付き合わないよと笑った 君と ならんで帰った。『セッちゃん』

 

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

  • 作者:大島 智子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-11-12

 

セッちゃんの「セ」は  セックスの「セ」だった。

セッちゃんを見守るようにそばにいるようになったあっくん。ふたりの大学生活をゆるく描いていく作品。けれど第一話の冒頭から示されているように、抗えない圧倒的な暴力性が内包された作品でもある。

いろんなところで見かける「あの絵」の人、大島智子さんの初の漫画作品。ヴィレッジな波動を感じたならそれは正解です。俺の大好きな、しゃらくさい漫画です。

この作家さんを最初に知ったのってなんだっけと思い返すと、たぶん泉まくらのMVでしたね。

 

こんなにデフォルメされたかわいいイラストなのに、なんでこんなに切ないんだろう。女性の生活感とか、だれにも見せないかわいいところとか、メチャクチャかっこ悪いとところか、なんかぜんぶ空気で伝えてくる絶妙の筆致。たまらん。

そもこの表紙もいきなり心を掴まれてしまう。色彩のうすいぼんやりとした曇り空としずんだ街、まっすぐにこちらを見つめる女の子と、少しだけ赤いほほ。

初の漫画となった本作。やるせなくて、キラキラ光ってて、夢見てるみたいにふわふわしてるのに痛いくらいに鋭いリアルが描かれている。こんな優しいタッチなのに描かれるのは性と暴力の世界についてだ。喪失感と浮遊感で胸がいっぱいになる。

連載は読んでいなかったのでこのコミックスで初めて読んだのですが、おもわぬ方向性に進んでいく物語にハラハラしてしまった。こんなゆるふわでドリーミーでポエミーでラブリーなのにあっさりとテロで人が死ぬ。緩急つけすぎだし速度も出すぎである。でもこのコントロールされきってないテンポ感も魅力だ。

 

なにより魅力的なのは、ムカつくけどこういう大学生活に憧れたなぁ、という憧憬だ。くしゃくしゃのシーツ。コンビニ袋にはいったままのジュース。片付け忘れた洗濯バサミ、薄着の彼女が眠っていて。0.02mmのパッケージとアポロチョコ。それが当たり前のようにそこにある。とても俗っぽい。とても生っぽい。この生活感とエロスが完全に地続きになっていて、そこに感動がまるでないことが感動的。

セッちゃんとあっくんはたぶん似た体温の持ち主だ。あっくんは幾分器用なので、自然にふるまうことで「こっちがわ」でい続けられる男の子だ。本質は非常にドライで、虚無を抱えている。

あっくんとセッちゃんは同じように空白を胸にかかえていて、その虚無が反響しあうように心が接近していく。互いにパートナーがいるので、それは恋ではないけれど。

セッちゃん1

くだらないことをしているって見抜かれて、そして共有できてしまう。静かな空間に強烈なシンパシーでつながっていく。

 

大学生にとっての『リアル』ってなんだろうと考えた時に、周囲となじめないコミュニケーションだったり、足りない単位だったり、彼女と汗だくックスがしたいという夢だったり、なにかの思想に取り憑かれてしまうことだってひとつのリアルだろう。

この作品はちょっと前にネット上でも盛り上がってたSEALDsをモチーフとしたような描写がかなりあって、その時点で俺は「ゲッ」と思ってしまった。そういうのに極力触れたくなかったので。彼らの思想の是非なんてどうでもよくてそういう刺激を受けたくなかった、考えたくなかったというのが正しい。だって怖かったのだから。

個人的にネット上で政治的なことを極力言わないように意識はしてますけど、それは自分はなんにも考えてない上に学もないアンポンタンなのがバレてしまうので余計なことは言葉にしないというのが大きな理由なんですね。なにかしたい、なにかで自己表現したい、鬱憤から開放されたい、でも何にも手に付かないというエネルギーばっかり溜め込んだ若者がネットで蓄えた知識で勝手な正義感で達成感を味わえちゃうのは分かるので、俺も違うスイッチが入ってたらハマっていたのかもしれないという恐怖はある。宗教とかと同説に語るのは違うけど、興味ない人種からすると同じだけ近寄りがたくて、けれど意外とすぐそばにあったりする。

というか大学の時、巻き込まれてデモの紛い物みたいなのに強制参加させられたりもしましたね。名古屋でプラカード持たされて。なんだったんだ。速攻抜けて映画館でアニメ見た。まぁ、そういう活動がある大学というのは調べてみると案外珍しくはないみたいです。最初やべーとこ来ちまったと思いましたけど。

 

 

脱線しましたが・・・そういうリアルを思い返すに、この作品に描かれているようななにか使命感に燃えてデモ活動をしている若者たちも、団体がエスカレートしだして「犯罪まではするつもりじゃなかった」とびびりだす群衆も、達観してか興味がないのか頭が悪いのか「なにやってんだろ」って後ろから冷めた目でみてる人々も、みんないっしょの世界で生きていることが本作ではストレートに表現されているなと改めて感じる。

セッちゃんの乾燥した生き方とそれは対象的だ。デモに参加する若者たちは意味不明なエネルギーに満ちていて、怒りと使命感に突き動かされていて、世界を変えようとしていた。セッちゃんはそんなこと望んじゃいないしきっと考えたことなんてなかった。いつだって彼女は、周囲に自分を受け入れてもらおうと必死だった。
弱い生き物だった。

セッちゃんはそういう忙しい世の中からずっと置いてけぼりにされて、ずっとズレちゃってて、へんな目で見られて、少しずつ生きづらくなっていって、そして息が続かなくなってしまった。かわいそうな女の子だった。

主人公も述べているが、あのタイミングでなくても、誰かの殺意に選ばれてなかったとしても、たぶん彼女のこの世界にうまく適合することが出来なかっただろうと思う。

やさしくされた。だからお礼にセックスをした。
それは彼女にとって当たり前のことなのに、まわりなそんな彼女をみて小馬鹿にしたりあるいは近寄りがたいを感じたり、あるいは下心を持って近づいたり、彼女はひたすら周囲から搾取されていく。それが彼女にとって1%の幸福だった。決して満たされない、けれど一瞬心が安らぐ瞬間だけがほんのすこし彼女に居場所を与えていた。

