集約されている。家族、友人、環境、すべてを犠牲にして手に入れた幸福がある。でもなんだろう。ただ幸せだけがここにあるというのも違う。明らかな喪失感が漂っていて、読んでいると古い写真に吸い込まれたようなノスタルジックな気持ちになってしまう。
言葉と顔。シンプルがゆえになんとでも解釈できてしまえる絶品のラストシーンですね・・・。この短い数ページのエピローグで、いくらでも妄想できてしまう。

瑠璃の顔つきが、あきらかに変わっているのもやはり分かってしまう。逆瀬川が気に入った瑠璃は、こんな顔をする瑠璃だったのだろうか?そう考えると暗い気持ちにもなってしまうけれど、洗濯物を干す彼女をながめる逆瀬川の視線を見ると、まぁこれはこれでよかったのだろうかとも思っていしまう。グダグダ書いておいてなんですけど自分でもこれがハッピーエンドなのかとうか判断つかないんだマジで。メリーバッドというのが近いのかもしれない。

まぁでも、瑠璃という女性の変貌と生き様をここまで楽しく読ませてもらえたら悔いはない。素晴らしい読書体験でした。いやぁ。恋愛漫画っておもしれぇな。

コミックス3冊を並べると、カバーに使われているどんどんと青の色が濃くなっていっているのです。意図的であってもそうでもなくでも、そういうことにすらメッセージ性を感じてしまう。

 

 

そういえば、表紙のここはどこだろう。いや、”いつ”のだろう。

彼の好きな海辺の町でやさしく微笑みかける彼女の、その裏側に潜む強烈な独占欲。幾度となく彼女を焦がし、焦がし尽くした本能。あの純朴だった少女はどこへやら。けれどそんな瑠璃が大好き。どうか大人になって、この日々を回想し、彼女なりにいろんなことを思ってほしい。痛みと、世界のすみっこで祝福もされなかった恋の結末と、青すぎた19歳の日々を。

 

 

 

 

「どうしたら優しくなれたとおもう?」

 

 

 

潜熱37

 

 

 

 

 

わたしたち、健全なキョーダイです・・・よ?『キョーダイコンプレックス』1巻

キョーダイコンプレックス 1 (ヤングキングコミックス)

キョーダイコンプレックス 1 (ヤングキングコミックス)

  • 作者:9℃
  • 出版社:少年画報社
  • 発売日: 2018-08-17

童貞兄×恋愛経験豊富妹の群像系ホーム&ラブコメディ!

…と売り出すのはかなり危険な橋というか、じっさいこれでは詐欺にあたるのでは…ということでアマゾンレビューでもまぁブチ切れている人がいますが気持ちは十分わかります。わかった上で、個人的には好きな作品なのでこうして更新しています。

ブラコン・シスコンたちが複数登場する群像劇として描かれるのですが、恋愛対象として相手を見ているわけではない。つまりキャッチコピーとして言われている「ホーム&ラブコメディ」ですがホームコメディとラブコメディは完全に別…!!おいおい!妹が、兄が、姉が、弟が、恋愛対象じゃないなんておかしいだろ!!!という現実とは思えない日本語で怒りのツッコミをしてしまうことになってしまう…!!

個人的にもこの作品を買うにあたって、禁忌的な関係だったり緊迫感のある恋愛模様も見れるのではという期待から手を伸ばしたのも事実。

 

でもこれって作品の売り出し方が本質とズレてしまっているから起きてしまった悲劇なわけで、けっして作品として間違えているわけでもないし、描きたいこともきちんと伝わるんですよ。血の繋がりのある異性。人生のなかでも相当に長い時をともにする(ハメになる)相手との関係性だって、10組あれば10組ともがちがう。

キョーダイコンプ12

はぁ~かわいい。過保護なお姉ちゃんかわいすぎる・・・・・・
別に登場するすべてのきょうだいが別の相手とのフラグを立てていくわけではない。

十組十色の家族関係。
依存したり、過保護だったり、だれにも言えない気持ちを抱えていたり、案外ドライだったり。恋愛に限定しなくたって、ふたりの人間を結びつける感情はどれも皆オリジナルで同じものはない。家族愛、異性愛、共依存。いろんな感情が折り重なっているはずなのだ。

がッ……しかし…!一部の話だが……!!
これだけ兄妹仲を魅力的に描いておいて……!!
ラブコメの相手は別人ってそれアリか……!?

1巻読んでて終盤で妹ちゃんが部活の先輩の童貞メガネくんといい感じになったときビビり散らしましたけどね。兄に親しい女性ができた……その事に動揺に素直に祝福もできない妹……そこから畳み掛けられた別の感情!「毒が…裏返るッッ」烈海王かよ。NTRでもないのに勝手にそんな気持ちになって凹んじゃう全国のナイーブなお兄ちゃんたちが泣いてるぞ。

こうして読者が困惑したりかってに裏切られたような気になるのももしかしたら計算のうちかもしれませんけど、これは事前に知っておかないと人によっては怒りをいだきかねないミスリードなのでこの関係図を叩き込んでおくといい。(べつにすべての兄妹・姉弟がまったく別人に矢印が向いているワケでもないことも分かると思う)

キョーダイコンプ11

いや、俺はべつに真知ちゃんが和泉くんとくっつくのがイヤなんじゃない!そうじゃないんだ!ただ・・・でも・・・置いていかれるお兄ちゃんの気持ちも考えてって・・・そういうことだ!(情けなさすぎる)
そもそも経験豊富で重度なブラコンヒロインを攻略していく和泉くんをすげー応援したくなる。冴えないクソ童貞と小悪魔ギャルってカップリングとしてもたまらんすぎる。
大丈夫だ、この傷が癒えた先に、
激アツのラブコメ展開で俺はガッツポーズしてるハズなんだ・・・・・・!!

