浪漫ある大学生活は斯くも遠い・・・!!『江波くんは生きるのがつらい 』

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-02-09

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田 阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-09-12

2巻を新刊売り場で見かけて買ったら大当たりした。久しぶりにクリーンヒットした新人作家さん。大学を舞台にしたラブコメ作品としてバッチリ面白いし(特に2巻から)さらに個性強めの主人公の空回りっぷりとか、ダメ男なのに周囲を引きつけてしまう天性の魅力を持っちゃってる感じがひたすらに面白い。

個人的に大学を舞台にしたぬるーい漫画がすきだってこともあってハマりましたけど、いやこれラブコメ的にもめちゃくちゃ面白いぞ!!なんで今まで見逃してたんだろ、悔しい。きららフォワードを雑誌を追う習慣がないからか・・・!

http://seiga.nicovideo.jp/comic/32745

ニコニコ静画で試し読みができる。1話も読めるのでぜひぜひ。
というかフォワード本誌からニコニコ静画へ移籍している。せっかく面白いのに、もしかしてこれってピンチなのだろうか・・・わからん。そうだとしたらとてもとても勿体無い・・・!

江波くんと同じく大学は文学部だったってこともあり個人的に共感するところが・・・・・・あるような無いような・・・・・・。大学モノのラブコメって絶対数が少ないという意味でありがたいですし、そのうえこんなキャラもぶっ飛んでて面白い漫画があるとはな。

 

 

とにかく主人公の江波くんのキャラがいいんだ。見ているだけで楽しい。
最初のうちは1話完結形式で、いろんなヒロインたちが登場してそれぞれと絡んでいく。けれど江波くんは文学青年で、小説を書こうとしていて、その題材のために劇的でロマンとセンチメンタルあふれる学校生活を送ろうともがいている。運命に導かれたドラマチックな瞬間を目指している。そのことのこだわりが強すぎて肥大化した自意識に絡め取られまくりなのだ。ようするに、イタい・・・!

 

江波16

 

ドラマチックな人生を演出するためのヒロインを探して入るものの、ちょっとでも出会い方を間違えると「あれは運命なんかじゃなかったんだー!」と発狂して関係を絶とうとしてしまう。
それ以外にも弱点が多すぎる。カラオケが苦手。集団が苦手。いざという行動が意味不明になる。こだわりすぎて小説をまったく書けていない、などなど。

こうして挙げてみると大体やべーやつなんだけど、そういう不器用で狭量で理想化でナルシルトなところが全部彼の魅力でもあり、読者をイラつかせないバランスに保てているのも何気にすごい。ヒロインとのフラグをびみょう~~~に立てながらも自分でバキンとへし折ってヒロイン置き去りに走って逃げてって、「お前なぁ!!」って言いたくなる、それが楽しい。

ひとりで高まって、ひとりで怖気づいて、ひとりで挫折して、ひとりで憤ってる。
もう全部ひとり。彼だけの世界で完結してる。
最初っから最後まで、相手のことなんてお構いなしで失敗していく。

 

江波11

 

それが面白おかしくて、ああコイツ面白いな愛らしいなって思うのに、ふとしたときに自分から距離を撮ろうとする時の彼の表情や言葉だったりがやたら切なくて寂しくて、胸かきむしられてしまうのだ。

 

江波15

 

本当に自分勝手だし相手を見ていない自己憐憫のくだらない真似事なのに、残念なことにわかってしまう・・・こいつのやってることやりたいこと、分かってしまう・・・!!!この共感性・・・!!!

女性に理想を抱くのと同じように、いやそれ以上に自分への理想が強すぎるせいで生きづらさが爆発している。作品タイトルに「生きるのがつらい」は重すぎやしないかと危惧がまずあって、その上で読んでみると生きづらさがギャグ的に消費されているシーンも多々あるので、薄っぺらに感じられてしまう可能性もある。

でもじっと読んでみると、やはり節々に彼の等身大の「生きづらさ」はそこかしこにある。自己実現に苦悩して、みんなができるいろんな物事が下手くそで、鬱になるとか自殺するレベルではないんだけれど、こういうちっぽけな悩みの連続が学校生活には当然のように満ち溢れているんだよなーって、思い出して甘酸っぱくなってしまうのだ。

友達もいないしもちろん彼女だっていない江波くんだけど、しょぼいなりに青春です、間違いなく。

ふざけてるみたいだけど江波くんは真剣に自分の創作へ情熱を燃やしている。そしてゆっくりだけどそれは進んでいく。失敗だらけでも、理想通りじゃなくても、彼は進んで行けているのだ。

 

そしてそんな江波くんを見つめるヒロイン。本作のやべーやつ第2号。
ほとんど江波くんのストーカーみたいなことしちゃってる清澄さん。

 

江波12

 

江波くんのイタさを見抜き(いや見抜くまでもなくダダ漏れだが)、以降ひそかに彼の動向を置い続けている彼女。せっかく美人で引く手あまたのに、なぜか江波くんを追いかけちゃってる。彼女の願いは「江波くんをいじめたい」である。

 

江波13

 

いろんなヒロインが登場するけれど、彼女はちょっと違う立ち位置。江波くんの日常をかき乱すトリックスター的な役割を担う。
江波くんの日常をかき乱すようにストーリーを動かしていくんだけれど、第13話では江波くんの初小説をはじめて読ませてもらえるという絶頂モノの役目をいただくことに成功している。

今後は江波くんの理解者、協力者としてのポジションを負いながらも、ひそかに彼女自信の欲望を追求していく感じだろうか。江波くんをいじってるときの清澄さん、メチャクチャ楽しそうで見てるこっちもにこにこしてしまいますよ・・・!

