ダンスという引力のなかぼくら『ボールルームへようこそ』10巻

ボールルーム104

竹内 友
講談社 (2020-01-17)
売り上げランキング: 2,861

 

8巻→(2年後)9巻→(2年半後)10巻!

めちゃめちゃ掛かってるじゃないですか都民大会編・・・!!

でも読んでみると素直に納得してしてしまう。漫画としての熱量、織り込まれたメッセージ性、人生をささげて舞台に立つ者たちのプレッシャー・・・作者がこれを描くにあたって立ち向かうべき物事の凄まじさを読者も共有できる。
そんなわけで2年半ぶりに届けられた新刊もすばらしい出来。
コミックスが紙の重みだけじゃない、心に覚悟を促すようなズシリとした存在感を放っています。圧。
いや、久しぶりの発売日の1月をスルーして今更読んだのに、なにを偉そうに書いているのかって話ですが。反省。

 

ボールルームのアニメ、見ましたか?めちゃめちゃクオリティ高かったですね。
動きあっての難しい題材の映像化なのに拍子抜けするようなことなく
最後までヒリヒリとした空気感とダイナミックなダンスシーンを楽しめました。
あと音楽のちからは強いですね。原作ファンですが、アニメを見てより理解度が深まる。

 

じつはアニメの最終話はすでに原作の先を行っていて、
今回もまだアニメ最終話で描かれた地点にはたどり着けていません。

クライマックス中のクライマックスの部分が今回の第10巻には収録されていおり読み応えは申し分なし。
アニメでは描かれていなかった描写や、キャラクターへよりディープに寄り添うエピソードなどかなりブラッシュアップされた内容。「アニメでもう見た」からと言って退屈は一切ナシといった具合。

 

10巻は主人公・多々良の覚醒が大きなトピックになってくる。
9巻でムリヤリ肩甲骨をベリベリと剥がされて(比喩ではなくマジで)、練習通りのダンスができずコントロールを失ってしまう。
危機を察した千夏がそこに必死にフォローを入れる、ギリギリのバランスで競技は進行していく。

千夏はもともと男役(リーダー)を経験したことで自他共に認めるじゃじゃ馬キャラだが、コントロール不能の多々良をなんとか制御しようと動くうちに、千夏が開花していく。
肩甲骨ベリベリの一件は、多々良よりむしろ千夏に先に作用することになったのだ。
互いが互いの動き、呼吸、存在そのものに対して全力で集中していくにつれ、
意識も肉体もまるでひとつの生き物になったかのような”気配”に震える。

それこそがゾーンともいうべき、次の段階への扉となっていた。
今回のその10巻は多々良と千夏のペアが明らかな進化を遂げていく中で起こった不和や緊張、混乱。そして開放がじっくりと描かれている。

ハイになったプレイヤーの心理状況をここまで漫画として表現できるのか、言語化できるのかってくらい、このらへんの描写は作者の気合が凄まじい。

ボールルーム102

試合中に回想する。
自分にとってのペアとは?千夏とは?どんな存在だろうか。

ここで「宇宙」という言葉を選び取った多々良にグッとくる。
未知。すべてを理解することなんて不可能。そんな存在を「宇宙」にたとえてくる。思いを馳せてしまうのだ。ふと立ち止まり、ひとりの夜に見上げてしまうのだ。そして途方も無い気持ちになる。

千夏は気性の荒いパートナー。そんな彼女からシンと静まりかえる宇宙を思う。

お前!!多々良!そういうところだぞ!!!

おなじ音楽でおなじリズムで、ひとつの表現を目指すペア。
まずそういう要素があまりにもツボなんですよね。恋愛感情とかあってもなくても、そういう性愛とは全く関係のない領域でなにか強烈なものを共有できてしまえる現象が尊い。眩しすぎるんだよなぁ!

相棒感、バディ感。とくに多々良と千夏はふだんは全然合わなくて、好きな音楽、体内で流れるリズム、まるで違う。それでも心を寄り添わせていく。重ねていく。ただ夢中になって美しく強く進化を遂げていく。

ボールルーム103

こんな顔して、心底楽しいって顔して、生きていられる瞬間って人生に何度ありますか?

このシーンのカタルシスが凄まじい。熱狂の渦の中で感情をモミクチャにされてたら、ふっと嵐が止んだ。台風の目のなかに行き着いたように、穏やかな音のない世界。

臆病な多々良とそれにヤキモキしていた千夏が勢いよく扉をあけた先には、ほかのダンサーも観客もいない、ただ眩しいだけの世界があったのだ。
まさに大会のピークシーン。ずっとエクスタシーが続くようなテンションで心が汗を書きっぱなしである。

多々良の胸から花とともに千夏のイメージが現れるのも泣ける。千夏が完全に多々良に気持ちを預けて、そしてこの心象風景の描写がある。これって完全に意識をひとつにできていると感じるんだよな。すべてを理解できているわけではないかもしれないけれど、それでもここが、これこそが「2人が目指す美」が初めて見えた瞬間だと思う。

その上で表紙をもう一度見てみる。

ボールルーム104

めちゃめちゃかっこいいなオイ。これって宇宙と、多々良の胸に秘められた『花』が込められてるじゃないか。ああ、もう。複製原画にして売ってくれーーーー!

 

 

さて、10巻といえば釘宮さんについても触れなければならない。
実質今回の都民大会編のラスボスである釘宮さんは、トラックにはねられる大怪我から復帰した努力のダンサー。そして伝統を重んじる堅実なダンサー。

多々良と釘宮さんはしばしば対照的な描かれ方をする。初心者とベテラン。キャリアの差だけではない。伝統的なスタイルを守る釘宮、伝統を覆す大胆なスタイルの多々良。

釘宮さんの境遇を誰もが知っている。夢を諦めてもおかしくない崖っぷちから戻ってきた。フェアな審査をしなければならない、そうわかっていても誰しもが期待をしてしまうのだ、釘宮という男の復活を。努力が実を結ぶ、美しいドラマを。

けれど釘宮さんの回想で描かれたその人となり、ダンスに夢中になった経由、その闇・・・・・・シンプルな美しいだけの復活劇には、本人がそれを許さない。哀れなほど落ちぶれたことは本人がだれよりも知っている。師に見透かされた。ただダンスに夢中になっていた幼いころとは違うことを。悲しく大人になってしまったのだと。

ボールルーム101

ぜんぶ背負って、全部覚悟して、笑う。
進んでこの地獄に戻ってきた自らを笑うように。

釘宮さんが競技中ほかのダンサーがただの黒いモヤに見えているエピソードもアツい。そうして他人を見ないフリすることで自分を保つことが出来ていた。
けれど多々良たちはその黒いモヤを振り払って何度も釘宮の目に映る。
「いつの間にか目で追ってしまう」・・・・・・ダンサーとして稀有な才能、そしてパフォーマンスを無意識のうちに釘宮は感じ取っている。

黒いモヤと戦う努力の男、釘宮。
パートナーと心を重ねることでしずかなたった2人の世界に旅立った多々良たち。
こういった対比がよりドラマを熱く盛り上げてくれる。

 

 

そんな激アツな状態で以下、次巻!
次は2020年冬らしい。まぁこうなったら思う存分じっくりと描ききってほしい。
体調面しっかり整えて、どうか、この渦巻く熱狂と美しい人々の物語の続きを見せてほしい。

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