付き合わないよと 笑った 君と ならんで帰った。『セッちゃん』

 

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

  • 作者:大島 智子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-11-12

 

セッちゃんの「セ」は  セックスの「セ」だった。

セッちゃんを見守るようにそばにいるようになったあっくん。ふたりの大学生活をゆるく描いていく作品。けれど第一話の冒頭から示されているように、抗えない圧倒的な暴力性が内包された作品でもある。

いろんなところで見かける「あの絵」の人、大島智子さんの初の漫画作品。ヴィレッジな波動を感じたならそれは正解です。俺の大好きな、しゃらくさい漫画です。

この作家さんを最初に知ったのってなんだっけと思い返すと、たぶん泉まくらのMVでしたね。

 

こんなにデフォルメされたかわいいイラストなのに、なんでこんなに切ないんだろう。女性の生活感とか、だれにも見せないかわいいところとか、メチャクチャかっこ悪いとところか、なんかぜんぶ空気で伝えてくる絶妙の筆致。たまらん。

そもこの表紙もいきなり心を掴まれてしまう。色彩のうすいぼんやりとした曇り空としずんだ街、まっすぐにこちらを見つめる女の子と、少しだけ赤いほほ。

初の漫画となった本作。やるせなくて、キラキラ光ってて、夢見てるみたいにふわふわしてるのに痛いくらいに鋭いリアルが描かれている。こんな優しいタッチなのに描かれるのは性と暴力の世界についてだ。喪失感と浮遊感で胸がいっぱいになる。

連載は読んでいなかったのでこのコミックスで初めて読んだのですが、おもわぬ方向性に進んでいく物語にハラハラしてしまった。こんなゆるふわでドリーミーでポエミーでラブリーなのにあっさりとテロで人が死ぬ。緩急つけすぎだし速度も出すぎである。でもこのコントロールされきってないテンポ感も魅力だ。

 

なにより魅力的なのは、ムカつくけどこういう大学生活に憧れたなぁ、という憧憬だ。くしゃくしゃのシーツ。コンビニ袋にはいったままのジュース。片付け忘れた洗濯バサミ、薄着の彼女が眠っていて。0.02mmのパッケージとアポロチョコ。それが当たり前のようにそこにある。とても俗っぽい。とても生っぽい。この生活感とエロスが完全に地続きになっていて、そこに感動がまるでないことが感動的。

セッちゃんとあっくんはたぶん似た体温の持ち主だ。あっくんは幾分器用なので、自然にふるまうことで「こっちがわ」でい続けられる男の子だ。本質は非常にドライで、虚無を抱えている。

あっくんとセッちゃんは同じように空白を胸にかかえていて、その虚無が反響しあうように心が接近していく。互いにパートナーがいるので、それは恋ではないけれど。

セッちゃん1

くだらないことをしているって見抜かれて、そして共有できてしまう。静かな空間に強烈なシンパシーでつながっていく。

 

大学生にとっての『リアル』ってなんだろうと考えた時に、周囲となじめないコミュニケーションだったり、足りない単位だったり、彼女と汗だくックスがしたいという夢だったり、なにかの思想に取り憑かれてしまうことだってひとつのリアルだろう。

この作品はちょっと前にネット上でも盛り上がってたSEALDsをモチーフとしたような描写がかなりあって、その時点で俺は「ゲッ」と思ってしまった。そういうのに極力触れたくなかったので。彼らの思想の是非なんてどうでもよくてそういう刺激を受けたくなかった、考えたくなかったというのが正しい。だって怖かったのだから。

個人的にネット上で政治的なことを極力言わないように意識はしてますけど、それは自分はなんにも考えてない上に学もないアンポンタンなのがバレてしまうので余計なことは言葉にしないというのが大きな理由なんですね。なにかしたい、なにかで自己表現したい、鬱憤から開放されたい、でも何にも手に付かないというエネルギーばっかり溜め込んだ若者がネットで蓄えた知識で勝手な正義感で達成感を味わえちゃうのは分かるので、俺も違うスイッチが入ってたらハマっていたのかもしれないという恐怖はある。宗教とかと同説に語るのは違うけど、興味ない人種からすると同じだけ近寄りがたくて、けれど意外とすぐそばにあったりする。

というか大学の時、巻き込まれてデモの紛い物みたいなのに強制参加させられたりもしましたね。名古屋でプラカード持たされて。なんだったんだ。速攻抜けて映画館でアニメ見た。まぁ、そういう活動がある大学というのは調べてみると案外珍しくはないみたいです。最初やべーとこ来ちまったと思いましたけど。

 

 

脱線しましたが・・・そういうリアルを思い返すに、この作品に描かれているようななにか使命感に燃えてデモ活動をしている若者たちも、団体がエスカレートしだして「犯罪まではするつもりじゃなかった」とびびりだす群衆も、達観してか興味がないのか頭が悪いのか「なにやってんだろ」って後ろから冷めた目でみてる人々も、みんないっしょの世界で生きていることが本作ではストレートに表現されているなと改めて感じる。

セッちゃんの乾燥した生き方とそれは対象的だ。デモに参加する若者たちは意味不明なエネルギーに満ちていて、怒りと使命感に突き動かされていて、世界を変えようとしていた。セッちゃんはそんなこと望んじゃいないしきっと考えたことなんてなかった。いつだって彼女は、周囲に自分を受け入れてもらおうと必死だった。
弱い生き物だった。

セッちゃんはそういう忙しい世の中からずっと置いてけぼりにされて、ずっとズレちゃってて、へんな目で見られて、少しずつ生きづらくなっていって、そして息が続かなくなってしまった。かわいそうな女の子だった。