 

清澄さんの手伝い?もあって文芸サークルに入ることになった江波くん。いろんなヒロインが登場する本作ですが個人的イチオシの娘がこのサークルの宇家さん。

江波14

いっけんクールなのに地味に妄想爆発型のヒロインでして、この第12回のエピソードはアンジャッシュのコントみたいなすれ違いの会話劇がメチャクチャつぼでした。むしろ江波くんと似ている部分がかなりあるような気がする女の子ですね。

でも出てくる女の子みんなかわいい。それでいて、この記事内ではあまり触れなかったけれど、創作へのアツい思いもしっかりと閉じ込められている作品なのです。応援したいなぁ。あとこういう主人公が好きなのはもう趣味で性癖なので、どうしようもないですね。主人公のキャラの濃さが好き嫌い分かれるかもしれないとも思いつつ、コメディとしての出来がなにぶんいいので広くおすすめしたい。

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止んだ雨と音楽と壊死。『あげくの果てのカノン』5巻

あげくの果てのカノン 5 (5) (ビッグコミックス)

あげくの果てのカノン 5 (5) (ビッグコミックス)

  • 作者:米代 恭
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-06-12

感想書くことがちょっとこわくて書けずにいましたが、書き進めることで自分も整理がつくだろうか。と、今更ながらに最終巻の感想を書き進めてみる。 ふだんの紹介的な更新ではなく、完全な独り言を独りごちる。最終巻までと、いくつかインタビューも踏まえての雑感です。

恋愛を描けない悩みに新作で向き合う/『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー(1)

「気持ちの悪い恋愛」を全力でしてもいいじゃないか! 『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー

「なんで私がメンタルの世話をしないといけないの」 不倫×SFマンガ『あげくの果てのカノン』作者と担当編集の奇妙な関係 (1/3)

話の過程でネタバレを含みますのでご注意を。

 

 

 

 

 

 

・・・ひでェ話だったなオイ!

いや、いいんですけど。

最後まで大好きな作品であり続けてくれました。不倫という難しいテーマをきちんと描ききった。インタビューとか読んでも、非常に苦悩の多い作品であったことは伺い知れます。

でも考え込んでしまうこともあるので書く。

 

 

呪いは解けなかったのだ。最悪の形で周囲を巻き込み、犠牲も払って、様々なものを切り捨てて、それでも真っ当な人生を歩めなかった。いや、そもそも真っ当とは、なんだろうかと。幸せであることと正しいことはイコールではなく、むしろ世間から爪弾きにされる恋愛をするしかなかった主人公だからこそ掴み取った結論。 かのん自身幾度となく涙を流し自問自答し、それなのに変わることは出来なかった。 離れて過ごした長い年月でも彼女の盲信的で依存的な体質は変わらなかった。

対象が人からケーキにかわり、仕事に出来たというところがおおきく異なるが人となりは変わらない。 それなのに最後で先輩が会いに来た途端に、コレだ。 本作はかのんの成長物語なのではなく、そんな生易しいものではなく、こうするしか生きることが出来ない強烈な恋愛依存体質の女性の人生を描いた。彼女の業はきちんと示されたし、幸せになるための別の道も拓けていた。 それでもこの結論を選んだのだから 、凄い。 凄いというかそれでこそかのんだ。個人の感想として、 かのんという物語はこうでなきゃ、と嬉しさがあった。 ただ物語としてこのラストを疑問に思うのは仕方ないし、もし落胆されたとしても納得だ。それくらい「やっぱりか」という感覚が強い。

――結婚についてはともかく、結局、米代さんは「不倫」のことはどう思っていますか?

米代:けじめをつければ好きにしたらいいんじゃない?と思っていますね。

――「けじめ」ですか。

米代:結婚までしている人間との恋愛は、他者の尊厳を傷つけることだとは思っていて、それをするからにはけじめが必要だと私は感じます。でも、その尊厳を傷つけて、かつけじめをつけてまでやりたいのなら、外野が止めることではないのかなと。

https://am-our.com/love/429/13601/?p=2

そもそも善悪で語れる話ではない。そんなことわかっているハズなのに、どうか間違えないでほしい、世間から認められるような幸せを掴んでほしいと勝手に願ってしまうもんだから道を外してしまう。別にこの作品を読んで、不倫は是か非かを語りたいわけではない。でもどうしても引っかかってしまってキーボードを打ち込んでしまっている。

こんなに自分が動揺してしまった理由を探してみる。ストーリーに衝撃を受けたわけでもないし、あのラストもまぁ、かのんが出した結論ということに納得はある。

けれどきっとかのんは、もう大丈夫だと思いこんでいたのだ。第28話のクライマックスでモニターにうつる2人を、まるでヒーローショーの観客席に座る無垢な子供のように、大声で声援を送る姿をみて「ああ、よかった」と思ってしまった。本当の主人公はあのひとなんだって、自分は彼らの物語の障害でしかないことに気づいて、それでもまっすぐに彼らを見ることができたのだ。

かのん5

終わらせることができたんだって、簡単に騙されてしまっていたのだ。

作者の手の内でみごとに転がされたわけですが・・・、本当に、心底良かったと思えたんだ。失恋できてよかった。そうだよな、そういうもんだよなって、報われなくて正解だって、それで良かったはずだと疑いようもなく感じていた。不倫だって当人たちが納得の上ならたとえ破滅に向かおうとも選択としては十分にアリだと口では言っておきながら、失恋に涙するかのんに安心していた。とんだ裏切りだ。

かのんというキャラクタをとても好きだったけれど、理解しきれていなかった。まるで分かっていなかった。そのことに対する自分への落胆のような気持ちに近いのだと思う。ショックだった。

同時に、かのんは死んでしまったんだなと思った。進化もないというか、きっと死ぬまで彼女は彼女のまま生きていけるだろうと彼女の強さを信じることができたから。生きていても死んでいてももはや彼女は変わりない。死んでいく物語。ネクロシス。誰も彼女の幸福を否定できない。