 

 

そういういろんな意味でこの作品をとても楽しんでいるんですけど公式側がリードをミスってるのでこういう書き方をしてしまいましたね。気分を害されましたらすみません。

複数のブラコン女、シスコン男が登場する群雄割拠の学校生活が描かれる本作。個人的に好きな一ノ宮兄妹のふたりですかね。ここは双子なので他とはまたちょっと状況が違う。彼らのシチュエーションはいちいちグッときますねえ、そもそも男女の双子ネタが好きなだけでもある。

キョーダイコンプ13

優等生でカタブツな兄と、奔放でいたずらな妹。噛み合っていないようでお互いにない部分を補い合ってる関係性がたまりませんねぇ。梨央は腹に一物かかえてそうな女ランキング1位。表面的に道化を演じてそうで、中身が信じられないくらい黒そうなので性癖にジャストミート。2巻ではもっと出てくれ~~~

そんなこんなの第一巻。キョーダイ同士のラブコメを過度に期待するとアレですが、キュートすぎる絵柄と時折ダークさが漏れ出てくる作風がハマる人はきっと多いハズ。最近いろんな雑誌で見返る注目の新人作家さんです。今後もチェックしていきたい。幸福も後悔も、いろんな表情を見せてほしいヒロインたち。

 

試し読み↓
http://comic.pixiv.net/works/4909

 

夜に静かに飛び散った、ぼくらのSNSミュージック『バジーノイズ』1巻

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

  • 作者:むつき 潤
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-09-12

 

しゃらくせぇ~~~~~~!!!でも好きなんですよねこういう漫画。ナイーブで、さみしげで、都会的で。シティポップを具現化したコミックスです。最近ので言うとSHE IS SUMMERとかLUCKY TAPESとかAwesome City Clubとかのライン。あとサチモスとかナルバリッチとか。この並びで

「キェ~~~~~!!!!!!」

「しゃらくせぇ~~~~~~!!!!!!」

ってなったらまぁはい。よしたほうがいいかもしれません。でも両方とも名曲です。オタクでも「ずっと真夜中でいいのに。」をネタに話すときに「おまえ・・・ど、どっち?」と相手の出方を伺うように、音楽も漫画もなにを嗜むかでマウントを取られかねないこの時代。大変な世の中ですよ。こちとら岐阜の片田舎に住んでんのにな~にがシティポップじゃ。眩しすぎるわ。

まぁでも、1話が試し読みできるのでせめてこれだけでも。↓

https://bigcomicbros.net/comic/buzzynoise/

のっけからエラくサクサク読めますよね。ずっとそんな感じです。コミックス1冊に1時間とかかけることもある俺もこの1巻は20分で読めた。でももう5回くらい読み返しちゃってる。

良くも悪くも空白がおおい作品なんですよ。絵的にも物語的にも、作風も。
余韻感じれたり、感覚的な感情表現とも取れるし、ひとによっては薄っぺらに感じられてしまうかもしれない。

とある番組で南海の山里が言ってた、嫌いな女の特徴の一つに

やたらと空の写真とかのっけて改行ばっかりのポエムブログをアップして自分にはアーティスティックな感覚があるように見せようとしてるけど改行とっぱらった瞬間に自分になにもないことに気づいちゃうのが怖いんですよそういうヤツは、ってアツく語ってたんですけど、

そういう類の「空白」なんですよ。

作品としてそう悟られてしまうのってわりと致命的だとも、思いますね。

(こういう改行)

でもそれ込みでも愛してしまう領域までこの作品は届いてるように感じる。ネットで無料でいくらでも音楽を聞けるこの時代だからこそ、こういうファッション感覚の軽さが逆にこの作品の持ち味になっている気がする。決して否定されるべき要素ではない。白地が多いことはスカスカだってことと同義ではない。

とはいえ軽いだけでは作品として長く読み続けようという気もなかなかなり辛いのも事実。1巻として空気感を見せる役割は十分に果たされているわけで、これからのキャラクターの深化に期待したい所。オシャレな見た目で、実はドロくさかったり情念がこもってたり、カッコよく取り付くまでもないほどの失態を犯したり、なんかしらフックようなものが欲しい。

作中でも言われていたように、イイカンジのカバーアレンジだったり弾いてみた歌ってみた踊ってみたってその手の創作は毎秒どこかで生まれ落ちているこの時代。ネットで一瞬盛り上がってすぐに消費されていくだけの存在からどう一歩踏み出せるかっていう所が、皮肉にもこの作品にも似たことが言えてしまう。3巻くらいまでのこの物語がどうなるかを見守って、そこできちんと自分の中でこの作品を評価したい。