主人公も述べているが、あのタイミングでなくても、誰かの殺意に選ばれてなかったとしても、たぶん彼女のこの世界にうまく適合することが出来なかっただろうと思う。

やさしくされた。だからお礼にセックスをした。
それは彼女にとって当たり前のことなのに、まわりなそんな彼女をみて小馬鹿にしたりあるいは近寄りがたいを感じたり、あるいは下心を持って近づいたり、彼女はひたすら周囲から搾取されていく。それが彼女にとって1%の幸福だった。決して満たされない、けれど一瞬心が安らぐ瞬間だけがほんのすこし彼女に居場所を与えていた。

描かれるセッちゃんはふわふわと空気みたいにそこにあるだけの存在で、意思はなく、誰かまかせの日々をずっと送っていて、セックスばかりしているのも誰かから求められることに真面目にきちんと応えてしまっていたからだ。
居心地がよければそれでよかった。愚かだった。でもそれって人にとっての1番の「ほんとう」だと思う。
切実で、ときに最も得難いものだと思う。
居心地を求めて生きてるよ、それだけだよ本当に。

セッちゃんのことを100%理解なんてできない。理解できたらきっと俺は安心できるのに。なんでこんなに胸がざわつくのか、理由を知ったら俺は「なるほど」って落ち着きを取り戻して、たぶんもうすぐセッちゃんのことを忘れてしまうだろう。
希薄な女の子だった。

 

セッちゃん3

 

大好きなシーンだ。セックスしなかったね、なんてわざわざ確認しあったりして。
あんなに縋っていた肉体のつながりなんて要らなかったのだ。たしかにセックスは楽だった。それだけしていれば「ありがとう」も「ごめん」も要らない気がした。身体だけで安らげた。けれどいまセッちゃんはそんなことをしなくても通じ得てしまったのだ。そんなことをしなくても男の子を好きになれたし、好きになってもらえたのだ。まるで冗談みたいに。

。もしかしたらこの時点で彼女は「セッちゃん」ではなくなってしまって、だから物語からいとも簡単に消えてしまったのかもしれない。

セッちゃんは欲しがっていたものを手に入れていたのかな。遺された彼女のテディベアみたいなポーチにはコンドームが入っていた。胸が締め付けられる。でもあっくんとセッちゃんはセックスをしたら壊れてしまうような儚い関係にも思えて、すべてが壊れてしまう直前の、幸福のさなかに好きな人の前で命を落としたセッちゃんは、もしかしたら案外人生に満足していたのかもしれないな。勝手な想像だけど。
セックスを通じてしか他者とつながりを持てない、色を持たない女の子だった。そんな彼女がひとりの男の子を追いかけて外国にまで行っちゃって、また会えることが嬉しくてしかたなくて、まるで普通の女の子みたいだ。虚しい結末なのに、不思議といいことばかりが思い浮かぶ。

 

セッちゃん2

 

途中へんな話をしてしまいましたけど、いい作品です。センシティブな世代にたいする視線の鋭さを感じる作風。イラストレーターさんだけあって、どきっとするコマがたくさんあって、空白を読む楽しさがある。すごく現代っぽい漫画なんですけど、触れたら壊れてしまいそうな繊細さは、じっと息を潜めて夜によみひたるにはぴったりです。ぐちゃぐちゃにこわれていく現実と、それでも続いていくくだらない日常と、かけがえない思い出のものがたり。無情なだけではない甘酸っぱい感触。

 




花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

  • 作者:初谷 むい
  • 出版社:書肆侃侃房
  • 発売日: 2018-04-16

 

完全に余談だが大島智子先生が表紙を担当しているこの歌集が最高にエモキツい。ヘビロテしてる。ひとつの作品が2秒で読めるからな。それでいてずっと歌の世界にこころが置き去りにされてしまうのだ。

自分のなかの短歌という概念が完全にぶっ壊されてただ水のように体内に染みてくる言葉言葉and言葉。静かな読書をしたいぼんやりぐんにゃりな午後にぺろりとページをめくると一瞬で感情になる。一瞬で恋をする19歳の女の子になる。冗談はさておき本当に素敵な本で、短歌どころか言葉って日本語ってほんとうに自由が表現が可能なんだなという学びがある一冊。日常のささやかな一瞬を切り取って哲学から宇宙から女心やら自在に飛躍する混沌が楽しい。漫画もいいがこちらもおすすめである。大島智子先生のイラストを目当てに買うとあんまり載ってはないので残念かもしれない。でもほんと表紙がいい。そこにいたって会いたいよ。

 

 

好きな歌です。

ふるえれば夜の裂けめのような月 あなたが特別にしたんだぜんぶ

夜 きみのつまんない話に笑ってる 聖なる窓の埃を見てる

光ってみたり終わってみたり生活は降るようにあるめざましが鳴る

快晴がつくる逆光きみの名を一生覚えている気がするな

とこしえだ 言葉はぼくを響かせて骨をひとかけ花へと変える

言いたくてくしゃみにそれが消えてって夜のみなもに手を降っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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浪漫ある大学生活は斯くも遠い・・・!!『江波くんは生きるのがつらい 』

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-02-09

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田 阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-09-12

2巻を新刊売り場で見かけて買ったら大当たりした。久しぶりにクリーンヒットした新人作家さん。大学を舞台にしたラブコメ作品としてバッチリ面白いし(特に2巻から)さらに個性強めの主人公の空回りっぷりとか、ダメ男なのに周囲を引きつけてしまう天性の魅力を持っちゃってる感じがひたすらに面白い。

個人的に大学を舞台にしたぬるーい漫画がすきだってこともあってハマりましたけど、いやこれラブコメ的にもめちゃくちゃ面白いぞ!!なんで今まで見逃してたんだろ、悔しい。きららフォワードを雑誌を追う習慣がないからか・・・!

http://seiga.nicovideo.jp/comic/32745

ニコニコ静画で試し読みができる。1話も読めるのでぜひぜひ。
というかフォワード本誌からニコニコ静画へ移籍している。せっかく面白いのに、もしかしてこれってピンチなのだろうか・・・わからん。そうだとしたらとてもとても勿体無い・・・!