描かれるセッちゃんはふわふわと空気みたいにそこにあるだけの存在で、意思はなく、誰かまかせの日々をずっと送っていて、セックスばかりしているのも誰かから求められることに真面目にきちんと応えてしまっていたからだ。
居心地がよければそれでよかった。愚かだった。でもそれって人にとっての1番の「ほんとう」だと思う。
切実で、ときに最も得難いものだと思う。
居心地を求めて生きてるよ、それだけだよ本当に。

セッちゃんのことを100%理解なんてできない。理解できたらきっと俺は安心できるのに。なんでこんなに胸がざわつくのか、理由を知ったら俺は「なるほど」って落ち着きを取り戻して、たぶんもうすぐセッちゃんのことを忘れてしまうだろう。
希薄な女の子だった。

 

セッちゃん3

 

大好きなシーンだ。セックスしなかったね、なんてわざわざ確認しあったりして。
あんなに縋っていた肉体のつながりなんて要らなかったのだ。たしかにセックスは楽だった。それだけしていれば「ありがとう」も「ごめん」も要らない気がした。身体だけで安らげた。けれどいまセッちゃんはそんなことをしなくても通じ得てしまったのだ。そんなことをしなくても男の子を好きになれたし、好きになってもらえたのだ。まるで冗談みたいに。

。もしかしたらこの時点で彼女は「セッちゃん」ではなくなってしまって、だから物語からいとも簡単に消えてしまったのかもしれない。

セッちゃんは欲しがっていたものを手に入れていたのかな。遺された彼女のテディベアみたいなポーチにはコンドームが入っていた。胸が締め付けられる。でもあっくんとセッちゃんはセックスをしたら壊れてしまうような儚い関係にも思えて、すべてが壊れてしまう直前の、幸福のさなかに好きな人の前で命を落としたセッちゃんは、もしかしたら案外人生に満足していたのかもしれないな。勝手な想像だけど。
セックスを通じてしか他者とつながりを持てない、色を持たない女の子だった。そんな彼女がひとりの男の子を追いかけて外国にまで行っちゃって、また会えることが嬉しくてしかたなくて、まるで普通の女の子みたいだ。虚しい結末なのに、不思議といいことばかりが思い浮かぶ。

 

セッちゃん2

 

途中へんな話をしてしまいましたけど、いい作品です。センシティブな世代にたいする視線の鋭さを感じる作風。イラストレーターさんだけあって、どきっとするコマがたくさんあって、空白を読む楽しさがある。すごく現代っぽい漫画なんですけど、触れたら壊れてしまいそうな繊細さは、じっと息を潜めて夜によみひたるにはぴったりです。ぐちゃぐちゃにこわれていく現実と、それでも続いていくくだらない日常と、かけがえない思い出のものがたり。無情なだけではない甘酸っぱい感触。

 




花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

  • 作者:初谷 むい
  • 出版社:書肆侃侃房
  • 発売日: 2018-04-16

 

完全に余談だが大島智子先生が表紙を担当しているこの歌集が最高にエモキツい。ヘビロテしてる。ひとつの作品が2秒で読めるからな。それでいてずっと歌の世界にこころが置き去りにされてしまうのだ。

自分のなかの短歌という概念が完全にぶっ壊されてただ水のように体内に染みてくる言葉言葉and言葉。静かな読書をしたいぼんやりぐんにゃりな午後にぺろりとページをめくると一瞬で感情になる。一瞬で恋をする19歳の女の子になる。冗談はさておき本当に素敵な本で、短歌どころか言葉って日本語ってほんとうに自由が表現が可能なんだなという学びがある一冊。日常のささやかな一瞬を切り取って哲学から宇宙から女心やら自在に飛躍する混沌が楽しい。漫画もいいがこちらもおすすめである。大島智子先生のイラストを目当てに買うとあんまり載ってはないので残念かもしれない。でもほんと表紙がいい。そこにいたって会いたいよ。

 

 

好きな歌です。

ふるえれば夜の裂けめのような月 あなたが特別にしたんだぜんぶ

夜 きみのつまんない話に笑ってる 聖なる窓の埃を見てる

光ってみたり終わってみたり生活は降るようにあるめざましが鳴る

快晴がつくる逆光きみの名を一生覚えている気がするな

とこしえだ 言葉はぼくを響かせて骨をひとかけ花へと変える

言いたくてくしゃみにそれが消えてって夜のみなもに手を振っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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やさしい世界はここにあったんだ。『事情を知らない転校生がグイグイくる。』1巻

 

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

  • 作者:川村拓
  • 出版社:スクウェア・エニックス
  • 発売日: 2018-10-22

 

やったぜ書籍化。これツイッターで見た時から好きでした。

 

これがバズって連載化、からのコミックス発売です。連載になってどうなるかとも思いましたが、なんともありません。この世界観のまま、なんなら特別なキャラ追加もなく、無邪気でおばかでヒーローな男の子と、死神とクラスから疎まれている少女のあたたかな交流をまるっとたっぷり楽しめる。

これが非常にね、ほっこりする。大変に安らぐ。
やさしい世界って、あるんだなぁ・・・

本当にただただ2人の関係をニヤニヤと眺めているだけの時間が本当に癒やされます。クソみたいな15時間労働かましたあとに読んだりするとふいに涙があふれることだってある。ふだん読む漫画の傾向としてシリアスっぽいのを好みがちなんですけど、ふとこういう邪気のない漫画を読むと、前より増して気持ちがほぐれてくれる。やさしい世界の断片を、きれはしを、残り香を摂取してなんとか生かされていると言ってもいい・・・。

まぁ「邪気が無い」というとヒロインが置かれている環境はどうなのかという所はあるか。でもこの作品って、ヒロインを悲劇的に描きすぎないところがミソだと感じます。暗くなりすぎない。読者を刺激しすぎない。ある意味では都合のいい設定ですけれど、このバランス感覚をある種メタ的に保っているのが、タイトルにも出ているグイグイくる転校生、高田くん。