置き去りにされたようだ。

ちょうど、この最終巻の拍子はただ静かに佇む傘だ。思えば1巻から4巻まで、カバーイラストに描かれたかのんは合羽を羽織っていた。本作は第一話の「この街は、ずっと”雨”が降っている。」というモノローグで幕が上がる。ひとつこの作品のキーワードを上げるならそれは雨だろう。あの日、あの教室で、先輩がカノンを弾いていた。それに始まり常に大切なシーンでかのんの人生に雨は登場する。合羽は彼女の天候的な日常でもあるし、化物という驚異から身を守る一般人としての彼女の姿にも重なるし、あるいは不倫というタブーを犯してでも雨道を進もうという意思にも・・・強引か。でも、最終巻では雨はあがり、舞い上がった傘は祝福のひかりに照らされ花畑に佇む。役目を終えたように。いや、最初から一回だって使われてない傘だったが。雨は止んだ。止んだのだから。

「かのん」という名前を彼女は恥じてコンプレックスだった。先輩はそれに意味や尊さをもたせてくれた神様だ。恋と錯覚した信仰心だったなんて彼女は気づいていたし最終話で再確認もされる。「私は私のストーリーの悪役だった」なんてあまりにも虚しい真実を直視する。

物語の終着点。最果て。そこに至ってもやはり彼女はいつまでも自分自身に呪われ続ける。呪われ続けて、幸せに居続ける。彼女の人生は光る。それならいいんだよ。物語の果て、いや彼女の人生のその最期にまで響き続けているのかも知れない。自分と同じ名前の、繰り返しのクラシック音楽。果ての果てまで、その音楽は鳴り止まない。この読後感の不気味さ、なのに心の心配がぜんぶほどけていく決着の妙技。素晴らしい。けっきょく物語は倫理で語ろうとするものではなく、キャラクターが己の思考に確信を持って未来を選び取ってくれたのなら、他の問題なんて些細なもんですよ。いろんな人を裏切ってしまった。取り返しのつかない人生の失敗もした。差し出された手を振りほどいてわがままを貫いた。先輩以外を排除して、自分さえも切り捨ててもなお恋は続く。それでいい。そうすることができた彼女がひどく眩しい。きっと自分にはない強さをいくつもいくつも無限に無数に手にして幸せそうな彼女の、恋に浮かれた、年甲斐もない、ぶざまな姿に俺は恋をする。それはきっと俺には彼女がわからないままだからだ。自分にちかい部分と、どうしようもなくかけ離れた精神構造のかのんがたまらなく好きで好きで遠い。

 

終わりますね。
壊死(don’t look back)みたいなタイトルにしてたけどクソダサで公開直前に照れに負けた。

 

 

[漫画]炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻

一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

高月かのんキレる 『あげくの果てのカノン』3巻

 

 

 

 

いやーそれにしても、担当編集さんを思いうかべながら友人との関係が完全崩壊するネームを切ったというエピソード、最高すぎないですか?

 

本当に愛したいのは。『愛を見せろ』

PCがぶっこわれて新品に買い替えたら初期不良でさっそくカスタマーに出して、とやってたらしばらくPCのない生活を送ってました。タブレットとスマホがあればネット依存症でもそれなりに生きていけることを確かめてしまった。いまは新しいマシンで快適に過ごしてます。

今回コミケに三日間とも参加したんですけど、ああいう場に行くと自分もちょっとはなにかをしてみたくなるというか、まぁやれるのはこうしてダラダラとくだを巻くことなんですが。

愛を見せろ (it COMICS)

愛を見せろ (it COMICS)

  • 作者:ふしみあみ
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2018-08-10

コイツはいい。すごく素敵な本です。なんたって1巻で終わる(ポンポさん流)
短いなかで気持ちよく物語は進み、感情は揺さぶられ、がっつり後引く余韻。コントロールが行き届いていて最高のタイミングで手を離されるような抜群のストーリーテリング。

試し読みなどはこちらから

みんな欠けていてみんな孤独で、だからかなんとなく居心地が良くて出来上がった不思議な3人のオリジナルなコミュニティ。父親に捨てられ将来を諦めたJC、なみ。離婚して妻子と別居中の教師、長川。彼の息子だが母の再婚相手のDVを受け、学校でもいじめにあっている小学生、けんた。

疑似家族もの、一手をミスると途端に説得力にかける転落を見せることもあるけれど本作は絶妙のバランス感覚で描かれていく。家族というか、寄る辺なのだ。欠けたそれぞれが感情持ち寄ってぶつけ合って、まあるくなめらかに均されていく。

シリアスな展開ももちろんある。心くじけてしまった人間の闇や、貶めよう傷つけようというこの世の悪意や、自分すらも許すことのできない自らの弱さを見せつけてくる。

愛を見せろ2

画作りからセリフから、かなりアツく丁寧に練られていることが伝わってくる。作品を包み込む優しさや、マイナスな感情も否定することなくみんなが苦悩して、するどく毒を吐きあったり、けれど許容しあえる。関係性がゆるくて暖かで心地よいのだな。

暗い空気になりがちなところをうまく明るく持ち上げてくれたなみちゃんのキャラクタも良かったし、長川先生のぶっきらぼうながらに見守る姿勢も甘酸っぱい。けれどクライマックスで相手をめちゃくちゃに殴りつけたシーンがあるけれど、あの場面をただじっと息子が見つめている場面は胸に刺さりましたね・・・。ああ、もう、取り返しがつかないのだなと。

作中で「愛を見せてよ」と、タイトルに重ねたセリフが出てくるのですがそれがすぐさま「見せてるだろうが」とぶつけられる、この虚無。見事。必死なのに伝わらない。空回りした愛情表現でもあるし、そもそも受け取ってもらう気のない一方的で暴力的で自虐的ですらある愛し方。自暴自棄になった長川に立ち直らせようと発破をかけるなみ。そこからゆっくりと雪解けするように、やさしいエンディングへと向かっていく。なみと長川先生の関係性もツボでしたね。相棒のような。

そしてラストシーンの、妙にあっさりとした空気が余計に味わい深さを増している。みんなそれぞれの行き先へ向かっていく。あの寄る辺はもう失われた。ここをラストシーンにすることに最初はじゃっかん物足りなさを覚えたけれど、2回めに読んだときにはこの小ざっぱりとした結末が非常にらしいというか、男前だなと感じた。素敵な終わり方だ。終わり方がいい漫画は最高だ。