でもこれだけSNS世代の現代的な作品でありつつも、装丁がばっちりと気合入っているのが嬉しい。CDジャケットのようなカバーもお気に入りだし、書籍としての存在感が抜群。完成された佇まい。デザイナーさんすごい。モノではなくデータで、なんなら無料でだって楽しめてしまうのはいまや音楽も漫画も同じ。だからこそ、実際に手にとってはじめて味わえる感動というのも間違いなくあって、いまやその”感動体験”に我々は対価を払っているのだと思う。リスペクトが感じられるような装丁がちゃんとしてある本は大好き。体験にお金を払うからいまやこんなに音楽イベントだらけになったんだもんな。

 

 

 

 

 

 

……さっぱり作品の説明をしないうちに話が脱線しまくってました。

マンション管理人の仕事をしながらこじんまりと自分のための音楽ライフを満喫していた主人公、清澄。しかしバンドマン好きのやんちゃヒロイン、潮の登場により、彼の平穏は大きく掻き乱されていく。とりあえず職はなくなり住まいも追い出されたので、流れで潮の部屋に居候中。

自分の部屋で自分のためだけに音楽を作っていた彼にとって、潮をはじめ、音楽の邪魔をする存在はすべてノイズでしかない。疎ましく感じているとき彼のそばには黒いモヤがぐちゃぐちゃっと描写される。

環境や感情におけるエフェクト表現がなかなか特徴的ですよね。さっきの主人公がストレスを感じたときの黒いモヤだったり、音楽が流れているのを表現する円形だったり。音の聞こえないメディアだけども、なんとなく雰囲気とか伝わってくるもんな。エフェクトの使い方をいろいろ模索しているようで、それを読んでいく楽しさもある。

BUZZY13

このシーン、主人公がとんでもなく落ち込んでるシーンなんですけど、ふだん外部に放出されているモヤが彼自身のなかで発生しているんですよね。そして繰り返される、自分を慰めるためのモノローグ。そしてノイズでしかないはずのモヤが、視界を埋め尽くしていく…。ノイズ表現がたんなる彼のストレス表現だけではなく、彼を縛り付けるものの象徴としても描かれる。

主人公は清澄はきほん悲観的です。音楽で儲けようなんて思っていない。一般の仕事をして最低限の収入を得て、ただ一人遊びに高じていたいだけ。彼の言う言葉はとてもリアルなのです。SNSや動画サイトを中心として、あたらしい音楽を発信するもキャッチするも恐ろしく容易になった。ネットにあふれるアマチュア音楽家たち。そんな時代に音楽で食べていくことがどれだけ困難か………まぁでも、音楽で食べていく現実をこんなに語れるなら、清澄もいちどは考えてしまったことがあったと思うんですよ。好きなことをして生きていく。…一握りの人にしか許されないそんな夢を。けれど現実を見て、諦めたのだ。

彼は音楽を本気で本当に好きだけれど、だからこそ距離を取りたがる。音楽だけで生きていないけれど、それが叶わなかったときが恐ろしい。真っ当で最小限に暮らしと、”ただの趣味だし”って言葉で自分を守る。現実を、悲しい言葉で卑下する。純粋に音楽がしたいだけって言葉もきっと嘘じゃない。でも挑戦なんてはなからしようとも思わない。そういうリアルな若者像が見せつけられる。きっとこの日本に、同じようなことを言っている人が3万人くらいいる。

でも潮ちゃんがいい娘なんですよ。空気よめねーけど。いい娘なんですよ…
ゴチャゴチャ評論家気取りの小難しい千や万の言葉より、
いっこの「すき」が最強だったりする。

BUZZY11

彼女が勝手にSNSでアップした清澄の演奏が、しずかにSNSで拡散されていく。電波に乗らない伝播こそ、今の時代の象徴と言えますね。ふとんでゴロゴロしながらスマホのスピーカーで聞く、切り取られたたった数十秒。favしてRTして、人から人へと手動で届けられていく。たったひとつのtweetが、夜に静かに飛び散っていく。
狭い部屋の小さなマシンから、届くはずのない彼方まで。

自分もよくTwitterでMVだったり演奏動画を張りますけど、あるいは見てくれている人に届いてくれたらいいな、好きなものを共有したいなという思いもある(個人用のアーカイブでもある)。そういう点でこの作品で見ている風景は本当に毎日みているものだから、ちょっとおののく。

広がりだした彼の世界は、ちょっとだけ鮮やかに、たしかに騒々しく。
今の彼はきっとノイズすらも音楽に取り込んで見せる。愛すべき傍らの喧騒。

 

BUZZY12

 

 

あとは・・・スペシャルサンクスに地下室タイムズがあるので、うまいことメディアを使ってしゃらくさい音楽好き内でバズってくれるといいんですが。俺もあのサイト大好きなんですけど、あのサイトからバンドを知ったとバレたくないっていうサイトなんですよね・・・あたらしい音楽の発掘にすごく助かるサイトなんですけど・・・「あっお前地下室タイムズで知ったクチ?」ってバレたくないじゃん・・・・・・とかそういう面倒くさいこだわり持ってるしゃらくさい連中におすすめです。(話題が狭すぎる)

 

 

 

 

乱反射する恋模様がエモくてキツい『初恋ゾンビ』13巻

初恋ゾンビ (13) (少年サンデーコミックス)