彼がに周囲も西村さんも翻弄する見事な天然タラシキッズなのが爽快なんですね。

事情を知らない12

こっちもにやけがとまんねぇんだよな。

クラスメイトたちがいろんな言葉やいろんなイタズラでヒロイン西村さんをからかうんですけど、天然かつ根がいいヤツすぎる高田くんがすべてを浄化するので安心して読める。クラスメイトたちの簡単に丸め込まれちゃうお子ちゃまっぷりも、ある程度読み進めると笑えるポイントだったりする。

事情を知らない11

 

これは深読みのしすぎかもしれないけれど、本作はずっとページ縁が黒ベタなんですよね。ちょうど回想シーンみたいな雰囲気がずっと続いていく。

小学校という狭いせまい世界を描いていく作品だからこそ、なんかこの演出が効いてくる。もしかしたらこの物語自体が、未来のだれかが回想したり読み聞かせている『かつての日々』なのかもしれない。そう思うとさらにノスタルジックで、失われた尊さが輝きを帯びていく。

10年後とかに成人式でドチャクソ美人に成長した茜ちゃんが周囲を見返してくんないかな。それで、また引っ越していったはずの高田くんと成人式で再会して始まってくれふたりのストーリー・・・・・・・。恥ずかしがりませんわたくしは。

 

 

まぁさらっとした紹介になりましたけど、さらっと読めてニヤニヤできるいい漫画です。おすすめ。いかにもモブっぽい造形のヒロインがめいっぱいに愛されて幸せにされる物語、絶対に幸せを約束してほしい。

 

 


 

(ついでの話)

最近いろんな所で見かけるツイッター発漫画の単行本化についても少し書いてみる。個人的にはいい傾向だとも思ってるし、一概にいいとも言えないような気もする。

「グイグイくる転校生」とはぜんぜん関係ない話なので適当に流してください。

 

作家さんや雑誌側としても、そもそも知名度ある状態で需要のあるなかで連載をはじめられるのだから大きなメリットだろうな。あと雑誌連載でイマイチ結果を残せなかった悔しい作家さんが、ツイッター漫画でバズってるのを見ると嬉しくなる。ちょっと前に星海社のツイ4がはじまったあたりで「ツイッターで漫画をアップして拡散されよう」というブームがなんとなくできてきたような気がするけれど、高木さんも正直ツイッターでバズりまくった結果の大勝利という部分も強いし、かんぜんに今のブームですよね。普段使ってるSNSツールで、なんかしらんけど面白い漫画がTLに流れてきたぞ、っていう出会いの嬉しさってのが全体的にプラスに働いてるんだろうなーと感じる。自分自身、めっちゃふぁぼる。夜になって見返す。

ただツイッターってその時その瞬間の「あ、いい!」の脊髄反射的なファボやRTが多い気がして、拡散されることで多くの人の目には触れるだろうけれど、作家さんがそれによってメジャーになれるかというのも疑問だったりしますね・・・。

バズる漫画を傾向を見るとやっぱ4頁でまとまってるショートショート的な掌編がおおいのだけれど、それを雑誌で連載化となったときに、物語が動きにくいって所が弱点なのかもしれない。ツイッターで作者アカウントで不定期連載みたいにアップされる漫画のほうが意外と展開が面白かったりして、雑誌連載化する作品だと停滞しがちなような気がする(個人の感想ですが)。

あと個人的にムカつくんですけど、ピクシブとかツイッターでヒットしたタイトルをすぐに書籍化してくるときの一○社とか○川系列のあのおいしいとこだけ持っていこうという感じが。作家的にもせっかくバズった作品が書籍化されて世に出るなら嬉しいことのはずだけれど、「消費されてる感」が絶妙にモニョってしまうんだよなぁ・・・・・・。WEB誌連載ならともかく雑誌でWEB発ネタを雑誌で連載化させて、それでネットから作品を奪っておいて、やってることはWEB時代の焼き直し・・・・・・みたいなクソダサいことになってる作品見ると泣けますよ。編集なにやっとんじゃと。ツイッター漫画を商業化するならツイッターのリンクからワンクリックで読めるような環境でやらないといけない気がするんですけどね。

なんか文句いうのも辛い。こんな時代ですので、漫画のあり方、読まれ方もいろんな選択肢が出てきたってことなので、ズレた考えなのかもしれないですけども。

no pain,no love.『潜熱』3巻

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

  • 作者:野田 彩子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-10-12

 

やりきったなぁ・・・!!よくぞ、よくぞ・・・。望んでいた、しかし辿り着けるとは思っていなかったエンディングだった。3巻とコンパクトにまとまってはいるが余韻が凄まじい。喪失感も達成感もある。そしてなにより、背筋が震えるほどの人間の性を見せつけられる。遭難船は見事に本懐を達したのだ。

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻
感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。『潜熱』2巻

致命的だ。末期的だ。ぜったいに間違えている。誰の目にも明らかに、よくない人生を歩みだしている。そんなこと百も承知で彼女は言うわけですよ。

 

選んでしまった。

怖くて不安で 初めから後悔してるのに。

私はあの人を選んだ。

 

はじめての恋だった。はじめて好きになった男の人だった。

けれど相手はヤクザの頭。平凡な19歳の女子大生が接していい相手ではない。にも関わらずどうしようもなく惹かれて、これまでの自分がどんどん壊されていく。狂わされていく。変わり果てていく自分すらも愛おしく、まっすぐ愚かに彼女は堕ちていくのだ。

潜熱32

もはやどんな言葉を投げかけられても無駄だと、どうしようもなく理解してしまっている。

1巻、2巻とますます瑠璃は”女”になっていってしまったことに一抹の寂しさを覚えつつ、いやいや俄然テンションあがるってもんよ・・・!(どっちだ)
完全に開花している。この難易度MAXな初恋にじりじりと灼かれながらも、彼女はどんどん強くなっていく。都合のいい女になって好かれよう、という姿勢はもはやなく。いや愛されたいだけの欲しがりなんかでもなく。逆瀬川と並び立てるような人間になっていく。

意思が弱いようで、こうと決めたことは頑なに譲らないような2面性のある主人公、瑠璃。彼女を通じて物語は進んでいくので読みても彼女に感情移入しながら読み進めるわけです。彼女の味わうはじめての恋の喜びや、闇の世界の恐怖感、好きな人にふれる興奮や、冷たい現実に打ちのめされる無念も。けれどここに来て、・・・いや2巻の途中あたりから察しましたけど、ある種彼女こそが作中No.1のサイコパスなので、どこまで彼女の気持ちに乗り切れるかってのがかなり本作の評価を左右するポイントな気がする。

