付き合わないよと笑った 君と ならんで帰った。『セッちゃん』

 

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

  • 作者:大島 智子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-11-12

 

セッちゃんの「セ」は  セックスの「セ」だった。

セッちゃんを見守るようにそばにいるようになったあっくん。ふたりの大学生活をゆるく描いていく作品。けれど第一話の冒頭から示されているように、抗えない圧倒的な暴力性が内包された作品でもある。

いろんなところで見かける「あの絵」の人、大島智子さんの初の漫画作品。ヴィレッジな波動を感じたならそれは正解です。俺の大好きな、しゃらくさい漫画です。

この作家さんを最初に知ったのってなんだっけと思い返すと、たぶん泉まくらのMVでしたね。

 

こんなにデフォルメされたかわいいイラストなのに、なんでこんなに切ないんだろう。女性の生活感とか、だれにも見せないかわいいところとか、メチャクチャかっこ悪いとところか、なんかぜんぶ空気で伝えてくる絶妙の筆致。たまらん。

そもこの表紙もいきなり心を掴まれてしまう。色彩のうすいぼんやりとした曇り空としずんだ街、まっすぐにこちらを見つめる女の子と、少しだけ赤いほほ。

初の漫画となった本作。やるせなくて、キラキラ光ってて、夢見てるみたいにふわふわしてるのに痛いくらいに鋭いリアルが描かれている。こんな優しいタッチなのに描かれるのは性と暴力の世界についてだ。喪失感と浮遊感で胸がいっぱいになる。

連載は読んでいなかったのでこのコミックスで初めて読んだのですが、おもわぬ方向性に進んでいく物語にハラハラしてしまった。こんなゆるふわでドリーミーでポエミーでラブリーなのにあっさりとテロで人が死ぬ。緩急つけすぎだし速度も出すぎである。でもこのコントロールされきってないテンポ感も魅力だ。

 

なにより魅力的なのは、ムカつくけどこういう大学生活に憧れたなぁ、という憧憬だ。くしゃくしゃのシーツ。コンビニ袋にはいったままのジュース。片付け忘れた洗濯バサミ、薄着の彼女が眠っていて。0.02mmのパッケージとアポロチョコ。それが当たり前のようにそこにある。とても俗っぽい。とても生っぽい。この生活感とエロスが完全に地続きになっていて、そこに感動がまるでないことが感動的。

セッちゃんとあっくんはたぶん似た体温の持ち主だ。あっくんは幾分器用なので、自然にふるまうことで「こっちがわ」でい続けられる男の子だ。本質は非常にドライで、虚無を抱えている。

あっくんとセッちゃんは同じように空白を胸にかかえていて、その虚無が反響しあうように心が接近していく。互いにパートナーがいるので、それは恋ではないけれど。

セッちゃん1

くだらないことをしているって見抜かれて、そして共有できてしまう。静かな空間に強烈なシンパシーでつながっていく。

 

大学生にとっての『リアル』ってなんだろうと考えた時に、周囲となじめないコミュニケーションだったり、足りない単位だったり、彼女と汗だくックスがしたいという夢だったり、なにかの思想に取り憑かれてしまうことだってひとつのリアルだろう。

この作品はちょっと前にネット上でも盛り上がってたSEALDsをモチーフとしたような描写がかなりあって、その時点で俺は「ゲッ」と思ってしまった。そういうのに極力触れたくなかったので。彼らの思想の是非なんてどうでもよくてそういう刺激を受けたくなかった、考えたくなかったというのが正しい。だって怖かったのだから。

個人的にネット上で政治的なことを極力言わないように意識はしてますけど、それは自分はなんにも考えてない上に学もないアンポンタンなのがバレてしまうので余計なことは言葉にしないというのが大きな理由なんですね。なにかしたい、なにかで自己表現したい、鬱憤から開放されたい、でも何にも手に付かないというエネルギーばっかり溜め込んだ若者がネットで蓄えた知識で勝手な正義感で達成感を味わえちゃうのは分かるので、俺も違うスイッチが入ってたらハマっていたのかもしれないという恐怖はある。宗教とかと同説に語るのは違うけど、興味ない人種からすると同じだけ近寄りがたくて、けれど意外とすぐそばにあったりする。

というか大学の時、巻き込まれてデモの紛い物みたいなのに強制参加させられたりもしましたね。名古屋でプラカード持たされて。なんだったんだ。速攻抜けて映画館でアニメ見た。まぁ、そういう活動がある大学というのは調べてみると案外珍しくはないみたいです。最初やべーとこ来ちまったと思いましたけど。

 

 

脱線しましたが・・・そういうリアルを思い返すに、この作品に描かれているようななにか使命感に燃えてデモ活動をしている若者たちも、団体がエスカレートしだして「犯罪まではするつもりじゃなかった」とびびりだす群衆も、達観してか興味がないのか頭が悪いのか「なにやってんだろ」って後ろから冷めた目でみてる人々も、みんないっしょの世界で生きていることが本作ではストレートに表現されているなと改めて感じる。

セッちゃんの乾燥した生き方とそれは対象的だ。デモに参加する若者たちは意味不明なエネルギーに満ちていて、怒りと使命感に突き動かされていて、世界を変えようとしていた。セッちゃんはそんなこと望んじゃいないしきっと考えたことなんてなかった。いつだって彼女は、周囲に自分を受け入れてもらおうと必死だった。
弱い生き物だった。