初恋ゾンビ (13) (少年サンデーコミックス)

  • 作者:峰浪 りょう
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-09-18

 

そもそも初恋という概念がひとのカタチを持つというこの作品の性質上、恋心という不確定なものを繊細にあつかおうとする作者の義務感のようなものを常々感じていたのだけれど、いやはやここまで入り組んだ物語になっても鮮度の彩度も圧倒的。のけぞるしかない。初恋ゾンビ恐るべし。いまもっともエモがキツい少年誌ラブコメはこちらになります。

前作「ヒメゴト」はガチのマジで俺の人生オールタイムベスト10に入りそうな大傑作なのですが、正直いって連載始まって1年くらいまで初恋ゾンビについては、もちろん好きな作品ではあったけれど前作ほどに響いていたわけではなかった。

しかしやはり峰浪作品はキャラが成熟し関係性がこじれてからのストーリーが爆発的に面白くて魅力的!初恋ゾンビ、明らかに今が一番おもしろい!!!

とにかくこの13巻、いや12巻の時点でクリスマスに向けて物語は練り上げられていたわけなのだが(主人公の誕生日という美味しい設定まで付け加えて)もうラブコメの美味しい所だけ盛り付けちゃいました、な一冊になってしまっている。霜降りはひときれふたきれ食べるのが旨いのであってこんな山盛り持ってこられてもね、胃もたれしちゃうっていうか。こっちも歳なんで・・・あれ全然平気、おかわり! てなもんです。(何が)

(人間の)メインヒロイン2人ともが恋を自覚し、それぞれにいじらしく切なく顔を赤らめまくっているのが最高すぎてよくやく物語はここまで着たかという達成感と魅力的なヒロインたちを眺めることができる幸福感と一筋縄ではいかないこの作品ならではのセンチメンタル・モノローグに俺はもう「にょほほ~~~~~」って鳴くことしかできなくなった。

ゾンビ134

にょほほ~~(泣)

この巻は江火野さんのがんばりがとても印象的でしたね。観覧車デートにまでこぎつけちゃいました。多少強引だけど、幼馴染という関係から一歩先にすすむにはそれしかない・・・。それで明らかにタロウも気持ちが揺れちゃってるんですよね。あきらかにソワソワと様子がおかしいふたりにニヤニヤがとまんねぇな・・・・・・!!

恋心を自覚してからの彼女は本当に女の子らしくて魅力的ですよね。なにをしていてもタロウのことが脳裏にちらついちゃってるような様子とか、前までどんなふうに会話していたのか忘れてぎこちなくなっちゃったりとか、何気ないワンシーンに緊張と高揚があって、ひたすらに尊い。

話を戻して、観覧車デートなんですが、まぁよくもこんな読者のテンションを叩き落としてくれやがりますね。しかしそれでこそだ。正直、性急すぎた。これ以上ないタイミングだったかもしれないけれど、タロウの気持ちが追いついていなかった。駆け足すぎたがゆえの悲劇。セツナレンサ。優しくないけど僕たちは、誰かを守ってみたいんだ。

ゾンビ132

ここで「ギク・・」だったんですよね。「ドキ・・」じゃなくて。

心臓の鼓動は確かだ。けれど表現の面白いところで、歓迎されるものではなかったような、タロウの気持ちとしては「ときめいちゃいけない」という後ろめたさまずあるのです。「ギク」っとしたことをまるで誰にも悟られまいと、タロウはそうして彼女を遠ざける。
見たことのない彼女の横顔に戸惑って、はねた心臓の意味を怖れて。
そして彼自身も傷ついて、砕け散る。

ここまで書いてもしかしてバレたかもしれないんですけど俺は江火野さん推しです。

でも物語としてきっと正しいというか、解決させてあげなきゃいけないのは指宿くんのほうだとも思う。それは恋愛の成就というカタチであってもそうでなくても良いのだけれど、「初恋ゾンビ」という作品が内包している性やノスタルジーや「初恋とは難儀なものよ・・・」みたいな男女のしみったれた感情のすれ違いや、そういったテーマにもっとも近くにいるのが彼女だから。

いちばん苦労して、いちばん臆病で、いちばん誰にもいえない恋をしている。指宿くん。ストーリーが進むに連れてこのキャラクターの肩に降り掛かってくる苦悩や悲劇がましていく。重く冷たくなっていく。けれど彼女自身はどんどん熱をましていくのだ。いよいよタロウへの恋を自覚し焦がれていく。

けれど13巻の彼女を語るには、同時にイヴというキーキャラクターについても書いておきたい。初恋ソンビという存在が帯びる神秘性やミステリーが本作のリード要素に感じるのだけど、その部分においてもこの13巻は目が離せない。

 

ゾンビ133

怒涛の展開を迎えた13巻はイブと指宿くんという、実質”もうひとりの自分”との対話シーンでまさにクライマックスを迎える。もはや独立した人格を持ち始めたイヴと、そのオリジナルである指宿。奇妙な関係のふたりだが、いまその心は不思議なほどに重なり合い、水底に沈んでいくような悲壮感を漂わせていく。イヴの行方にはどんな未来が待っているのだろう。

 