ストーリーの面白さもそうだけれど、提示される価値観が強烈なのだ。
その価値観をまさに示してくれる瑠璃という女性が恐ろしくそして美しく、目が離せない。

潜熱34

彼女の危うさは、本職のヤクザをしても「1番怖い」と評価するほどだ。

周囲を簡単に振り回して、ときに裏切って、そしてひとりで修羅の道へ。
友人のトモちゃんとのエピソードが語られるこの3巻ですが、持っていきかたが卑怯すぎるんですよ。どれだけ彼女らの絆が深かったか。どれだけ思いやれる仲だったのか。それを思い知らせてから、それでも突き進む瑠璃の姿はもはや鬼。

 

困ったことに、悪気はなかった、なんて言い訳は絶対にしないんです。
全部わかってる。自分の行動がどれだけの人々を傷つけ、不安にさせ、迷惑を振りまき、救いの手を差し伸べてくれるような相手を裏切ることの重みを、彼女は背負っている。
ぜんぶ承知の上で堕ちていく。
肝の座りっぷりがハンパじゃない。本気になった女とは、こんなにも強く恐ろしく残酷で美しいのか。

潜熱33

そんな彼女の火は当然、逆瀬川にも伝わる。
3巻のおっさんはわりと瑠璃さんにデレデレ状態でもうかわいいなコイツって感じだ。
でも今回は彼にも試練は降りかかる。どんなにかっこよくたち振る舞っても結局の所、子供と同年代の女に入れ込んだスケベオヤジだっていう周囲の目は逃れられない。ひょうひょうと大人ぶっても、そういう評価をされてしまうことも彼は知っている。

年の差もありすぎるし、いくら瑠璃の方からアプローチしたとはいっても「純朴な一般人を巻き込むなんて」「いい歳してみっともねえ」なんてそんな陰口だって当然ある。そりゃもう、情けない限りに。

潜熱36

けれど瑠璃と同様、逆瀬川も腹をくくったのだろうという事実が震えるほどに嬉しいのだ。空港での襲撃のとき、必死になってに瑠璃をかばった彼の血走った目にこそ、普段は読みづらい彼の本当の愛情が感じられるように思う。「守ってやりたくなるよ」なんてキザな言葉を口にしたんだ、いい歳こいたおっさんが。そしてちゃんと約束を守った。最高なんだよな。

逆瀬川の元妻の登場が物語のピークでもあり、瑠璃の未来のかけらを提示したものでもあった。逆瀬川に向けた言葉も、瑠璃に向けた言葉もそれぞれの覚悟を値踏みしたいやらしい内容で、だからこそ彼らの本気が試された。

それにしても元嫁の回想シーン、素敵だったなぁ。
短いのになんかいろんな女性が逆瀬川に不思議と惹かれてしまうのがなんとなく分かってしまうのだ。無神経なんだけど奔放で、とおくを見ている顔が妙に様になってて。けれどそれは過去のものだともハッキリ伝わって、瑠璃もいずれこんな未来を迎えるのかもしれないと思うと、それはそれで寂しくもあるし、ほっと安心してしまうような、複雑な心境になってしまう。

潜熱31

最高の場面だ。3巻の76、77頁の見開き。瑠璃という女が化けた瞬間でもあるし、物語の行方がはっきりと定まってしまったシーンだろう。すべてを受け入れて、あるいは諦めて、全部飲み込んでしまった。

 

あなたが後悔した20年が

私のものならよかったのに。

 

かっこよすぎる。なんて切り返しだよ。

あなたが後悔したという20年さえも寄越せというのだ。なんという傲慢。なんという啖呵だ。むちゃくちゃですよこんなん。せっかくの助言も聞く耳持たず、後悔するなんて当たり前のように知っていて、けれど彼女は未来を信じていた。若気の至りとも言えるかもしれない。あまりにも早計だ。こんなアホなセリフ、まともな大人だったらもう呆れているはずだ。

でも人生の先輩として、そして”かつての瑠璃”として、逆瀬川の元妻として、彼女はとても優しい対応をしてくれていた。いや、言っても無駄だと理解したということもきっとあるだろう。死ぬぞと警告したのに自らそこに飛び込もうという阿呆にもはや何といえばいいんだ。「あの子が死んだら夢見が悪い」というセリフが出てくるほどには、瑠璃に対しての思いはあるはずですけどね。もしかしたら20年前の彼女も、今の瑠璃と同じ言葉を吐いたのかもしれない。

 

そしてそしてエピローグ。ここの余韻が抜群にいい。ほぼネタバレしちゃってるようなもんだがやはりここまで読んだ者にとっては、正否どちらであっても、おおきくため息をついてしまいそうなエンディングだ。複雑だけど自分の感覚を表すと、「あーあ。」ってのが1番近い。

人間描写がうますぎる。それはもう最初から思っていたことです。
表情に宿る力がなによりも雄弁に、そのキャラクタの苦しみとよろこびをこちらに伝えてくる。とくに瑠璃は終盤にかけてどんどんも罪深い表情をするになっていった。
そして合わせ技のように繰り出される、言葉という暴力性。惑いながらも自分に忠実に生きていく瑠璃という女性の内面をクッキリと浮かび上がらせてくれたモノローグ。巧すぎる。

エピローグが凄いのはひたすら表情で魅せるというラストシーンを描いたこと。
そして本作の特徴とも言える前述のモノローグを一切用いていないということ。
おだやかな空気のなかにいくつもの感情とドラマが潜んでいる。

そこにどんな思いが宿っているのか、読者は答え合わせができない。なにを思ってこんな表情をしている? そもそもあれからどうなったんだ? 他の人との関係は?