というわけで1巻完結ながらかなり感情を動かされる楽しい一冊。出来のいい単館ものの邦画を見終えたような読み応えでした。女性誌連載ではあったけれど普遍的なヒューマンドラマとして成立しているので幅広い方に読まれてほしい。

本当に愛したかったのは、もしかしたら自分たち自身なのかもしれない。愛してほしいと泣いていた、あのころの自分だ。けれどこの物語から未来に向かうキャラクタたちは、きっともう大丈夫だと信じられる。

 

ところで「愛は見せろ」はかつてコミティアに発売された同名の同人誌が存在しています。

愛を見せろ1

3年前の本。タイトルが同じだけで内容もキャラクタもまったく異なります。俺はコミティアで買っていたのですが作者までは覚えてなくて、今回書店の新刊コーナーでこの本を見かけたときに「どっかで見たタイトルだなー」と引っかかって購入。こういうふうに出会うこともあるんだなぁ。それでいて、めちゃくちゃいい漫画なんだから。電子書籍が便利で徐々に移行している最中ですが、こういう遭遇ができるからやはり書店はいい。

ちなみに同人版はクズ旦那が不器用にしか妻を思いやれずDVにまで発展し、切ないエンディングを迎える作品なのですが、そのラストの物寂しい花瓶の存在感だけで明らかな名作。なんか拍子に読んでみてほしい。

With Me Tonight.『アフターアワーズ』3巻

アフターアワーズ 3 (ビッグコミックス)

アフターアワーズ 3 (ビッグコミックス)

  • 作者:西尾 雄太
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-01-12

めちゃくちゃ好きなお話でした。傑作。
大人にしかできない、この夜にしかありえない青春。ダンスミュージック。憧れのDJブースの君。揺れるフロアの喧騒。恋。夜と朝が混じり合う、パーティから日常へと移り変わる。いちばん好きな時間。アフターアワーズ。ライト・アンド・ミュージック。日が沈み、再び、朝日が昇るまでの話だ。

社会人同士のガールズ・ラブとしても、クラブ文化を描いた作品としても、どちらをとっても極上。

気持ちの整理もうまくつかずに感想を置いておいたら2巻の応募者サービスの特典冊子まで到着してしまった。これで「アフターアワーズ」は全部が幕引き。しんみりとしながらも、まあ書いてみようかと。いや完結巻でたの相当前ですけどね・・・。

1巻の感想は昔書いた。

ナイト・イズ・スティル・ヤング.『アフターアワーズ』1巻

いま思い出してもムカつくけれど、この作品は続刊が出せなくなる事態となっていた。作品を人質にとるようなマネをしてくれるなよとまじで腹が立ったけれど、いやぁ、無事に完走出来てよかった、ほんとに。打ち切りっぽく終わるんじゃないかという危惧もあった。しかし蓋を開けてみれば完璧。完璧なエンディング。ジャストサイズ。全3巻。余韻はたっぷり、けれど削ぎ落とされたスマートさ。

アフターアワーズ31

クライマックスの物寂しさは饒舌に尽くし難く、『なるほどこういった形で大人の青春期の終末を描いてくるか』とゾクゾクが止まらなかった。主人公たちと同じタイミングで心揺さぶられ、思いっきり悩まされ、そして熱くさせられた。魅惑の夜の住人となった主人公が、社会にもどり朝日を浴びるエンディングはまさに作中で語られた『アフター・アワーズ』。1番好きなひととき。

Stardust – Music Sounds Better With You

クラブやダンスミュージックに憧れがありながらも踏み出せてなかった頃に1巻が発売され、読んで、そのままテンションあがっちゃって人生初のクラブ遊びをキメた。まぁアニクラなんだけど。オシャレな大人たちがクールに遊んでるんじゃなくてオタクがはしゃいでるだけだったけど。でも、自分のなかでひとつ大きな扉を開けられたような気がして、本当に感謝をしている作品なんです。作品としての質の高さはもちろん、なんというか、人をひきつけてやまない魔法が宿ってる物語だった。吸い込まれそうになって、少しでもこの世界に近づきたくなるような。

クラブにはじめて足を踏み入れて、それから恋をして、夜の楽しみ方を知って、イベントを開催する側になっちゃったエミ。それを通じて読者もぐんぐんクラブ文化に接近していく。百合漫画として取り上げられることも多いけれど、カルチャー的側面から考えてもなかなかに稀有な存在だったのではないだろうか。少なくとも主人公がクラブイベントを主催してハコの手配からなにから果てには自分でVJまでやり遂げる漫画をほかに知らない。オタクをクラブに駆り立てるスゴイ漫画だったんですよ。

それで最終巻の内容について触れると、主人公の成長っぷりが目覚ましいってことだ。クラブの右も左もわからなかったひよっこがよくぞここまで・・・。自分たちで成し遂げたイベントの明かりを屋上から眺めるシーンのカタルシスが素晴らしい。自分の好きなことをやり遂げてこんなふうに夜の風を浴びたい。なぁそうだろ。そういうのしたこと無いんだよ。眩しすぎるんだ。

アフターアワーズ32

追いたい夢がある。ともにありたいと願う時間や大切な人がある。

けれどそれだけで生きていけない。暮らすために働いて、人知れず涙も流してこらえてふんばって、それでも悲しい現実に直面することだってある。大好きなものを諦めてしまう瞬間が訪れることだってある。どうしようもなく。避けられようもなく。

3巻中盤から襲い来るシリアスな展開は、まさに大人だからこその現実が障壁となり2人を引き離す。第16話のラストで、ただただ壮大な山並みと、その元に薄く低く広がる町並みのカット。物言わぬその光景こそが、2人を分かつ強烈なリアルなのだろう。

都会の夜は明るい。音楽があり、灯りがあれば人も集う。でもこれからケイちゃんが生きなければならないリアルは、そういった世界とは縁遠い場所だ。大人としてコミュニティに属し、そのなかで求められた役割と責任を果たしていく。大人としての生き方だ。それをつまらないと否定することはできない。切実なのだ。生きていかなければならないのだから。