江波くんと同じく大学は文学部だったってこともあり個人的に共感するところが・・・・・・あるような無いような・・・・・・。大学モノのラブコメって絶対数が少ないという意味でありがたいですし、そのうえこんなキャラもぶっ飛んでて面白い漫画があるとはな。

 

 

とにかく主人公の江波くんのキャラがいいんだ。見ているだけで楽しい。
最初のうちは1話完結形式で、いろんなヒロインたちが登場してそれぞれと絡んでいく。けれど江波くんは文学青年で、小説を書こうとしていて、その題材のために劇的でロマンとセンチメンタルあふれる学校生活を送ろうともがいている。運命に導かれたドラマチックな瞬間を目指している。そのことのこだわりが強すぎて肥大化した自意識に絡め取られまくりなのだ。ようするに、イタい・・・!

 

江波16

 

ドラマチックな人生を演出するためのヒロインを探して入るものの、ちょっとでも出会い方を間違えると「あれは運命なんかじゃなかったんだー!」と発狂して関係を絶とうとしてしまう。
それ以外にも弱点が多すぎる。カラオケが苦手。集団が苦手。いざという行動が意味不明になる。こだわりすぎて小説をまったく書けていない、などなど。

こうして挙げてみると大体やべーやつなんだけど、そういう不器用で狭量で理想化でナルシルトなところが全部彼の魅力でもあり、読者をイラつかせないバランスに保てているのも何気にすごい。ヒロインとのフラグをびみょう~~~に立てながらも自分でバキンとへし折ってヒロイン置き去りに走って逃げてって、「お前なぁ!!」って言いたくなる、それが楽しい。

ひとりで高まって、ひとりで怖気づいて、ひとりで挫折して、ひとりで憤ってる。
もう全部ひとり。彼だけの世界で完結してる。
最初っから最後まで、相手のことなんてお構いなしで失敗していく。

 

江波11

 

それが面白おかしくて、ああコイツ面白いな愛らしいなって思うのに、ふとしたときに自分から距離を撮ろうとする時の彼の表情や言葉だったりがやたら切なくて寂しくて、胸かきむしられてしまうのだ。

 

江波15

 

本当に自分勝手だし相手を見ていない自己憐憫のくだらない真似事なのに、残念なことにわかってしまう・・・こいつのやってることやりたいこと、分かってしまう・・・!!!この共感性・・・!!!

女性に理想を抱くのと同じように、いやそれ以上に自分への理想が強すぎるせいで生きづらさが爆発している。作品タイトルに「生きるのがつらい」は重すぎやしないかと危惧がまずあって、その上で読んでみると生きづらさがギャグ的に消費されているシーンも多々あるので、薄っぺらに感じられてしまう可能性もある。

でもじっと読んでみると、やはり節々に彼の等身大の「生きづらさ」はそこかしこにある。自己実現に苦悩して、みんなができるいろんな物事が下手くそで、鬱になるとか自殺するレベルではないんだけれど、こういうちっぽけな悩みの連続が学校生活には当然のように満ち溢れているんだよなーって、思い出して甘酸っぱくなってしまうのだ。

友達もいないしもちろん彼女だっていない江波くんだけど、しょぼいなりに青春です、間違いなく。

ふざけてるみたいだけど江波くんは真剣に自分の創作へ情熱を燃やしている。そしてゆっくりだけどそれは進んでいく。失敗だらけでも、理想通りじゃなくても、彼は進んで行けているのだ。

 

そしてそんな江波くんを見つめるヒロイン。本作のやべーやつ第2号。
ほとんど江波くんのストーカーみたいなことしちゃってる清澄さん。

 

江波12

 

江波くんのイタさを見抜き(いや見抜くまでもなくダダ漏れだが)、以降ひそかに彼の動向を置い続けている彼女。せっかく美人で引く手あまたのに、なぜか江波くんを追いかけちゃってる。彼女の願いは「江波くんをいじめたい」である。

 

江波13

 

いろんなヒロインが登場するけれど、彼女はちょっと違う立ち位置。江波くんの日常をかき乱すトリックスター的な役割を担う。
江波くんの日常をかき乱すようにストーリーを動かしていくんだけれど、第13話では江波くんの初小説をはじめて読ませてもらえるという絶頂モノの役目をいただくことに成功している。

今後は江波くんの理解者、協力者としてのポジションを負いながらも、ひそかに彼女自信の欲望を追求していく感じだろうか。江波くんをいじってるときの清澄さん、メチャクチャ楽しそうで見てるこっちもにこにこしてしまいますよ・・・!

 

清澄さんの手伝い?もあって文芸サークルに入ることになった江波くん。いろんなヒロインが登場する本作ですが個人的イチオシの娘がこのサークルの宇家さん。

江波14

いっけんクールなのに地味に妄想爆発型のヒロインでして、この第12回のエピソードはアンジャッシュのコントみたいなすれ違いの会話劇がメチャクチャつぼでした。むしろ江波くんと似ている部分がかなりあるような気がする女の子ですね。

でも出てくる女の子みんなかわいい。それでいて、この記事内ではあまり触れなかったけれど、創作へのアツい思いもしっかりと閉じ込められている作品なのです。応援したいなぁ。あとこういう主人公が好きなのはもう趣味で性癖なので、どうしようもないですね。主人公のキャラの濃さが好き嫌い分かれるかもしれないとも思いつつ、コメディとしての出来がなにぶんいいので広くおすすめしたい。

平成の終わりに『最終兵器彼女』の新作描き下ろしを見て泣いた

週刊ビッグコミックスピリッツ 2018年48号(2018年10月29日発売) [雑誌][Kindle版]

週刊ビッグコミックスピリッツ 2018年48号(2018年10月29日発売) [雑誌][Kindle版]