明かされない。なにも。読者に与えられるのは瑠璃と逆瀬川が通わすいくつかの平穏な言葉たちと、それから瑠璃が最後に見せてくれる不思議な表情だけだ。

「瑠璃さん」と逆瀬川が声を投げかけ、「はい」と返事をする。

ただそれだけなのに、何もかもすべてを捨て去ってここにたどり着いた瑠璃という女性のすべてが集約されている。家族、友人、環境、すべてを犠牲にして手に入れた幸福がある。でもなんだろう。ただ幸せだけがここにあるというのも違う。明らかな喪失感が漂っていて、読んでいると古い写真に吸い込まれたようなノスタルジックな気持ちになってしまう。
言葉と顔。シンプルがゆえになんとでも解釈できてしまえる絶品のラストシーンですね・・・。この短い数ページのエピローグで、いくらでも妄想できてしまう。

瑠璃の顔つきが、あきらかに変わっているのもやはり分かってしまう。逆瀬川が気に入った瑠璃は、こんな顔をする瑠璃だったのだろうか?そう考えると暗い気持ちにもなってしまうけれど、洗濯物を干す彼女をながめる逆瀬川の視線を見ると、まぁこれはこれでよかったのだろうかとも思っていしまう。グダグダ書いておいてなんですけど自分でもこれがハッピーエンドなのかとうか判断つかないんだマジで。メリーバッドというのが近いのかもしれない。

まぁでも、瑠璃という女性の変貌と生き様をここまで楽しく読ませてもらえたら悔いはない。素晴らしい読書体験でした。いやぁ。恋愛漫画っておもしれぇな。

コミックス3冊を並べると、カバーに使われているどんどんと青の色が濃くなっていっているのです。意図的であってもそうでもなくでも、そういうことにすらメッセージ性を感じてしまう。

 

 

そういえば、表紙のここはどこだろう。いや、”いつ”のだろう。

彼の好きな海辺の町でやさしく微笑みかける彼女の、その裏側に潜む強烈な独占欲。幾度となく彼女を焦がし、焦がし尽くした本能。あの純朴だった少女はどこへやら。けれどそんな瑠璃が大好き。どうか大人になって、この日々を回想し、彼女なりにいろんなことを思ってほしい。痛みと、世界のすみっこで祝福もされなかった恋の結末と、青すぎた19歳の日々を。

 

 

 

 

「どうしたら優しくなれたとおもう?」

 

 

 

潜熱37

 

 

 

 

 

感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。『潜熱』2巻

 

潜熱 2 (ビッグコミックス)

潜熱 2 (ビッグコミックス)

  • 作者:野田 彩子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-05-18

1巻のときの記事は↓

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻

幾度となく私を焦がす、私だけの熱病。

ごくごく平凡な女子大学生。その片思いのお相手はヤクザ。
1巻ラストでは寝る覚悟まで示してみせるほど暴走した恋心。まぁそもそも相当な年の差なわけで、「俺と寝られるかい?」と聞けてしまう逆瀬川もなかなかな一品だなぁと感じますがそこらへんが相当の人生経験の証明でもあるのか。ともかくここらへんからは、子供じみた初恋がどうとかの話なんかじゃなく、男の女の、生々しい感情のぶつかり合いだ。

けれども逆瀬川は飄々と瑠璃を躱す。
それは駆け引きなのか。ヤクザとして一般人を巻き込みたくないという思いがあるのか。弄んでいるのか。大切に思われているのか。底知れない逆瀬川の対応にふりまわされていく。

潜熱22

っカぁ~いいシーンだなぁ、魅せ方うまいんだよ。この枯れた指の質感のエロス。

 

明らかに男女としての関係は深まっていく。けれどどこまでを望む?すでにヤクザとして生計を立て、生活を営む男を相手に、平凡な女子大学生はどこまで行ける?どこまで染まれる?

そういう意味でこの瑠璃という主人公はとことん恐ろしい。

手に入れたいもののために自分すらも捨てられる、なんにでも染まれてしまう人間。そういう人種が1番恐ろしいのかもしれない。それまでの価値観をたやすく捨てられるような、自我が弱いようでただひとつの正しさを決して手放そうとしない。その正しさが果たして世の理に沿ったものかどうかが分からない。

 

潜熱21

 

2巻の瑠璃はそういった未来を想像するに足るオーラというか、片鱗を覗かせる場面が多かったですね。煽ってきたムカつく女に対抗しようと夜の街に潜入したり、そのままキャットファトにしたり。決して好戦的に挑みかかるようなことはしてないんだけれど、結局自らそういう場に向かっていってる時点で似たようなもんなんだよな。すべては証明のためなのだ。逆瀬川のいる世界に、私だって行ってやるって。止めてくれた親友の気持ちを裏切ってもなお心は夜へ進む。明けることなんてない、夜の世界に。

ただでさえ女くさい瑠璃ちゃんなのに、今回出現したライバルキャラのメンヘラガール・あかりちゃんもまーーーーた女クサさ10万ポイントくらい持ってそうな娘である。そのポイント適度に使ってかないとあとでホント困るんだかんな。カード落としたときとかヘコむから。ポイントためたらどんな景品もらえるのかな、検査薬とかカミソリとかかな・・・まぁともかく、個人的にかなり好きなキャラクタです、あかりちゃん。こういうアグレッジブでかつ病的に過去や男に束縛されている不幸体質な女の子って目が離せない。ストーリー上なかなか幸せにはなれないんだけれど。

 

潜熱23

 

自らを変貌させ、姉を虜にし死に追いやった男を追いかけ、抱かれ、手に入れようとするあかり。どんな結末を彼女は欲しがっているのだろうか。彼女自身すら分からないのかもしれない。あまりにもちぐはぐで理性的でない人生をいっている。そこに彼女にしか理解しえない美学や怨念がある。そもそも逆瀬川ってそんないい男か?っていう・・・盲目的な恋に堕ちた人間にしかわからない思考回路を描かれてしまっているので、もう感情移入とかの領域ではなくハラハラと見守るしかない状況。

 

 

ショッキングなシーンも多かったので、3巻はまた逆瀬川さんとおデートする瑠璃ちゃんがみたいな。もう準備まんまん、今日こそはって気合入りまくりの瑠璃ちゃんがまんまとかわされていく(そうして赤面して撃沈する)、そういう可哀そうで微笑ましい恋愛模様がみたい。
全身が紅潮するくらい恥ずかしがるあのシーン、めちゃくちゃかわいかった・・・。