それでもケイちゃんが好きなものを好きでい続けられるのはエミちゃんのおかげに違いない。あの夜ふたりが出会わなければ、ケイちゃんを引き止められた人がいただろうか。同じようにエミちゃんもクラブにはまることも無かった。音楽を聞くだけでなく、そのための場を作り上げることを楽しさや達成感を味わい共有することも無かった。あの夜、あの一瞬がふたりの人生を変えた。

あふたー34

大人だからこそできる青春があって。でも大人だからこそ立ち向かわないといけない様々な障害もあって。夢中になればなるほどもっと深く沈み込んで、そして傷ついてもなおあなたをこの場所で待ち続ける。振動が好きだった。クラブで響くビートサウンドが。脈打つあなたの肌が。はじめての遊びを覚えて高鳴る自分の心臓が。

楽しいも”大人だからこそ”なら愛し方もそうあろうという2人の決意がたまらなく心地よくエモエモのエモ。愚かだろうか。こんな日々をひとは「いい年して」と嗤うだろうか。それでもいいさと笑い飛ばせる爽快さと力強さを見せつけるラストシーンが大好きなんです。カッコいい大人たちがたくさんいる漫画だから。悪い大人と思われても、諦めの悪い大人になったほうが、人生楽しいはずだから。いまが”アフターアワーズ”と、決めつけるのも早いはずだから。いやむしろ、アフターアワーズを一時を楽しめることが大人になるってことなのか。

 

アフターアワーズBS1

アフターアワーズBS2

 

先日到着した限定描き下ろし冊子 「アフターアワーズ Bonus tracks」。

第2巻のオビで応募できたものです。ふたを開けてみれば60ページを超す無料とは思えないボリュームで大満足。あくまでもボーナストラックということで、本編とは切り離された描き下ろし漫画だったりコメディタッチのオマケ漫画、設定画が収録されています。完結後にじっくり読むと、いっそう味わい深い。8年前のロングヘアだったケイちゃんとか貴重ですなぁ。

 

 

これで本当に「アフターアワーズ」が終わってしまったか、と寂しくもなります。でもそれよりも、出会えたことの感謝が大きい。個人的に全3巻できっちりと幕を閉じたってのは作品のかたちとしてメチャクチャかっこよくて惚れ惚れしますね。もしかしたら作者として望んだタイミングでの終了ではなかったのかもしれないけれど(事情が事情だったので)、ムダと感じる展開もなく一気に駆け抜けていった。クラブ×社会人百合というややニッチなジャンルの漫画でしたが、もっと広く読まれてほしい傑作ですよ。「大人たちの青春」の描き方があまりにも眩しく魅力的。そして主人公2人の思いを丁寧に紡ぎあげていったストーリー。文句なし。ながく本棚に入れて、エモ成分を摂取したいときに幾度となくページをめくりたい。

西尾雄太先生ありがとうございました。次回作、めっちゃ楽しみにしてます。

 

 

好きなので記事タイトルに使ったけど、作品には関係がないしクラブミュージックでもない。

でも好き。With Me Tonight.

 

 

 

 

 

アフターアワーズ33

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エデンの後もゆるゆる、世界最初の夫婦物語 『アダムとイブの楽園追放されたけど…』1巻

4065112877 アダムとイブの楽園追放されたけど…(1) (モーニング KC)
宮崎 夏次系
講談社 2018-04-23by G-Tools

ゆるっ!

かつてないゆるさ!これが夏次系の最先端!

作家さんのファンなので過去作すべて盤石の信頼感のもと事前情報なしで即買いしてきましたが、今回は書店でかるくひるんだ。おいおい、これまでと路線ちがいすぎでしょ。なんじゃこのクソダサなタイトルロゴはよ。かわいいかよ。

しかも今回はなんと「1巻」だし、連載ものだ。過去作とは一線を画するコメディタッチで入門編としても良い。しかしあっけらかんとした中に孤独の闇が、やさしい厭世が1ミリグラムくらいずつ盛り込まれている。その爽やかな毒に心臓がよろこんでしまうのがわかる。

 

本作は聖書の物語をなぞりつつ、破天荒なキャラクターたちが育児に奮闘するハートフルな作品。まさか夏次系作品でハートフルなんて単語を使うことになるとはな・・・
りんごを食べ神様に怒りに触れたアダムとイブ。そこまではとても有名なのですが、本作はその後、楽園から追い出された2人の生き様をゆる~~~~く描いていく。

アダムは冴えない感じの天然おっとりなメガネ男子。
イブは金髪グラサン、西海岸ルックスのアメリカンガールである。
禁断の果実を食べてしまいふたりを楽園追放する神様は、ただの孫(?)にデレデレおじいちゃんだ。
ほかにも聖書由来のいろんなゲストキャラもあって、みんなで赤ちゃん・カインを育て見守る育児奮闘記。個人的にはドMみたいなヘビが好き。
キャラクター描写のコミカルさはこれまで通りなんだけれど、これまでそのコミカルさは物語の切なさ増長装置的に用いられていたのに対して、本作は真っ向からコミカルなキャラクターがコミカルに騒ぎ出す。このポジティブな感じが新鮮だ。

特にアダムのおとぼけな感じと、それでも一生懸命な様子が微笑ましい。
赤ちゃんを育てるためになんとか母乳が出せないかと、必死に力みまくるのとかね。

楽園追放11

そもそも新しい命を育てるための物語のためか、作品としてすごくエネルギッシュだ。
これまで発表された作品の多くが世の中から爪弾きにされた孤独な人々が主人公で、大切におもうほどに手を取り合えない、傷つけ合うようにすれ違う人間模様をたくさん描いてきた作家さん。儚げなのに鋭くて、読んでると心の中でいろんな感情が溢れ出て、グチャグチャにされるんだけど読み終えた頃には幾何学的に気持ちが整理されてるような、そういう意味不明なセンスの漫画づくりに惚れ込んでいた。どうしても結ばれない心と心の距離が。世界から必要とされない己の無力さが。亡霊のように過去に縛られ続ける、未練と生き続ける人々が、好きだったのだ・・・ところが本作、

おまえ、そんなこと育児しながらイチイチ悩んでられっかよ。

と言わんばかりに、これまでウジウジと悩んでいた領域を抜け出してみんな頑張る。みんなで頑張るのだ。すごい。イヴさんのキャラが素敵すぎる。突然母親役になった彼女はとまどう。でも暴れん坊な彼女なりに赤ちゃんを大切にして、アダムと家族として生活に向き合っていく。

その中でイブも自問自答するのです。
本当にわたしはお母さんとしてやっていけるのかと。そんな覚悟もまだ出来ていない私が。そんなときにヘビが囁く。お前はあの赤ちゃんに、必要ないじゃないか。母性に目覚めたアダムが一生懸命に面倒を見ている。お前がなにをしてやれるというんだ?