イヴはいぜん絵画に入り込んで姿を消した初恋ゾンビにひどく感心を抱いていたことがある。おそらく初恋が昇華された象徴のようなものだろう、具体的なエピソードと主の思い入れがあるモノに初恋ゾンビは入り込むことがあるようだ。初恋の人を描いた絵画に。あるいは思い出のプレゼントに。

本来初恋ゾンビはその恋が実れば光となって消え、主が失恋すれば悪化し周囲に危害を及ぼす存在。それがイレギュラーとして、恋実らずとも本人が満足したうえで初恋を終わらせることができたとき、その恋を象徴するアイテムに入り込んでいくことがある。

思えば、初恋ゾンビは主を大切に思う(思ってほしいという主の願望込みだが)存在であるが触れることはできないという、不確かであまりにも切ない存在だ。初恋は実らない、手が届かないものだというがまさにそういう意味合いもあるのかもしれない。

しかしアイテムに取り付いてしまえば、それはきっとゾンビたちにとってのひとつのハッピーエンドなのだ。だってそうすれば主からずっと忘れられないだろう。ふとしたときに優しい切ない表情で、その思い出の品を取り出し触れるだろう。懐かしむだろう。きっと死ぬまでだってそんなシーンはあり得る。ゾンビでなくなったことで、大切な人にずっと大切にされる未来がある。その恋は実らず消えた後にも、きっと主は大切な思い出として一生を添い遂げることができる。

けれどイヴがいう「どんな姿になっても傍にいられる方法」という言葉は、あまりにも重く響く。けしてそれが最良だとは思ってはいないのだ。けれど主であるタロウの幸せを願うからこそ、彼女は苦しげにその言葉を紡ぐ。

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8巻収録の第74話にも語られたことだが、初恋ゾンビは恋の成就をみとどけて光となって消えることが本懐であるとキョウコが叫んでいた。それこそが私にとって本当に望むべき幸せだったと。

初恋ゾンビは常に矛盾を抱えたアンビバレンスな存在なのだ。消えることを望むのか、ともに歩むことを望むのか。ともに歩むと言っても初恋ゾンビにとって主は触れもしないし通常であれば見つけてももらえない。ただ寄り添うしかできない。そして多くの場合、主は別のあたらしい恋を見つけ、初恋ゾンビは悲しく眠りにつく。

そう考えるとその恋の締めくくりに思い出のアイテムに憑依する、というのは初恋ゾンビとしてはハッピーエンドとは言わずとも、グッドエンドとまでは呼べるべきフィナーレなのかも知れない。俺にはないけれど例えば初恋にまつわる思い出の品、借りた漫画本とか水族館のお土産とかペットボトルキャップのおもちゃとかもらったハンカチとか手袋とか、ラブレターとかきっとそういうものに宿って、今でもその人が初恋を懐かしんでしまうのは初恋ゾンビのせいだったりするのかも知れないよな。

 

そんなもうひとりの自分=イヴの内面を受け止めた指宿くんが・・・あまりにも切ない。こんなにもイブを苦しめているのは己にも一因があって、そしてイヴが1番に願ったことを聞いて見せた指宿くんの表情があまりにも鮮烈。

仮に指宿くんとタロウが結ばれたときにもイヴは苦しむだろう。「わたし”たち”は幸せになれない」というモノローグにも現れているように、指宿くんの悲しみはいたるところにある。想い人に振り向いてくれないことも。ひとりの自分を、どうしても自分には幸せにすることができないことも。そんな悲しい運命をすべてひっくるめて、イヴとふたりで生きていきたいと願う指宿くん、あまりにも辛い・・・・・・

 

それぞれのヒロインは恋を自覚し変わっていった。いや変わろうとしているさなかだ。対してタロウは、特にこの13巻で非常に印象深くなってきたのだが、明らかに保守的。省エネ男だから? 違う。彼は明らかに恐怖し、怯えている。

それは逃避のように、新しい感情やとまどいを自分のなかに見つけるのを恐れ、目も耳も塞いでときには人の言葉すら遮って、初恋を大事に大事に守り続けている。まるで自分にはそれしかもう残されていないかのように、『嘘と願望の防腐剤でコーティングされた』初恋ゾンビにまるで追いすがる。自分がいままで大切に温め続けた初恋だけをだきしめて、心を閉ざしていく。

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初恋を捨てるなんて、そんなことできる?

今までの自分のすべてを否定するような、そんな残酷な真似を。

ヒロインの恋愛感情の加速が思わぬ悲劇をうみ、主人公は心を閉ざし・・・明らかにメチャクチャ面白いし目が離せないんだけど、ラブでコメ漫画のコメディ部分がだいぶ薄くてかなりシリアスな1冊となっていました。いいぞ、もっとやれ。

それぞれの感情が入り乱れ、それぞれが不規則に変化しながらも重なっていくつもの色彩と、美しい風景を見せてくれる。まるで乱反射する光りのように。

初恋という名の呪いに囚われ続ける人々の、奇妙でいとしい物語はいまひとつのピークを迎えている。もしや完結か?とも感じたけれどいやいや物語は続いていく。

#絶対に最高の初恋にしような

 

・・・むりかな。むりでしょ。

 

 

本当のきみなんて要らなかったのに。『なくてもよくて絶え間なくひかる』

なくてもよくて絶え間なくひかる (裏少年サンデーコミックス)