けれどいずれ彼女も変わる。だれかの不幸を望んだりもきっとする。
純朴だった乙女が自らの意思で汚れて堕ちていく。
感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。

そんな姿を見ることが恐ろしく、同時にとても楽しみなのだ。

 

それにしても今回も絵が美しすぎる。このペンタッチに完全にヤられる。ちゃんと最後までのこの危うく美しい物語を描いてほしいなぁ。重版もきまったようで目出度い。これで万年筆もっと買えますね。

 

 

 

あっちこっちそっちどっち恋はパニックってヤツなんだよな『スピーシーズドメイン』8巻

B07BGWW96Y スピーシーズドメイン 8 (少年チャンピオン・コミックス)
野呂俊介
秋田書店 2018-04-06by G-Tools

今年になって買い始めたシリーズの最新刊。あっちでもこっちでも青春三昧、恋は同時多発。表紙裏オマケ漫画でも触れられてるとおり、どいつもこいつも発情顔しだしてるしかなりの濃度でラブがコメり出している。最高。最高以外に無い。

人間と亜人がともに高校生活を謳歌するコメディ漫画も8巻目。メイン扱いに昇格になるキャラも大勢出てきましたし、いよいよ群像劇な側面も強まってきましたね。この巻の大機のカゲの薄さは・・・・・・・うん。でも余計に賑やかになってきて、個人的に本作に期待しているワチャワチャ感はどんどんパワーアップしています。男女別け隔てなく行事には盛り上がって、でも互いにどうしたって異性への意識はどうしようもなく敏感で。教室全体を包み込む青臭さ、甘酸っぱいソワソワ感・・・俺の求める学園ラブコメは、こういうことなんだよな・・・!!!!

 

まぁともかく、連載も50話を突破しました。その過程にちりばめられてきた伏線や小ネタが見事に花開き、脇役程度に考えていたキャラクターたちが我こそはと名乗りを上げ活躍しまくる、群像劇としての進化にワクワクがとまらんわけです。

7巻の体育祭編もはちゃめちゃな具合でしたが、学校でそれと同時期に行われ、学園漫画に欠かせないイベントとはそう、文化祭である。「楽しそう」って言葉ってそれだけ見ても薄っぺらで全然響かないんですけど、それでも書いてしまいたい。「めちゃくちゃ楽しそうだ!!」って。こんな時間を高校時代に過ごせていたら、思い出すだけで元気になれる一生の宝物みたいな時間だよな・・・。

スピドメ82

考えなしにバンドをやりたいといいだして、流れでポエム大会になる。(どういう流れだよ)まぁこれだけで、あーいつものバカ騒ぎが始まったな!とほくほくしてくるんですけど、これ多分文化祭編のクライマックスで、風森さんが作詞した内容が明かされるんだろうなあ・・・!

文化祭の準備のため、前日にはみんなで学校に泊まり込む。日常から一歩だけ踏み外れた非日常にみんなのテンションもあがるあがる。普段入れないあれこれだってついつい話してしまうエモい夜。女子は淡い恋の馬鹿騒ぎ。野郎どもは

スピドメ8

なんかよくわからん暴露も始まった。こいつはこいつでなかなか難儀な道を歩もうとしていた。応援させてくれ・・・!!

そして待望のクラスメイト全員巻き込んだお風呂回ではみんなのCHIKUBIが拝めてしまうんですけど、ガッツポーズというより、ほんとにクラスメイトのいけない所を見てしまったようなほんのり罪悪感もあって、この漫画のギルティっぷりを再確認。女子と男子の距離感がこれだけ近いと、こういう感情が湧き上がるんだな・・・。

それでここで同時多発的にいろんな話しが暴露されて俄然面白くなってくるああ、コイツはやっぱりアイツが好きなのね、的な。拗れた気持ちを抱いていたり、隠しきれていなかったり、ノロケ全開だったり。みんな青春を満喫してますよ。豊かさインマイハート。MVPはやっぱり恵良さんでしょうか。けっこうあっさりコロッと、恋にはまっちゃった。チョロいとも言う・・・がしかし!なんかこういう全然意味わからない流れで、完全に予期せぬタイミングで、話した所で共感は得られないようなポイントで、突然に発病するのもまた生々しくて可愛くてたまらない。乙女モードな恵良さんをもっと俺にくれ・・・!次の巻でも拝ませてくれ・・・!

コツコツとゆっくり関係性を深めてきたいろんなクラスメイトたちの関係が、一気に変化と進化を遂げていく体育祭&文化祭の秋。8巻まで積み上げてきたものが一気に開放されていくカタルシスよ・・・!ラブコメの華とはまさに今なのかもしれない。

「ここでくるかー!」っていうラブコメ展開がどんどん投入されてきてラブコメ好き的には鼻息荒くなるくらいにワクワクしてくるんですけど、どんどんメインキャラが増えてきている弊害としてストーリーがだいぶゆっくりペースになってきてる。
まぁこのペースでOKが出されているということは編集サイドからも大事にされていて、連載も軌道に乗ってこの先まだまだ読み続けられるだろうな、という期待のような安心のような思いもあります。テンポの良さ、キャラの魅力、小気味いいセリフ回し・・・アニメ化とかしてくれないですかね・・・面白くなると思うんだけどなぁ。

 

 

 

喧騒の中にも、しっとりと誰かを思いやる気持ちやほのぐらい後悔を忍ばせる、ちょっぴりのシリアスがナイスアクセント。

魅重木が羽井さんへの素直な気持ちを吐露するとの同時に、関係の停滞を余儀なくさせられそうな辛い過去のエピソードが語られる。異種族とのディスコミュニケーション、それに伴うかなしい痛みの描写は、カラッと元気なだけで終わらない本作の懐の深さの証明でもあると思う。でもそれは多種族だからという問題でもなくて、あくまでも人対人の接し方のはなしなので。この2人はクラスの喧騒とは一歩離れたようなところで心が通じ合ってのが心地いい関係だよな。

第50話。 メガネっ娘・相田さんは風森さんと中学がいっしょで、彼女を仲間として迎え入れることができなかったことを後悔していました。しかし当の風森さんはまったく気にしてなかった。ありがちな話ではあるよな。「あのこは孤独だ」と周囲が哀れんでいても本人は気楽できままなだけだったり。でも孤独になろうという人すらも巻き込んでバカをやれてしまう、いまのクラスの包容力と言うか、照らす光の強さが再確認できる。

スピドメ

偶然かもしれないけれど、50話というキリのいいタイミングで、過去の風森さんの精算と現在の風森さんの幸福を見つめ直すエピソードを持ってきたのはちょっとジーンと来てしまった。

9巻はいまから5,6ヶ月後になってしまうんだろうけれど・・・・・・

紅川ーー!!!!長渡ーーー!!!!!!