それを聞いたイブさん

楽園追放12

気持ちいいブチギレっぷりだ。そうだ・・・!それでいい!!繊細な葛藤をいだきながらも、ムシャクシャしたら色々なぎ倒して突き進むイブさんの生き様が好きすぎる。
自分に育児経験もなんもないのですが、周囲の大人たちがこんな小さな生き物にみんな振り回されて、でもそれも幸せそうで。こんなに幸福な漫画を描いてくれるようになったんだな。

 


 

そんな連載作も素晴らしいですが、いやいや。

巻末に1話だけ収められている短編「オカリちゃんちのお兄ちゃん」もスッゴいぞ。

仲良しなお兄ちゃんと妹さん。日常のささいな謎を解き明かす、推理ごっこが彼らの楽しみだ。けれどお兄ちゃんは、妹さんとしかうまくお話ができない。ほかの家族とも。学校のひととも。

楽園追放13

学校にいけなくなったお兄ちゃん。はっきりと家の異変に気づきながらも、何もすることができない妹のオカリちゃん。

こちらは従来どおりの夏次系エッセンスが詰まってますね。むき出しのセンチメンタルが爆発している。破壊力バツグンだ。
けれどこちらも読後感はとても爽やかなんだ。きちんとした問題解決はしていないけれど、傷ついた心にそっと優しい光が届くような、希望のある短編。お兄ちゃんが目をうるうるさせるシーンは、こっちまでうるうるしてくる。ほんと、間のとり方が素晴らしい。静寂のなかでそっと気持ちが動く瞬間の、耳のさきが熱くなるような、どうしようもない興奮がある。

でも「よかったね」とだけで終われるお話だったのだろうか。この物語の語り部であるオカリちゃんはお兄ちゃんと一緒に遊ぶのが好きで、お兄ちゃんの唯一の友達だ。でもオカリちゃんはお兄ちゃんを暗闇から救ってあげることは出来なかった。はっきりと受け入れることでお兄ちゃんを有る種救ったのは顔の見えないお母さんだ。オカリちゃんは傍観者であり続けた。そこに、彼女の痛みがありはしないだろうか?と考えてしまう。

傷ついてふさぎ込んだお兄ちゃん。それを目の当たりにしながらも、何が起こっているのかわからないままのオカリちゃん。しかし途方もない悲しみや疎外感を与えられたとき、ただ仲良く一緒に遊んでくれる存在にどれだけ心は救われるのだろうか。オカリちゃんが知る良しもない所でお兄ちゃんはオカリちゃんに助けられてるはずだ。そのことも、オカリちゃんが気づいてくれたならいい。まあ、不安にかられた自分の勝手な妄想に過ぎないんですけどね。

「お母さんのこと嫌いになったの?」と不安げに尋ねるオカリちゃん。今ある日常がこれ以上かなしい風に変わっていかないよう、彼女なりに願いを込めた言葉。怯えながらお兄ちゃんに寄り添おうとするオカリちゃんは、無力かもしれないけれど、でもお兄ちゃんを癒やていたはずなのだ。

 

これを読んでしまうと、やっぱり夏次系先生は短編の名手だなぁと改めて思う。切れ味がハンパないもの。でもだからこそ長編はチャレンジだよなぁ。まさに新境地という具合で楽しく読ませてもらいました。

 

 

 

私たちは 違う世界を 同じ速度で走る 『おとなとこども、あなたとわたし。』3巻

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前回に引き続き今更かよって更新ですけども、新刊が出てたの気づいてなかった、とても悲しい。1巻2巻が同時発売した時にぶっ刺さったシリーズの第3巻。これにて完結。

2017年上半期 面白かった新作コミックス12作

前回こちらの記事でも紹介しました。
あと今だと電子版1巻がキンドルで無料になってるので読みやすくていいですね。(2017年3月29日までみたいです)
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テーマは「年の差」。
3つのストーリーが1冊に1話ずつ収録されていくオムニバスで、3巻ではそれぞれが切なさ染み渡る素晴らしいエンディングを迎えていく。
個人的にどの物語も甲乙つけがたいくらいに良い。同じ年の差というテーマでも、どういう関係性なのか、年齢はどれだけ離れているのか、性別は、そこに宿る想いは・・・どれも現実のどこかにありそうなリアルな感触。それでいて非常に魅せられるストーリーテリング。

絵のタッチもねぇ、俺は大好き。レディース系なんですけどスッキリとして見やすく、独白がとにかく活きるポエミーな画面づくりが最高です。言葉で伝えたい部分と、行間を読ませようという叙情的な描写のコンボ技で見事にノックアウト。

ざっくりと個別に感想を書いていきます。最終巻なのでネタバレを含むので注意。


『箱の中』 男女/幼馴染/29歳と22歳の7歳差

少女漫画のような設定から落下していく、自己嫌悪で壊れていく男の物語。
未成年に手を出して家族を崩壊させた父親。その血を継いでいることに、そして幼い少女に惹かれる己に絶望し・・・・・・自ら離別を選んだ彼の、その先の話。

育ちゃんが健気に待ち続けてくれて嬉しい。ほんとうにいい娘であり続けたことが救い。主人公はもう自分から破滅に向かっていってしまう人間なので、こういうなんでも受け止めてくれそうな女性の存在はクスリでもあり毒にもなりそうだよなーとも思う。大丈夫かな、また再発しない? でもそういう不安も含めての、また歩みだした2人の結論なのだから読後感はいいですね・・・うん・・・育ちゃんが報われてよかった・・・