なくてもよくて絶え間なくひかる (裏少年サンデーコミックス)

  • 作者:宮崎 夏次系
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-08-17

 

夏次系の清純派。それがこれだ『なくてもよくて絶え間なくひかる』。

コンプレックスや不全感、くだらないこだわりに囚われたりはじめての感情にがんじがらめになって空回り、そしてどうしょうもなく誰かを求めては傷つけてしまう残酷な季節。思春期の災厄と魔法がこれでもかと注ぎ込まれた、高密度の青さを誇る一冊。

俺は夏次系が大好きなのでもはやこの作品が一般的にどう評価されるようなものなのかマトモな判断がつかない状況ではあるのですが、
・読み心地の良さ
・この作家さんならではのトリッキーな構成
・リアルな学園を舞台にしつつ、少しだけファンタジーが入り交じる世界観
・ディスコミュニケーションと、眩しいボーイミーツガール
などなど、夏次系作品のベーシックな要素が詰め込まれている、王道と呼べる仕上がりなのではないかと思う。悪く言えば、過去の作品集で、それぞれの要素をより濃縮したマテリアルが発表されているのだけれど。小学館という新しい舞台で発表された作品であることも影響してか、非常にストレート(メッセージを掴み取りやすい)でここから作品にふれるという人にとって優しい・・・のでは・・・ないだろうか・・・いやわからん・・・・・・・・・

冴えない男子高校の主人公、並木くん。内省的な彼は脳内に大切なオリジナルキャラクターがいたのだけれど、ある日それをまったく同じの意味不明な名前の少女に出会ってしまう。ゴールデンユキコ。このゴールデンが儚げな美少女ビジュアルに反した超絶わがまま性悪少女なもんで、並木くんはずっと振り回されてしまうのだ。

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孤独だったりやりきれなさだったり自己嫌悪、あるいは自己憐憫・・・見て知れる半径が小さすぎる思春期。なんなら自分のなかみすら計りきれないのに他人のなにを分かるというのだろう。なにを思いやれるというのだろう。並木くんは本当に接し方がへたくそで、そんな不器用な彼が適当にゴールデンさんにあしらわれていくのを見て笑いもするし、切なくもなる。伝えたい物事が伝わらない瞬間のひんやりとした絶望感・・・。

 

ボーイミーツガールという要素のほかに、本作はテーマのひとつの親との関係性を思春期の彼らがどのように乗り越えられるかという事もあるように感じる。主人公だったりヒロインのユキコさんだったり、いやそもそも過去の作品でもよく見られることだけれど。少年少女にとって身近な異生物、コミュニケーションを取りづらいもやもや~っとした空気感がいいスパイスになっている。そこの窒息感がだれかを求めたいという原動力につながっているんですよね。親からの承認というのは本当に重要で、それがないと自分が何者かもわからなくなるような不安定さが10代の味なんだよな。

それにしても並木くんの父親も母親もクセモノすぎて、そりゃ居場所もなく妄想にふけるようになるわ・・・という納得がある。けれど作品のトリックが明かされた後に思うのは、両親の言葉というのは本当に彼ら自身の言葉なのだろうかということだ。どこかにひとつ、主人公の被害妄想というか、自覚している言葉が散りばめられているような気がして仕方がない。それがどれかは明かされてないのだけれど。(終盤のおじいちゃんの”オッケー。”もうるっと来る)

第12話で明かされるトリック、どこからが現実でどこまでが妄想だったのだろうかと、その境目が見えなくなる瞬間。そこで一旦、信じられるものが何もなくなる。どんな言葉をぼくは言っていた?誰といっしょにいた?ぼくの気持ちはどれが本当?

そこに残酷ながらも答えを与えてくれるもうひとりのキーキャラクタ、竹智さん。

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全部本当なんだ。きみとぼくの間の失敗はもう取り返しがつかない。深く傷つけた涙は忘れようもない。嘘であってくれよ。でもなんともならないんだなこれが。

並木くんが夢中でゴールデンさんにしっぽを振っているとき、その様子に惹かれてしまった不憫な悲恋体質女子。いや、俺はこの娘に完全に堕ちてしまったんですよ。上記の涙目のシーンもそうですけど、悲しげな表情やしぐさが抜群に似合う、夏次系ワールドの具現化ヒロイン。それでいてコミュ障・並木くんでは振り飛ばされそうなスピード攻勢よ・・・!なんやねんペロッて!!

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はぁかわいい。ふざけんなよ並木。彼女こそ幸せにしてくれよ。いや並木くんじゃムリかな・・・

彼女が別れ際にいうセリフがとことんいいんですよ。

並木くんは・・・きれいなものばかり見てるから
見つけたらずっと見てるから
私もそういう人になれるかと思ったの
並木くんと同じになりたかったの

それはもう、妄想してばかりだった僕をどれだけ救う言葉か知れない。それしかしてこなかった僕を見つけて、その横顔を見ていてくれていたのだ。けれど僕はきみのことを見つめることができなかった。あまつさえ、性急に体を重ねようとして失敗までして。でも決して性欲だけじゃなかったはずだ。なんでもできる気がしたのに。美しいものに、なれたかもしれないのに。

『並木くんと同じになりたかった』というフレーズの重みが凄いですよね。こんな肯定的なことばある? 自信のない思春期のしみったれた男子に、こんなに響く救いあるか?