  • 作者:週刊ビッグコミックスピリッツ編集部,のりつけ雅春,丹羽庭,小林有吾,上野直彦,こざき亜衣,石ノ森章太郎,三条陸,佐藤まさき,真鍋昌平,ジョージ朝倉,鍋倉夫,水口尚樹,藤木俊,金城宗幸,にしだけんすけ,吉田戦車,高橋のぼる,高瀬志帆,高尾じんぐ,さだやす,山本英夫,和田竜,吉田史朗,手原和憲,小田原ドラゴン,カレー沢薫,草下シンヤ,本田優貴,ホイチョイ・プロダクションズ,タナミユキ
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-10-29

 

あんまり嬉しくて記事を書き出してしまった。

 

 

スピリッツが通算2000号を突破したということで、歴代ヒット作家たちによる同窓会企画が掲載されたのだけど、そのラインナップがアツいということは当然のことながら至極個人的な感動を述べるなら、最終兵器彼女の新作が描かれていることがとてつもなく、ハンパじゃなく、嬉しい。

 

スピリッツ11

 

スピリッツの漫画で印象深いのが「七夕の国」かな。たぶん1番最初に触れたスピリッツの漫画だった。父親が持っていて、トイレの漫画置き場に置いてあったのをこそこそ読んだのを覚えている。小学生の自分には衝撃的なグロさとそれに逆をゆく蛋白なタッチがクセになり、まんまと本棚の「寄生獣」に手を伸ばすきっかけになった。その節はどうもという感じだ。すっかりアフタ購読者になった。七夕の国のオカルトチックというか伝奇モノっぽい雰囲気はほんとに後引いて、いまもかなり影響が残っている気がする。

あとは「ピンポン」ですかね。(読んだ当時の)同年代が描かれているはずなのにメチャクチャ大人びててメチャクチャかっこよくて、もう存在感が卑怯というか、しびれる漫画ですなぁ。アニメも良かった。評判のいい映画は実は見たことがなかったりする。アマゾンプライムにあるしそのうち見たい。

 

懐かしいタイトル(読んだことのないものもとても多かったけれども)が一堂に会するこういう企画はやはり楽しいもので、わけも分からず懐かしい気分になったりするわけです。とめはねとか、クロサギとか世代なので染みますね・・・・・・。

 

・・・・・・で。最終兵器彼女も参加しています。描き下ろしで2頁。

 

いやそこは「いいひと。」じゃないんかいとは感じた。作者の最大のロングラン作品だしドラマ化などもあり一般知名度があるのはこちらだと思ったんですが・・・でもサイカノ好きなので選ばれて嬉しいですマジで。(ドラマでの因縁があるのかと邪推してしまったが)

 

作者の高橋しん先生のツイートで掲載されてると知り
「ほうほう」と手にしてみたわけですが・・・・・・いやこんなの、ビックリするでしょ・・・

 

最終兵器彼女2000

なに普通に最終話の続きから始めてんだよ!!!

 

俺は!!!!そういうのを!!!!いつか出てくれとずっと願い続けてる完全版や文庫版の最後のサプライズ描き下ろし的なので見れたらいいなと思ってたんですよ!!!!!

ここでやるか!ここで!!

最高。ありがとう。ふたりが生きている未来を見ることができて。

冗談じゃなく泣いてる。壊れてしまった世界も、壊れてしまった彼女も。なにも変わらない。救われてなんかない。でもそんなのなんてことないように過ごしているシュウジがの能天気にスピリッツを楽しみにしてる姿とか、言葉じゃなくてもちせの思いが通じている様子が、完全に26歳サラリーマンの乾涸びた涙腺を爆発させている。やめろやめろ。

ナチュラルにシュウジが35歳になってて草生えますよ。連載開始の年からリアルタイムで歳とってたんかい。確かに、その、昔より・・・髪の量・・・が!! あ、でもちせはいつ見てもほんとかわいい。たぶんきっと永遠にかわいいのだ。なんたって最終兵器だもの。歳を取れないのではない、世界がちせにそうあれと、願ったのだ。

 

ガチンコの続編というわけではなく、結構メタいネタもあったりもお祭りムードある描き下ろしでしたけれど、さらっと重要な描写をしてくるあたり油断ならないったらありゃしない。

あんまり書くとクドくなりますけど本当にこの「最終兵器彼女」という作品には思春期をアホかというほど歪められてしまった。2巻の真っ黒いだけの見開きが連続する場面で「漫画にはこんな表現ができるのか」って震えたのが、漫画にのめりこむきっかけのひとつだったかもしれない。泣いて泣いて最終巻で抜いて、とにかく青春をささげてしまったと言える。

いま改めて作品を読むと昔ほどのピュアな目線で見れなくはなっているけれど、この作品が持つ圧倒的な愛おしさとか、絶望感とか、願う人の尊さとか、いまの自分の土台になっているフェチ要素がありすぎる。原点。これが原点なのか俺の。もはやわからなくなってきたけどとにかく大好きだってことは間違いない。

 

そんな偉大すぎる作品の描き下ろしで、あっさりと最終話のその後を見せられてしまった。
反則でしょそんなの・・・。この先どんな未来があるのかと、いや未来なんて存在しえるのかと、どうやったら宇宙と人の恋は共存できるのかと、もう意味不明な思考に陥っていた所で「毎週スピリッツを楽しみにしている35歳になったふたり」の登場である。やってられるか。号泣だよこっちはよ。

 

っていう、たった2頁の描き下ろし漫画で泣いたってだけの話。
「ツイッターでやれ。」

それにしても本当にサイカノは完全版が出ないなぁ。ぼちぼち出てもいい頃合いだと、10年くらい言い続けてますけど、出ません、文庫版も出ません。こないだアニメのBD-BOXは出ましたけど原作はまったくリマスターされません。