紅川ー!!!!

見逃せなさすぎるでしょ・・・・・・ここで待たせるのは卑怯だよ・・・

爆誕した恋愛モード恵良さんも俄然かわいいが、行き先気になるのはコイツらの行方。素直になれないだけできっちりとフラグを積み重ねてきたかっこつけデブ&ツンデレペアに光あらんことを。

タイトルはこの曲から。恋はパニック。感染もするからパンデミック。

この弾丸で誰を殺そう?『世界は寒い』1巻

 

B07B8PSS8W 世界は寒い(1) (FEEL COMICS swing)
高野雀
祥伝社 2018-03-08by G-Tools

高野雀先生の最新作は繊細な心情を紡ぎあげるポエム漫画。つまりはこれまで通り!しかし新基軸なのは「もし誰かを殺せるような力を手にしてしまったら?」というはっきりとしたテーマと軸があることで、過去作とは違った魅力のストーリーが展開されていきます。

程度に差こそあれ、みんな一様にストレスある日常を送っている女子高生たち。

不満はあってもオオゴトにしようなんて気はない。女子高生は空気を読まなくっちゃ生きていけない。友達同士でグチりあって、悶々としながらも学校いってバイトしてスマホで時間を潰し、そして日々は消費されていく。
そんな抑え込まれたフラストレーションが。日々の憂鬱が。ある日変貌する。

バイト先に置き去りにされた謎の紙袋。その中には弾丸の込められた本物の拳銃。
主人公である6人の少女たちは、本当に何気なく、凶悪な武器を手に入れてしまう。

ムカつくあいつを。
殺してやりらい憎いアイツを。
見返してやりたい、彼奴を。

もしかしたらあっさりとこの世から消してしまえる。
そんなとびきりの魔法を手に入れてしまったのだ。

勇気さえあれば。
もしかしたらこの先の人生すべてをダメにしてしまう、破滅の覚悟があれば。

個々のキャラクターが置かれている環境、そこに渦巻くストレス、価値観、そして選択。6人いればそれぞれの目線からまったく違った物語が見えてくる。
オムニバス形式でストーリーは進み、少女と女性のはざまで揺れる年代だからこその青臭く生々しい本音が吐き出されていく。この部分はこれまでの著者さんの作品と共通ですが、拳銃はどこからやってきたのかいうメインストーリーも進行して、サスペンス風味もあったり。
このバランスがいいですよね。作者の個性が活きていて、しかもキャッチー。

『殺人願望』と呼べるほどはっきりしてなくたって、漠然とした「死ね」をいくつも抱えてる少女たちの鬱屈エブリデイ。俺はこういうかわいい退廃が大好きなんです。


前連載作「13月のゆうれい」はフィーヤンらしいといえばらしい、お仕事×恋愛のヒューマンドラマに、ジェンダー的要素も含んだ内容でした。これも読みごたえのあるいい中編作品でしたが
今作はもう高野雀節が全開になってるなって感じ。性癖ダダ漏れ。激エモポエムも炸裂しまくり脳みそスパーキン待ったなし。

幸福か/不幸かの線引みたいなのも含めて、彼女たち女子高生の”生態”を垣間見れるというのが、ゲスなのかもしれないけれど楽しみのポイント。なかなか自分の中にはない感覚と言葉で彩られているポエム世界、そしてそれが不快ではなく、未知に触れる楽しさみたいなものを純粋に感じられるのだ。

同じクラスにいてなんなら1メートル隣に座っていたってまったく話もできなかったあの遠い存在の、内側をすこし知ることができて、当時の自分の思い出をすこしだけ慰めることができるのだ。そういう気持ち悪い読み方をする読者としてはあんまりね、フィーヤン読者様のお目に触れない所でコソコソと楽しまないといけないとは思います。
まるで別の惑星のことを教えてもらってるような感じでとても楽しいんですよ。
そしてなんかウジウジ悩んでばっかだなって所を見て、なんか、安心する。彼女たちは宇宙人なんかじゃなく。同じ地球人で、同じ年齢の同じ種族で、同じようなことを考えて悶々としていたのだな。

彼女たちが直面する現実ってのは、どこにでも有り触れているようで、でも1つとして同じシチュエーションも感情もありはしない。いつだって「なんで私が」「私だけが」っていう自分本位のめちゃくちゃにエゴな感情に支配されて、それこそが思春期なのだろう。

そういう自己憐憫のような感情も間違いなく大切でそしてリアルで、その渦中にある彼女たちの精神世界はもはや苛烈の一言。いつだって爆発寸前・決壊ギリギリで、「いますぐムカつくやつ殺せちゃうよ」って神様がチャンスをくれたなら、なんかもうワクワクしちゃって日常だってキラッキラ輝いたりするんだ。

銃弾をお守りのように持ち歩く少女がいて、彼女のエピソードがとてもいい。その娘は無神経な毒親にストレスを抱いているけれど、かといってその親に殺意を向けるような気はなくて。

世界は寒い1

そりゃ、そういう子もいるはずなんだよな。

作中で言われていることだけれど、わかりやすいドラマ性のある不幸や、明確に殺したい相手がいる場合のほうがむしろ気は楽なのかもしれない。この障害さえ取り除けばわたしは開放されるのだと、そう信じることができれば。たった1発の弾丸で壊せる世界だと思えば、慰みにもなるだろう。