美しいものをただ見つめている人に。互いを見つめ合うより、おなじうくしいものを見つめていられるような「同じ」になりたかった。でもそれは叶わない。だって彼は彼女を、本当に見てはいなかったから。本当がほしかった、けれど見ようとしなかった。一方的な関係に過ぎなかったのに、並木の意思が弱かったせいで竹智さんを傷つけた。あの日、部屋に父親が乱入しなかったらなにか変わっただろうか?ゴールデンユキコがゴールデンユキコなんて名前じゃなかったらなにか違っただろうか? そんな無意味な現実逃避すら慰みにならない。致命的なすれ違いと、本心から向き合った結果の破滅だった。

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ゴールデンユキコと、天井をただ眺めただけの夏の日。物語の終盤は、ほんとうのゴールデンユキコを並木くんが探していく物語になっていくのだけれど、その一幕だ。竹智さんとの物語を終えた後にくるもんだから、こんな質素なシーンにすら感じ入ってしまう。泣ける。ただ静かに肩を並べて寝そべっている。それだけなのに、ボーイミーツガールとしての密度が上がるとこれだけで最高にエモーショナル。このとき、彼女は喪失の予感を抱えていたはずだ。それなのに、静かなその横顔にそんなのもの色ひとつ見つけられないのだ。

終盤はほんとうに名言で殴りつけられてくるのでメンタル弱ってるときに読むことは絶対におすすめできない。昂ぶった主人公が、いつもだったら目を背けているはずの事実をほとんど自虐みたいに確かめていく。自傷行為でしかない。

すげえな、お前。 ひとりでも大丈夫だったんだ、お前。 結局。

悲しがることに浸って肥大化した男の子。喪失、強烈な孤独。これまでの夏次系作品でさまざまなキャラクターが陥ってきた毒の沼。孤独という神経毒。隠しきれない傷で自分も他人も理不尽に傷つけて闇は広がっていく。でも本作は、ゴールデンユキコというキャラクタのもつ生命力にすごく救われているように感じる。彼女は本当につよい少女なのだ。儚げなビジュアルに反して、たくましい。ある意味、コテコテのツンデレとも言えるのだけれど、夏次系先生が描くとどうしてこんな特別な佇まいに描かれてしまう。特別な存在感を纏うのだ。

 

冒頭に述べたとおり、ボーイ・ミーツ・ガールとして魅力的なエネルギッシュさと、作家性が色濃く現れた親密なネガティブ感情、そこに翻弄される若い魂たちの行方が魅力的に描かれる。夏次系先生1冊まるっと描かれた長編でもあるわけで、ここから夏次系ワールドにふれる人にもおすすめしたい。このナイーブな透明と青の世界観に惚れ惚れしてしまうんだよ。本当に。

本作はとくに主人公が妄想の世界に浸りまくるうえにコミュニケーションもろくに取れない、情けない状態の少年なんですけど、そこで共感できる要素が大量にある。そこから主人公がちょっとずつ進歩していくもので、思わず涙腺が熱くなってしまうのです。ヒロインも2人共が魅力的。

カバーイラストのような真っ白な世界に、言葉だけが漂っているような、少なくとも自分にはひどく染み込む物語でした。この作品にピンときたら過去の短編集はだいたいどれも行けるのでは。

 

本当の君を見つけたい。この現実で。その勇気を持って。
ぼくの描いたくだらないパラパラ漫画の起こした小さい風がきみの髪を揺らしたとき。
あるいは君と手をあわせたとき。

本当のきみなんて要らないはずだった、きれいなものばかりを見ていた僕だから。

 

 

 

 

 

 

 

なくてもよくて15

裏サンの背表紙のロゴが絶望的にクソ邪魔オブ邪魔でなんとかしてくれ。

 

知りたい触れたい確かめたい、世界のはてより君のなか。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』7巻

女の子たちのどこまでもゆるゆるなクソ平和。その僅か数ミリの裏側にまで忍び寄るアポカリプス。正直面白すぎるし頼むからもっと刊行ペースあげてくれ~~~~~~~1年3ヶ月ぶりのデデデデ新刊がこちらになります。いやでもスペリオールに掲載された読み切り「TEMPEST」も面白かったですね。他にもいろいろ同時進行で描いているのでペースアップは難しいのだろうか。

今回のカバーイラストはマコトくんだ。真打登場の感がある。しかしこうなると次のカバーの予想も難しくなってくるな。男子が解禁されてついに大葉くんか?

後半戦に入って世界の秘密も明かされつつある本作。なにか、なにかとんでもないことが次の瞬間には起きていそうな・・・日常を脅かされるギリギリの緊張感がたまらない。焦らしに焦らしてくる!狂い続ける世界と、ふつうであり続ける少女たちの日常のギャップがどこまでも魅力的。でも徐々にその境界線はおぼろげで融解しつつある。非日常は彼女らの空間にまで染み出してきている。

明らかに世界はマズい方向に突き進んでいて、けれどだれもその流れを止めることができない。当たり前のように日は昇って沈んで、誰かは誰かを好きになって、あるいは殺して、どこにでもある日常であり続ける。終末と隣合わせの平穏。

 

 

 

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まぁそんなことはさておき季節は夏!!オタクども水着回を拝み倒せ!!ビレバンで買った怪しいレコード会社のクラブミックスCDかけながらレンタカーで飛ばせ!!!いやそんなシーンはなかった。水着回がありがたいのは本当だ。

デ72

実はさっぱり泳げないカナズチおんたんかわいすぎません?