子供の頃読んでた漫画が文庫だったり完全版だったりすることがここ2,3年で増えて、そういう歳になってきたのだなぁとしんみり感じますが、ハチクロとサイカノはずっと待ってるのに出ない。頼む~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

アニメ版、評判わるいけど要所要所はきちんと描かれていたし曲は抜群だし俺は好きだよ・・・

 

 

あ、そういえばスピリッツで来週から西炯子先生が連載スタートだとか。楽しみですね。

 

 

 

 

やさしい世界はここにあったんだ。『事情を知らない転校生がグイグイくる。』1巻

 

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

事情を知らない転校生がグイグイくる。(1) (ガンガンコミックスJOKER)

  • 作者:川村拓
  • 出版社:スクウェア・エニックス
  • 発売日: 2018-10-22

 

やったぜ書籍化。これツイッターで見た時から好きでした。

 

これがバズって連載化、からのコミックス発売です。連載になってどうなるかとも思いましたが、なんともありません。この世界観のまま、なんなら特別なキャラ追加もなく、無邪気でおばかでヒーローな男の子と、死神とクラスから疎まれている少女のあたたかな交流をまるっとたっぷり楽しめる。

これが非常にね、ほっこりする。大変に安らぐ。
やさしい世界って、あるんだなぁ・・・

本当にただただ2人の関係をニヤニヤと眺めているだけの時間が本当に癒やされます。クソみたいな15時間労働かましたあとに読んだりするとふいに涙があふれることだってある。ふだん読む漫画の傾向としてシリアスっぽいのを好みがちなんですけど、ふとこういう邪気のない漫画を読むと、前より増して気持ちがほぐれてくれる。やさしい世界の断片を、きれはしを、残り香を摂取してなんとか生かされていると言ってもいい・・・。

まぁ「邪気が無い」というとヒロインが置かれている環境はどうなのかという所はあるか。でもこの作品って、ヒロインを悲劇的に描きすぎないところがミソだと感じます。暗くなりすぎない。読者を刺激しすぎない。ある意味では都合のいい設定ですけれど、このバランス感覚をある種メタ的に保っているのが、タイトルにも出ているグイグイくる転校生、高田くん。

彼がに周囲も西村さんも翻弄する見事な天然タラシキッズなのが爽快なんですね。

事情を知らない12

こっちもにやけがとまんねぇんだよな。

クラスメイトたちがいろんな言葉やいろんなイタズラでヒロイン西村さんをからかうんですけど、天然かつ根がいいヤツすぎる高田くんがすべてを浄化するので安心して読める。クラスメイトたちの簡単に丸め込まれちゃうお子ちゃまっぷりも、ある程度読み進めると笑えるポイントだったりする。

事情を知らない11

 

これは深読みのしすぎかもしれないけれど、本作はずっとページ縁が黒ベタなんですよね。ちょうど回想シーンみたいな雰囲気がずっと続いていく。

小学校という狭いせまい世界を描いていく作品だからこそ、なんかこの演出が効いてくる。もしかしたらこの物語自体が、未来のだれかが回想したり読み聞かせている『かつての日々』なのかもしれない。そう思うとさらにノスタルジックで、失われた尊さが輝きを帯びていく。

10年後とかに成人式でドチャクソ美人に成長した茜ちゃんが周囲を見返してくんないかな。それで、また引っ越していったはずの高田くんと成人式で再会して始まってくれふたりのストーリー・・・・・・・。恥ずかしがりませんわたくしは。

 

 

まぁさらっとした紹介になりましたけど、さらっと読めてニヤニヤできるいい漫画です。おすすめ。いかにもモブっぽい造形のヒロインがめいっぱいに愛されて幸せにされる物語、絶対に幸せを約束してほしい。

 

 


 

(ついでの話)

最近いろんな所で見かけるツイッター発漫画の単行本化についても少し書いてみる。個人的にはいい傾向だとも思ってるし、一概にいいとも言えないような気もする。

「グイグイくる転校生」とはぜんぜん関係ない話なので適当に流してください。

 

作家さんや雑誌側としても、そもそも知名度ある状態で需要のあるなかで連載をはじめられるのだから大きなメリットだろうな。あと雑誌連載でイマイチ結果を残せなかった悔しい作家さんが、ツイッター漫画でバズってるのを見ると嬉しくなる。ちょっと前に星海社のツイ4がはじまったあたりで「ツイッターで漫画をアップして拡散されよう」というブームがなんとなくできてきたような気がするけれど、高木さんも正直ツイッターでバズりまくった結果の大勝利という部分も強いし、かんぜんに今のブームですよね。普段使ってるSNSツールで、なんかしらんけど面白い漫画がTLに流れてきたぞ、っていう出会いの嬉しさってのが全体的にプラスに働いてるんだろうなーと感じる。自分自身、めっちゃふぁぼる。夜になって見返す。

ただツイッターってその時その瞬間の「あ、いい!」の脊髄反射的なファボやRTが多い気がして、拡散されることで多くの人の目には触れるだろうけれど、作家さんがそれによってメジャーになれるかというのも疑問だったりしますね・・・。

バズる漫画を傾向を見るとやっぱ4頁でまとまってるショートショート的な掌編がおおいのだけれど、それを雑誌で連載化となったときに、物語が動きにくいって所が弱点なのかもしれない。ツイッターで作者アカウントで不定期連載みたいにアップされる漫画のほうが意外と展開が面白かったりして、雑誌連載化する作品だと停滞しがちなような気がする(個人の感想ですが)。

あと個人的にムカつくんですけど、ピクシブとかツイッターでヒットしたタイトルをすぐに書籍化してくるときの一○社とか○川系列のあのおいしいとこだけ持っていこうという感じが。作家的にもせっかくバズった作品が書籍化されて世に出るなら嬉しいことのはずだけれど、「消費されてる感」が絶妙にモニョってしまうんだよなぁ・・・・・・。WEB誌連載ならともかく雑誌でWEB発ネタを雑誌で連載化させて、それでネットから作品を奪っておいて、やってることはWEB時代の焼き直し・・・・・・みたいなクソダサいことになってる作品見ると泣けますよ。編集なにやっとんじゃと。ツイッター漫画を商業化するならツイッターのリンクからワンクリックで読めるような環境でやらないといけない気がするんですけどね。