セッちゃんはそういう忙しい世の中からずっと置いてけぼりにされて、ずっとズレちゃってて、へんな目で見られて、少しずつ生きづらくなっていって、そして息が続かなくなってしまった。かわいそうな女の子だった。

主人公も述べているが、あのタイミングでなくても、誰かの殺意に選ばれてなかったとしても、たぶん彼女のこの世界にうまく適合することが出来なかっただろうと思う。

やさしくされた。だからお礼にセックスをした。
それは彼女にとって当たり前のことなのに、まわりなそんな彼女をみて小馬鹿にしたりあるいは近寄りがたいを感じたり、あるいは下心を持って近づいたり、彼女はひたすら周囲から搾取されていく。それが彼女にとって1%の幸福だった。決して満たされない、けれど一瞬心が安らぐ瞬間だけがほんのすこし彼女に居場所を与えていた。

描かれるセッちゃんはふわふわと空気みたいにそこにあるだけの存在で、意思はなく、誰かまかせの日々をずっと送っていて、セックスばかりしているのも誰かから求められることに真面目にきちんと応えてしまっていたからだ。
居心地がよければそれでよかった。愚かだった。でもそれって人にとっての1番の「ほんとう」だと思う。
切実で、ときに最も得難いものだと思う。
居心地を求めて生きてるよ、それだけだよ本当に。

セッちゃんのことを100%理解なんてできない。理解できたらきっと俺は安心できるのに。なんでこんなに胸がざわつくのか、理由を知ったら俺は「なるほど」って落ち着きを取り戻して、たぶんもうすぐセッちゃんのことを忘れてしまうだろう。
希薄な女の子だった。

 

セッちゃん3

 

大好きなシーンだ。セックスしなかったね、なんてわざわざ確認しあったりして。
あんなに縋っていた肉体のつながりなんて要らなかったのだ。たしかにセックスは楽だった。それだけしていれば「ありがとう」も「ごめん」も要らない気がした。身体だけで安らげた。けれどいまセッちゃんはそんなことをしなくても通じ得てしまったのだ。そんなことをしなくても男の子を好きになれたし、好きになってもらえたのだ。まるで冗談みたいに。

。もしかしたらこの時点で彼女は「セッちゃん」ではなくなってしまって、だから物語からいとも簡単に消えてしまったのかもしれない。

セッちゃんは欲しがっていたものを手に入れていたのかな。遺された彼女のテディベアみたいなポーチにはコンドームが入っていた。胸が締め付けられる。でもあっくんとセッちゃんはセックスをしたら壊れてしまうような儚い関係にも思えて、すべてが壊れてしまう直前の、幸福のさなかに好きな人の前で命を落としたセッちゃんは、もしかしたら案外人生に満足していたのかもしれないな。勝手な想像だけど。
セックスを通じてしか他者とつながりを持てない、色を持たない女の子だった。そんな彼女がひとりの男の子を追いかけて外国にまで行っちゃって、また会えることが嬉しくてしかたなくて、まるで普通の女の子みたいだ。虚しい結末なのに、不思議といいことばかりが思い浮かぶ。

 

セッちゃん2

 

途中へんな話をしてしまいましたけど、いい作品です。センシティブな世代にたいする視線の鋭さを感じる作風。イラストレーターさんだけあって、どきっとするコマがたくさんあって、空白を読む楽しさがある。すごく現代っぽい漫画なんですけど、触れたら壊れてしまいそうな繊細さは、じっと息を潜めて夜によみひたるにはぴったりです。ぐちゃぐちゃにこわれていく現実と、それでも続いていくくだらない日常と、かけがえない思い出のものがたり。無情なだけではない甘酸っぱい感触。

 




花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

  • 作者:初谷 むい
  • 出版社:書肆侃侃房
  • 発売日: 2018-04-16

 

完全に余談だが大島智子先生が表紙を担当しているこの歌集が最高にエモキツい。ヘビロテしてる。ひとつの作品が2秒で読めるからな。それでいてずっと歌の世界にこころが置き去りにされてしまうのだ。

自分のなかの短歌という概念が完全にぶっ壊されてただ水のように体内に染みてくる言葉言葉and言葉。静かな読書をしたいぼんやりぐんにゃりな午後にぺろりとページをめくると一瞬で感情になる。一瞬で恋をする19歳の女の子になる。冗談はさておき本当に素敵な本で、短歌どころか言葉って日本語ってほんとうに自由が表現が可能なんだなという学びがある一冊。日常のささやかな一瞬を切り取って哲学から宇宙から女心やら自在に飛躍する混沌が楽しい。漫画もいいがこちらもおすすめである。大島智子先生のイラストを目当てに買うとあんまり載ってはないので残念かもしれない。でもほんと表紙がいい。そこにいたって会いたいよ。

 

 

好きな歌です。

ふるえれば夜の裂けめのような月 あなたが特別にしたんだぜんぶ

夜 きみのつまんない話に笑ってる 聖なる窓の埃を見てる

光ってみたり終わってみたり生活は降るようにあるめざましが鳴る

快晴がつくる逆光きみの名を一生覚えている気がするな

とこしえだ 言葉はぼくを響かせて骨をひとかけ花へと変える

言いたくてくしゃみにそれが消えてって夜のみなもに手を振っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1992年生まれの社会人男。漫画・小説・ゲーム・音楽等。 FC2でブログを書いていました 正直どうでもいい http://omuraisu0317.blog56.fc2.com

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