でもそんなシンプルに行かない場合もきっと多いのだ。正体不明の閉塞感だったり、それこそ自分自信のなかにすべての原因がある場合、彼女たちにとってその手に握られた銃弾は、いったいどんな意味を持つのだろう。
もっと自信を持つことが出来たなら…もっと自分だけで自分を救ってあげられたなら…
空虚に支配された1人の世界は、凍えるほどに寒いに違いない。自己嫌悪の夜に終わりは無い。
上の画像のように、各話の扉絵では主人公がいろんなポーズで銃を構えているんだけど、そのキャラクターの特徴がしっかりと現れているのも上手いですね。どこを向けているのか。その表情は。ひとりひとりのスタンスが印象的に描かれていく。なんなら、1人はむしろ銃を向けられてたりする。注がれている敵意や悪意の象徴か。

 

 

作中にちりばめられた言葉は刃物のようにこちらを突き刺す。言葉を丁寧に紡ごうという意思をめちゃくちゃはっきりと感じられて、読んでいてなんとなく背筋が伸びる。

そしてこんなに負の感情に満ちているのに、読んでいてどんよりと暗くならないのもすごい話だ。それは彼女たち同様に読者もハイになるからなんだろう。非日常に飛び出してしまった彼女たちの選択に、ワクワクして仕方ないのだから。

誰を殺そうか?
というより、誰かを殺せるほど、彼女たちは壊れてしまえるのか?
誰を殺そうかなって想像だけで元気が湧いてきていつもより毎日が楽しくなるのなら、そこでとどめておくのが一番平和なのだけれど。果たして誰が一番、壊れちゃってるのか。
ムカつく誰かに銃弾を!そんな妄想はきっと今の悲しい自分を救ってくれる。同時に、巣食われることもあるだろうけれど。

 

 

 

よしッ!俺もその気になったらその場で眼前のムカつく顧客をぶんなぐって黙らせられるように筋トレを始めたい気持ちになってきたぞ!力こそパワー!

 

煙とたゆたう黒髪美人が最高という真理。『シガレット&チェリー』1巻

このマンガの「先輩」が久しぶりにグッとくるナイスな先輩ヒロインだったので思わず書き出してしまいましたが・・・「記事にするには薄味だしちょっと寝かしておこうか」という逃げを使わずに軽率に薄味な更新をしていくぞ!

4253239315 シガレット&チェリー(1)(チャンピオンREDコミックス)
河上 だいしろう
秋田書店 2018-03-19by G-Tools

(薄味なのはこの記事なのであって作品ではない)

表紙がメチャクチャにかっこよくてそれで購入した作品。思春期にブラックラグーンをキメた人間は根本的にタバコを吸う女性になんかしら憧れがある(諸説ある)。スクエニから出たシガレットアンソロジーシリーズも好きだった。タバコキスは必修科目ですからね、現実ではともかく、二次元的には非常に効果的なアイテムだと思いますよ。秘密めいていて、どこか凶暴な本性があるような錯覚に陥る。誰かの影響でタバコを始めたのかもしれない。昔、片思いした先輩に憧れてはじめたとかそういうドラマがあってもいいし、もしかしたら元カレかもしれない。どっちにしたって美味しい。男と縁が切れた後も染み付いた生活習慣をずっと続けてしまう女性っていいよね・・・女性がタバコを吸い始めるに至るには、男とはすこし違うプロセスがあるように勘ぐってしまうのが本当にごめんなさいって感じだ。

大学生活感はそれほどだが、キャンパスライフものである本作。
大学デビューした田舎の金髪ヤンキーの後輩くん(ただしチキンで童貞)。
大学院生であること以外なにも分からない、いつも喫煙所でタバコを吸っている謎めいた先輩。
先輩のバイト先の後輩であるバイトちゃん。
現状、この3人しか出てこないミニマルな物語で、WEB連載らしくテンポいい1話完結ショートラブコメという具合。

だいたいいつも後輩くんが先輩の前でカッコつけようとするも失敗する・・・っていうだけ!それだけなんだけど、それだけで良くないですか!?俺はなんどだって先輩に浅はかな自分を見透かされたいし、あわよくばそれを許容され、笑ってもらいたいよ。

シガレット1

はあ~~~~メガネもクソ似合う~~~~~~

艷やかな黒髪とクールな表情、王道ですけどミステリアスな美人というキャラクターデザインにこれまんまとハマるのである。話していると意外とフランク。だけど過去を詮索するのはNG.

そんな彼女がかすかに垣間見せる心のスキだったり、リラックスした表情がたまらなく嬉しくなってくるんですよ。少しずつ少しずつ先輩が心を開いてくれていく様子が・・・・・・。
勇気ふりしぼって花火に誘ったら「最寄り駅集合でいい?」なんて、約束をしてくれた先輩に、俺は心からガッツポーズ。

シガレ2

これまた、ね。
くわえタバコと浴衣と、ちょっと冷めた視線の素敵すぎるコラボレーション。
きまぐれなのか、それとも。後輩くんの誘いにのってくれた先輩。
女心とたゆたう煙。

主人公のキャラも個人的には好きですね。
最初はチャラいだけ・イタいだけの主人公という感じだったんですけれど、どんどんと先輩に本気になっていく。本気になった分だけ、自分をごまかしては立ち向かっていけない相手だと分かって、不器用ながら果敢にアタックしていく。その努力もから回ってしまうんだけども。でも先輩はそんな空回りの、葛藤と努力をきちんと見抜いている。徹底的に身分が下な後輩くんだからこそ先輩との関係もどこか心地よい。

あと、作画もいいですねぇ。コメディらしい勢いの良さもあるのに、先輩の魅力はしっとりと湿り気を含んでいるようで見ていてゾクゾクします。それでいて強い意思とアンニュイな感覚が宿る表情・・・・・・・・・イイ。

過去作「オトノバ」はちらっとだけ読んだことはありますが、その頃より格段に絵の魅力がレベルアップしている印象。というかオトノバもしっかり読んでおかないといけないなぁ。

1巻クライマックスでいきなりシリアスに突入して、どうなるんだよこれ!!とそわそわすること請け負い。でも安心してください。チャンピオンクロスで今なら1巻の続きからすぐ!無料で読める!ナイス!!

まぁそう長く続くことはないんじゃないかと感じる構成なのが残念な反面、しっかりまとめていって欲しいなと思う良作。あっさりと読めちゃうんだけど、意外なほど後引く面白さと先輩の魅惑的な存在感。

シガレ3

ほォら、良い女。