なんか文句いうのも辛い。こんな時代ですので、漫画のあり方、読まれ方もいろんな選択肢が出てきたってことなので、ズレた考えなのかもしれないですけども。

no pain,no love.『潜熱』3巻

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

潜熱 (3) (ビッグコミックス)

  • 作者:野田 彩子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-10-12

 

やりきったなぁ・・・!!よくぞ、よくぞ・・・。望んでいた、しかし辿り着けるとは思っていなかったエンディングだった。3巻とコンパクトにまとまってはいるが余韻が凄まじい。喪失感も達成感もある。そしてなにより、背筋が震えるほどの人間の性を見せつけられる。遭難船は見事に本懐を達したのだ。

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻
感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。『潜熱』2巻

致命的だ。末期的だ。ぜったいに間違えている。誰の目にも明らかに、よくない人生を歩みだしている。そんなこと百も承知で彼女は言うわけですよ。

 

選んでしまった。

怖くて不安で 初めから後悔してるのに。

私はあの人を選んだ。

 

はじめての恋だった。はじめて好きになった男の人だった。

けれど相手はヤクザの頭。平凡な19歳の女子大生が接していい相手ではない。にも関わらずどうしようもなく惹かれて、これまでの自分がどんどん壊されていく。狂わされていく。変わり果てていく自分すらも愛おしく、まっすぐ愚かに彼女は堕ちていくのだ。

潜熱32

もはやどんな言葉を投げかけられても無駄だと、どうしようもなく理解してしまっている。

1巻、2巻とますます瑠璃は”女”になっていってしまったことに一抹の寂しさを覚えつつ、いやいや俄然テンションあがるってもんよ・・・!(どっちだ)
完全に開花している。この難易度MAXな初恋にじりじりと灼かれながらも、彼女はどんどん強くなっていく。都合のいい女になって好かれよう、という姿勢はもはやなく。いや愛されたいだけの欲しがりなんかでもなく。逆瀬川と並び立てるような人間になっていく。

意思が弱いようで、こうと決めたことは頑なに譲らないような2面性のある主人公、瑠璃。彼女を通じて物語は進んでいくので読みても彼女に感情移入しながら読み進めるわけです。彼女の味わうはじめての恋の喜びや、闇の世界の恐怖感、好きな人にふれる興奮や、冷たい現実に打ちのめされる無念も。けれどここに来て、・・・いや2巻の途中あたりから察しましたけど、ある種彼女こそが作中No.1のサイコパスなので、どこまで彼女の気持ちに乗り切れるかってのがかなり本作の評価を左右するポイントな気がする。

ストーリーの面白さもそうだけれど、提示される価値観が強烈なのだ。
その価値観をまさに示してくれる瑠璃という女性が恐ろしくそして美しく、目が離せない。

潜熱34

彼女の危うさは、本職のヤクザをしても「1番怖い」と評価するほどだ。

周囲を簡単に振り回して、ときに裏切って、そしてひとりで修羅の道へ。
友人のトモちゃんとのエピソードが語られるこの3巻ですが、持っていきかたが卑怯すぎるんですよ。どれだけ彼女らの絆が深かったか。どれだけ思いやれる仲だったのか。それを思い知らせてから、それでも突き進む瑠璃の姿はもはや鬼。

 

困ったことに、悪気はなかった、なんて言い訳は絶対にしないんです。
全部わかってる。自分の行動がどれだけの人々を傷つけ、不安にさせ、迷惑を振りまき、救いの手を差し伸べてくれるような相手を裏切ることの重みを、彼女は背負っている。
ぜんぶ承知の上で堕ちていく。
肝の座りっぷりがハンパじゃない。本気になった女とは、こんなにも強く恐ろしく残酷で美しいのか。

潜熱33

そんな彼女の火は当然、逆瀬川にも伝わる。
3巻のおっさんはわりと瑠璃さんにデレデレ状態でもうかわいいなコイツって感じだ。
でも今回は彼にも試練は降りかかる。どんなにかっこよくたち振る舞っても結局の所、子供と同年代の女に入れ込んだスケベオヤジだっていう周囲の目は逃れられない。ひょうひょうと大人ぶっても、そういう評価をされてしまうことも彼は知っている。

年の差もありすぎるし、いくら瑠璃の方からアプローチしたとはいっても「純朴な一般人を巻き込むなんて」「いい歳してみっともねえ」なんてそんな陰口だって当然ある。そりゃもう、情けない限りに。

潜熱36

けれど瑠璃と同様、逆瀬川も腹をくくったのだろうという事実が震えるほどに嬉しいのだ。空港での襲撃のとき、必死になってに瑠璃をかばった彼の血走った目にこそ、普段は読みづらい彼の本当の愛情が感じられるように思う。「守ってやりたくなるよ」なんてキザな言葉を口にしたんだ、いい歳こいたおっさんが。そしてちゃんと約束を守った。最高なんだよな。

逆瀬川の元妻の登場が物語のピークでもあり、瑠璃の未来のかけらを提示したものでもあった。逆瀬川に向けた言葉も、瑠璃に向けた言葉もそれぞれの覚悟を値踏みしたいやらしい内容で、だからこそ彼らの本気が試された。

それにしても元嫁の回想シーン、素敵だったなぁ。
短いのになんかいろんな女性が逆瀬川に不思議と惹かれてしまうのがなんとなく分かってしまうのだ。無神経なんだけど奔放で、とおくを見ている顔が妙に様になってて。けれどそれは過去のものだともハッキリ伝わって、瑠璃もいずれこんな未来を迎えるのかもしれないと思うと、それはそれで寂しくもあるし、ほっと安心してしまうような、複雑な心境になってしまう。