前回でポチャった門出もなんとか海までに脂肪を絞ること成功していてよかった・・・っ!まだ若干腹回りがふくよかだけど!そこがかわいい。お前ら本当に大学生かよってくらい、無邪気だ。

うお~~~~~~夏!! きっとこれで最後の夏。読者はさんざんビビらされてるんですよ。地球滅亡までのカウントダウンまでブチ当てられて、こんな晴れやかな夏のひとときをどんな気持ちで眺めていればいいんだ。残酷すぎやしないか。

デ74

モノローグでも触れられているけれど、これから先どうなるんだろうという言い知れぬ恐怖が脳裏につねにチラついている。きっとみんな。この時代に生きる者としての宿命として。けれどどこまで深刻に考えているのかは人それぞれだ。”彼女”は人一倍敏感に、終末の匂いを嗅ぎ取っていた。次の夏ははたしてあるのだろうか。私達の未来はどうなっていくのだろうか・・・

そういう不安を胸にしながらも「普通の夏」を思いっきり満喫する。水着回だなんてはしゃいでる場合じゃない。こんなの、最後の晩餐に近い。覚悟を持って読まざるを得ない。こういう緊張感がこの作品の醍醐味とも思うのですが、巻を重ねるごとにエモさもその裏にある破滅の予感もどんどん強烈になってきて、非常に心臓に悪い。いろんな感情が走りすぎてもう道路は渋滞中。

おんたんの絶叫告白、あそこはもう震えるしかなかった。この時代この状況にあって、数奇な偶然から出会った2人だからこそたどり着いた結論だ。けれどその想いを成就するにはあまりにも壁は高く厚い。ふだんフザけ倒している彼女の胸の内に、こんなにもあつい感情があるのかと動揺しつつも嬉しさも爆発してしまうよ・・・。よく言ってくれた・・・!!5巻の唐突なキスから何歩も進んだ。ゲーオタ少女にもついに恋する季節が。けれどその相手は。そして世界はもう。ああ。ああ・・・もう、世界の残酷さを思い知る。

少女らしい甘酸っぱい彼女は空気を読んでピエロを演じているのだけれど、ふたばちゃんに真面目に反省を促した彼女の表情からもわかるが明らかにこの夏にスイッチが入ってしまっている。おんたんのそういう仮面キャラというか、筋のある2面性が本当にたまらん。しゅき。

でもおんたんも、全部しらなかったフリして全部なかったことして、恋に没頭して逃げ込むことを良しとしないまじめな女の子で本当に眩しい。世界なんかどうだっていいから君のことをだけを知りたいのに、だってその君が、世界をどうにかしちゃう厄介者なんだから。未来よりなにより、君のなかみを知りたいのに。

「だってそれじゃ、大葉がいない世界って事じゃん。」

平和な世界より、こんな終末にあっても出会えたことを嬉しく感じてしまうくらい、あまい熱に浮かされているのに。

 

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そして物語はおんたんの秘密にクローズアップしていく。というのも7巻クライマックスで明かされたのはかなり衝撃の事実で、物語の根幹を揺るがすものだ。そしてそのカギはおんたんが握っている・・・!

たしかに気になって読み返してみれば過去にも気になるシーンがあるある。やはり伏線は初期から張られていたというわけだ。その大仕掛けを明かしたということは、いろいろ作品も終盤に差し掛かっているのだろう。

実は思っていたよりもずっと昔から宇宙人は地球にやってきており、ひそかに人間をのっとって生態調査をしていたという。そしてそれをさらに上回る、おんたんの秘密。上記のシーンでもおんたんは自らの記憶に違和感を覚え、苦しみを見せている。消えた、あるいは消された記憶に、世界の命運がかかっている可能性が高い。

ここにきて若干のループモノ感が出てきた。宝田の正体は果たして?っていう言及が作中でもされたが、たしかに進行中の空中都市避難計画である母艦「Osean」って、つまりこれ奴らが乗っているUFO母艦と同じなのでは・・・?そして54話で語られた宇宙人たちの真の目的を照らし合わすと、つまりいま人々が殺して回っている侵略者とは、かつて地球から飛び出した人間の末裔が進化した姿だったのでは、という推測が立つ。彼らからすると地球に残してきたかつての仲間たち(地球人)が思いほかに強く進化しており、宇宙から帰還したところ為す術もなく殺されまくっているということになる。(元)同族同士で殺し合っている・・・虚淵脚本かな?

いよいよ全貌も見えてきちゃったかも知れない。しかしそうなるとおんたんの秘密がいっそう気になるし、そもそも大葉くんはどういうスタンスで地球にいるのだろうか。地球人を関係を築きつつある彼の動向こそがすべてのカギか。

全部ぜんぶブッ壊れちゃうデストラクション、もしかしなくても、もう目前。なんとかしてくれ神様よ。おんたんや門出やみんなが、どうか笑顔でいてくれる結末を。あるいは終末を。