自分を自由にさせるために、必要な時間はあまりに多く、大切だった言葉はあまりに簡単で。
そしてそれは大切な女性から与えてもらうものではなく、自分でたどり着かなければならないというのが構造としてロマンチックだなぁと思う。君ともう一度向き合うための、残酷な日々の空白だ。向き合うための禊の儀式。

クライマックスの「あなたが私の中にいたことは変わりない」であっやべーーーこのまま同じ空につながってるENDか!?と焦ったけどきっちりラストで回収してもらえてドキドキしながら読めました。「どこ行こうねぇ、のんちゃん」と語りかける22歳になった育ちゃんの、数年ぶりの再会シーンとは思えない平熱感がたまらないですよ。待ち続けていたのに、あんなに不安にかられていたのに。そんなのどこかに吹き飛んだみたいだ。


『1枚の絵』 男男/亡くなった女性の旦那と講師/77歳と32歳の45歳差

疑似家族ものという風にも捉えられると思う。
亡くなった女性を経てつながった2人の男。へんくつな爺さんと、孤独な青年。
似たもの同士だが年の離れた2人は、生前の女性が残した絵や言葉や思い出を頼りに生きていて、2人ともが不器用なもんだから、見てて面白い。

ところが32歳の青年・蒲田が交通事故にあったことをキッカケに、徐々に縮まりつつあった距離がまた開き出す、ってところからが3巻の話。

死者をどう受け入れるか、かけがえないのない人の不在をどう飲み込めばいいのか。
このシリーズの主役の2人は「死」を共有することでつながった。それによる根本的な切なさがこのシリーズの魅力でした。ありふれていて、当たり前の死という恐怖。
それに打ちのめされながらも少しずつ変わっていく人々。じいさんがだんだんとかわいく見えてくるのは漫画マジックですね。蒲田の過去回想シーンでいろいろと謎が解けたような感覚。マザコンをこじらせた原因はそういうことなんだな。置いてきぼりにされるという幼少期の圧倒的な寂しさ、疎外感がきっちりと確かめられる分、物語の高揚感もグッと上がる。

そしてちかちゃんは屈託なくていい娘だ・・・偏屈な男どもにはこの素直さを少しでも見習うんだぞ。先生とちかちゃんの関係性もひそかにお気に入り。メインとはなっていないけれどここの先生と生徒の関係もいい「年の差」です。


『ランナーズ』 女女/元同僚/30歳と57歳の27歳差

若作りな美魔女さんも今は昔。菜々子さんも57歳になって落ち着いて、あの職場に努め続けている。エリは退職・結婚・出産を経てもう菜々子さんとの接点はない。

5年の月日が立ち、あらゆる意味で遠くなってしまった2人。けれど2人ともが、あの夜の突然の別れを、いまもはっきりと思い出せる。それだけ無念が残っている。あそこがターニングポイントだったんだ。

おとなとこども 3-1

2シリーズ中もっとも女性誌らしい要素を感じると言うか、女性がどのように生きるかという人生観的な描写も多くて1番メッセージ性が強い。そして個人的にも1番ぐっときました。

間違いなく大切だと思っていた時間だったのに、それを壊してしまったのは私だったのか、あなだっただろうか。それでも「あの人とは合わなかった」と切り捨てて行きていく自分がなんだか悔しい。諦めてしまったは、あなたもわたしもきっと同じだ。

あなたとわたし3-2

すれ違った過去があり、苦悩する今があり、そしてもう一度、日常が交差する。
・・・・・・いやもう、「こうなってくれ!」と願ったような爽やかなラストシーンに思わず拳を握ってしまいますよ。でも決して明るいだけのエンディングではない。

年相応に人生を積み重ねて、幸せだけを信じられるような日々は過ぎ去った。年月は肉体に、顔のしわに、くたびれた髪に刻み込まれる。
それでも美しいと思えるのは、彼女たちが生きる世界がどんなに美しくないかを知っているからだ。自分の心にだって醜さはどうしようもなく巣食っている。けれどやっぱり、覚悟をきめてもう一度誰かと向き合おうとした彼女たちの思いの結実は、ただただ眩しいのです。

女性ならではと言うか、人として当たり前のネガティブな感情は当然あって、それは否定しない。でも引っくるめて自分の気持ちをポジティブに引き上げてくれる、いい話だなぁ。


そんな感じの作品でした。全3巻、集めやすいしオススメですね。

こういう構成にするのなら、1冊で1シリーズが完結するように収録してほしかったな・・とも思いますが、連載の性質上仕方ないかな。どこかで各主人公たちがほんのすこしクロスオーバーするような番外編とかも見たかったかも。

でもあえて言えばというだけで、しっかりとテーマを持って各エピソードが完結していく良質なオムニバス作品集でした。

作者の糸なつみ先生は現在新作を連載中。
http://comic-it.jp/lineup/pachinko_a/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

こっちも期待大。

高月かのんキレる 『あげくの果てのカノン』3巻

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   私のことを途中で放り出すなら、結局は奥さんを選ぶなら、
   ずっと神様のままでいてほしかった。

いつもタイトルでポエってるけど印象的なシーンがあったので簡潔に。
先が気になりすぎて月スピ購読も始めてしまったキッカケの「カノン」第3巻。
屈折しながらも純粋で、それゆえに圧倒的な熱量を保ち続ける暴走恋愛漫画です。
いま最も目が離せない不倫恋愛×SF漫画であると言える。他に有るかは不明。
過去の記事はこちら。
炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻
第2巻ではカノンのライバル(と言えるのかはやや不透明だけれど、ポジション的には)となる、境初穂サイドを掘り下げていく内容でした。
3巻はこれまでい無かった形で、カノンの感情が爆発しまくる。
愛しい愛しい、わたしの神様。
あなたから貰ったのは恋と恋の歓びと、傷と失望と、地獄行きの片道切符。