潜熱31

最高の場面だ。3巻の76、77頁の見開き。瑠璃という女が化けた瞬間でもあるし、物語の行方がはっきりと定まってしまったシーンだろう。すべてを受け入れて、あるいは諦めて、全部飲み込んでしまった。

 

あなたが後悔した20年が

私のものならよかったのに。

 

かっこよすぎる。なんて切り返しだよ。

あなたが後悔したという20年さえも寄越せというのだ。なんという傲慢。なんという啖呵だ。むちゃくちゃですよこんなん。せっかくの助言も聞く耳持たず、後悔するなんて当たり前のように知っていて、けれど彼女は未来を信じていた。若気の至りとも言えるかもしれない。あまりにも早計だ。こんなアホなセリフ、まともな大人だったらもう呆れているはずだ。

でも人生の先輩として、そして”かつての瑠璃”として、逆瀬川の元妻として、彼女はとても優しい対応をしてくれていた。いや、言っても無駄だと理解したということもきっとあるだろう。死ぬぞと警告したのに自らそこに飛び込もうという阿呆にもはや何といえばいいんだ。「あの子が死んだら夢見が悪い」というセリフが出てくるほどには、瑠璃に対しての思いはあるはずですけどね。もしかしたら20年前の彼女も、今の瑠璃と同じ言葉を吐いたのかもしれない。

 

そしてそしてエピローグ。ここの余韻が抜群にいい。ほぼネタバレしちゃってるようなもんだがやはりここまで読んだ者にとっては、正否どちらであっても、おおきくため息をついてしまいそうなエンディングだ。複雑だけど自分の感覚を表すと、「あーあ。」ってのが1番近い。

人間描写がうますぎる。それはもう最初から思っていたことです。
表情に宿る力がなによりも雄弁に、そのキャラクタの苦しみとよろこびをこちらに伝えてくる。とくに瑠璃は終盤にかけてどんどんも罪深い表情をするになっていった。
そして合わせ技のように繰り出される、言葉という暴力性。惑いながらも自分に忠実に生きていく瑠璃という女性の内面をクッキリと浮かび上がらせてくれたモノローグ。巧すぎる。

エピローグが凄いのはひたすら表情で魅せるというラストシーンを描いたこと。
そして本作の特徴とも言える前述のモノローグを一切用いていないということ。
おだやかな空気のなかにいくつもの感情とドラマが潜んでいる。

そこにどんな思いが宿っているのか、読者は答え合わせができない。なにを思ってこんな表情をしている? そもそもあれからどうなったんだ? 他の人との関係は?

明かされない。なにも。読者に与えられるのは瑠璃と逆瀬川が通わすいくつかの平穏な言葉たちと、それから瑠璃が最後に見せてくれる不思議な表情だけだ。

「瑠璃さん」と逆瀬川が声を投げかけ、「はい」と返事をする。

ただそれだけなのに、何もかもすべてを捨て去ってここにたどり着いた瑠璃という女性のすべてが集約されている。家族、友人、環境、すべてを犠牲にして手に入れた幸福がある。でもなんだろう。ただ幸せだけがここにあるというのも違う。明らかな喪失感が漂っていて、読んでいると古い写真に吸い込まれたようなノスタルジックな気持ちになってしまう。
言葉と顔。シンプルがゆえになんとでも解釈できてしまえる絶品のラストシーンですね・・・。この短い数ページのエピローグで、いくらでも妄想できてしまう。

瑠璃の顔つきが、あきらかに変わっているのもやはり分かってしまう。逆瀬川が気に入った瑠璃は、こんな顔をする瑠璃だったのだろうか?そう考えると暗い気持ちにもなってしまうけれど、洗濯物を干す彼女をながめる逆瀬川の視線を見ると、まぁこれはこれでよかったのだろうかとも思っていしまう。グダグダ書いておいてなんですけど自分でもこれがハッピーエンドなのかとうか判断つかないんだマジで。メリーバッドというのが近いのかもしれない。

まぁでも、瑠璃という女性の変貌と生き様をここまで楽しく読ませてもらえたら悔いはない。素晴らしい読書体験でした。いやぁ。恋愛漫画っておもしれぇな。

コミックス3冊を並べると、カバーに使われているどんどんと青の色が濃くなっていっているのです。意図的であってもそうでもなくでも、そういうことにすらメッセージ性を感じてしまう。

 

 

そういえば、表紙のここはどこだろう。いや、”いつ”のだろう。

彼の好きな海辺の町でやさしく微笑みかける彼女の、その裏側に潜む強烈な独占欲。幾度となく彼女を焦がし、焦がし尽くした本能。あの純朴だった少女はどこへやら。けれどそんな瑠璃が大好き。どうか大人になって、この日々を回想し、彼女なりにいろんなことを思ってほしい。痛みと、世界のすみっこで祝福もされなかった恋の結末と、青すぎた19歳の日々を。

 

 

 

 

「どうしたら優しくなれたとおもう?」

 

 

 

潜熱37

 

 

 

 

 

わたしたち、健全なキョーダイです・・・よ?『キョーダイコンプレックス』1巻

キョーダイコンプレックス 1 (ヤングキングコミックス)

キョーダイコンプレックス 1 (ヤングキングコミックス)

  • 作者:9℃
  • 出版社:少年画報社
  • 発売日: 2018-08-17

童貞兄×恋愛経験豊富妹の群像系ホーム&ラブコメディ!