正しいままで清らかなままで、美しい愛を死ぬまで果たしたいと願う。
けれど人の心は移ろう。崇な正義も変貌する。純粋な愛情も風化する。
間違っていると知ってもなお、過去の自分を裏切ってもなお。
生きていくには、現在進行系の己の感情が放つ声があまりにも大きすぎて
それを全てコントロールしきるには人類はきっと幼すぎる。
間違っていると分かっていても、踏み越えてしまう一線があるのだ。
第12話は先輩本人の本心も垣間見ることができる、夫婦のバックボーンが描写される。これが非常に刺激的。かのんフィルターが濃い目にかけられている本編なので、先輩はいつだってキラキラしているんだけれど、ここで先輩の「生の声」を聞くことができる。結果、やはり先輩はなかなかの曲者で、ぶっちゃけクソ男と言っていい。
けれどここで感じるのは、境先輩の心の傷の深さと、麻痺しきった感覚だ。
「どうせこの気持ちもすぐになくなるのに」と、全てを諦観した言葉が重い。彼の背負う使命もまた。
変わってはいけないと自分を律しても、戦うたびに欠損し、補修され続ければ過去の自分が少しずつ消えていく。自分の役目を全うするごとに、自分が少しずつ狂い出す。
あの頃の僕は、なにを大切にしていただろう。なにを尊く守ろうとしていただろう。
全てを受け止めてくれた妻からの言葉は、呪いとなり彼にのしかかる。
そしてそんな彼だからこそ。かのんの存在を気にかけた。
心の芯から永遠の崇拝を信じ切って、自分を慕ってくれる女の子。
境先輩はどんな思いでかのんの恋を、その狂気的な熱量を感じていたのだろう。
彼女の恋の強度を確かめることで、己の絶望を癒そうとしたのかもしれない。
または、すこし意地悪に、彼女を気持ちを試しているような気もする。
「変わらずにいられる感情なんて、本当にこの世にあるのか?」と。
まぁカノンにとっては先輩は神様なので、この世の全てのなにものと天秤にかけようと、先輩が死ねと言えば死ねてしまう人種なので、狂ってしまいっているので・・・彼女の規格外っぷりを、意外と作中のいろんな人達は測り間違えていく。
十分に狂っている世界と物語なんだけれど、その中においても並の狂い方じゃないぜ、この女の子の恋は。


2巻から引き続く、初穂さんといい弟のヒロくんといい、「報われない側」の人たちが本当にいい働きをしてくれる。彼らが新しい顔をみせるたび、悪意という色素をそっとかのんの心臓に滴らすたび、ゾクゾクしちゃうしストーリーはグングン面白くなるし。
いや「報われない」のは果たして誰なのかという事も思うが。
特に初穂さんの、計算高い魔女っぽいところと、すぐに泣いちゃうメンタルの弱さと、かのんに対しては「強い女」として立ち向かうところも、旦那への複雑な愛情も、研究への熱心さも自己嫌悪もなにからなにまでかわいい。かわいすぎる。
そして今回1番頑張ったと言えるヒロくんもかわいい。悔しそうに涙目になる思春期男子ってのは、もう食欲も増すってもんですわ。
ヒロくんなんて、きっと勝ち目なんてあるわけないと知って、それでもうっかり暴発してしまった。
今回からそんな2人がまさかのコンビ結成の兆しアリ。どうなるんだ・・・!!
そんな魅力的なキャラクターたちに手をひかれ、かのんの物語も熱気が増しまくり。
初穂さんの差し金とはいえ、今回ついにかのんは、神様に対して怒りを露わにする。
神様とその信者としてではなく、ひとりの女がひとりの男に対して、物申す。
そりゃあ、酷いことをされているのは間違いないのだから。
境先輩のせいで涙で目も晴らして、人には言えない恋をして、それでも裏切られ続けているかのん。
けれど怒れるようになったということは大きな変化に違いない。
本心を伝えることで、きっと面倒な女だと思われてしまう。嫌われてしまうかも知れない。それでもあなたを好きだからこそ、言いたいこともある。
もっともっと、私を愛してほしい。全てを捨ててでも、私を選んでほしい。
そんな欲深い本性がかのんの中で膨らんでしまっている。
それを口にして本人にぶつけてしまえるほどに、関係は進化している。
あの境先輩に、ビンタだってカマせる女の子になれました。
雨降って地固まる。激しくぶつかった後は、ご褒美ような、甘い逃避行。
目を細めてしまいそうなキラキラ眩しい幸せな時間。
文学的で美しい描写と演出の妙技がいかんなく発揮されております。
不倫という薄暗い関係でありながら、どうしてこんなに美しく、
それこそまるで儚いおとぎ話のような、憧れを感じる光があるのだろうか。


キャラクターそれぞれにしっかりと血が流れているのを感じる作品。
人物描写がリアルなのにエンタメになってるし、それでいてセリフひとつひとつに熱があって、共有したくなる美しさがあって、恐ろしくもあり憧れもある。
読みやすさと、絶妙な間に深いメッセージを感じるような演出の共存がされているのもたまりません。
ベタ褒めですけど本当にこの作家さんは漫画を描くのがうめぇなと思う。
どんどんとかのんが、”生”の女の子っぽく可愛らしく、エゴも強まり、
それでいて恋が深まるごとに誰かを不幸にして、自分すらも傷つけていく。
切ない世界観と、倫理に訴える必死な恋愛模様のバランスも最高。
3巻表紙、今回もやはり風に飛ばされる傘が登場する。
そして作中でもかのんが傘を持たないまま立ち尽くすシーンがある。
傘を持たぬ女、かのん。そこになんとなく、他の人とは違う生き方を選ぶことができる彼女の本質だったり、その内面の痛ましさだったりが感じられる気がする。
カノン3
世界から許されなくても、その想いを貫けるのだろうか。
変わらないものが、たったひとつでも、この世にはあるのだろうか。
『あげくの果てのかのん』3巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
かのんがますますどんどん可愛らしい。雨上がりの夕焼けと呪いのような“I’m Yours”.