…と売り出すのはかなり危険な橋というか、じっさいこれでは詐欺にあたるのでは…ということでアマゾンレビューでもまぁブチ切れている人がいますが気持ちは十分わかります。わかった上で、個人的には好きな作品なのでこうして更新しています。

ブラコン・シスコンたちが複数登場する群像劇として描かれるのですが、恋愛対象として相手を見ているわけではない。つまりキャッチコピーとして言われている「ホーム&ラブコメディ」ですがホームコメディとラブコメディは完全に別…!!おいおい!妹が、兄が、姉が、弟が、恋愛対象じゃないなんておかしいだろ!!!という現実とは思えない日本語で怒りのツッコミをしてしまうことになってしまう…!!

個人的にもこの作品を買うにあたって、禁忌的な関係だったり緊迫感のある恋愛模様も見れるのではという期待から手を伸ばしたのも事実。

 

でもこれって作品の売り出し方が本質とズレてしまっているから起きてしまった悲劇なわけで、けっして作品として間違えているわけでもないし、描きたいこともきちんと伝わるんですよ。血の繋がりのある異性。人生のなかでも相当に長い時をともにする(ハメになる)相手との関係性だって、10組あれば10組ともがちがう。

キョーダイコンプ12

はぁ~かわいい。過保護なお姉ちゃんかわいすぎる・・・・・・
別に登場するすべてのきょうだいが別の相手とのフラグを立てていくわけではない。

十組十色の家族関係。
依存したり、過保護だったり、だれにも言えない気持ちを抱えていたり、案外ドライだったり。恋愛に限定しなくたって、ふたりの人間を結びつける感情はどれも皆オリジナルで同じものはない。家族愛、異性愛、共依存。いろんな感情が折り重なっているはずなのだ。

がッ……しかし…!一部の話だが……!!
これだけ兄妹仲を魅力的に描いておいて……!!
ラブコメの相手は別人ってそれアリか……!?

1巻読んでて終盤で妹ちゃんが部活の先輩の童貞メガネくんといい感じになったときビビり散らしましたけどね。兄に親しい女性ができた……その事に動揺に素直に祝福もできない妹……そこから畳み掛けられた別の感情!「毒が…裏返るッッ」烈海王かよ。NTRでもないのに勝手にそんな気持ちになって凹んじゃう全国のナイーブなお兄ちゃんたちが泣いてるぞ。

こうして読者が困惑したりかってに裏切られたような気になるのももしかしたら計算のうちかもしれませんけど、これは事前に知っておかないと人によっては怒りをいだきかねないミスリードなのでこの関係図を叩き込んでおくといい。(べつにすべての兄妹・姉弟がまったく別人に矢印が向いているワケでもないことも分かると思う)

キョーダイコンプ11

いや、俺はべつに真知ちゃんが和泉くんとくっつくのがイヤなんじゃない!そうじゃないんだ!ただ・・・でも・・・置いていかれるお兄ちゃんの気持ちも考えてって・・・そういうことだ!(情けなさすぎる)
そもそも経験豊富で重度なブラコンヒロインを攻略していく和泉くんをすげー応援したくなる。冴えないクソ童貞と小悪魔ギャルってカップリングとしてもたまらんすぎる。
大丈夫だ、この傷が癒えた先に、
激アツのラブコメ展開で俺はガッツポーズしてるハズなんだ・・・・・・!!

 

 

そういういろんな意味でこの作品をとても楽しんでいるんですけど公式側がリードをミスってるのでこういう書き方をしてしまいましたね。気分を害されましたらすみません。

複数のブラコン女、シスコン男が登場する群雄割拠の学校生活が描かれる本作。個人的に好きな一ノ宮兄妹のふたりですかね。ここは双子なので他とはまたちょっと状況が違う。彼らのシチュエーションはいちいちグッときますねえ、そもそも男女の双子ネタが好きなだけでもある。

キョーダイコンプ13

優等生でカタブツな兄と、奔放でいたずらな妹。噛み合っていないようでお互いにない部分を補い合ってる関係性がたまりませんねぇ。梨央は腹に一物かかえてそうな女ランキング1位。表面的に道化を演じてそうで、中身が信じられないくらい黒そうなので性癖にジャストミート。2巻ではもっと出てくれ~~~

そんなこんなの第一巻。キョーダイ同士のラブコメを過度に期待するとアレですが、キュートすぎる絵柄と時折ダークさが漏れ出てくる作風がハマる人はきっと多いハズ。最近いろんな雑誌で見返る注目の新人作家さんです。今後もチェックしていきたい。幸福も後悔も、いろんな表情を見せてほしいヒロインたち。

 

試し読み↓
http://comic.pixiv.net/works/4909

 

夜に静かに飛び散った、ぼくらのSNSミュージック『バジーノイズ』1巻

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

  • 作者:むつき 潤
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-09-12

 

しゃらくせぇ~~~~~~!!!でも好きなんですよねこういう漫画。ナイーブで、さみしげで、都会的で。シティポップを具現化したコミックスです。最近ので言うとSHE IS SUMMERとかLUCKY TAPESとかAwesome City Clubとかのライン。あとサチモスとかナルバリッチとか。この並びで

「キェ~~~~~!!!!!!」

「しゃらくせぇ~~~~~~!!!!!!」

ってなったらまぁはい。よしたほうがいいかもしれません。でも両方とも名曲です。オタクでも「ずっと真夜中でいいのに。」をネタに話すときに「おまえ・・・ど、どっち?」と相手の出方を伺うように、音楽も漫画もなにを嗜むかでマウントを取られかねないこの時代。大変な世の中ですよ。こちとら岐阜の片田舎に住んでんのにな~にがシティポップじゃ。眩しすぎるわ。

まぁでも、1話が試し読みできるのでせめてこれだけでも。↓

https://bigcomicbros.net/comic/buzzynoise/

のっけからエラくサクサク読めますよね。ずっとそんな感じです。コミックス1冊に1時間とかかけることもある俺もこの1巻は20分で読めた。でももう5回くらい読み返しちゃってる。

良くも悪くも空白がおおい作品なんですよ。絵的にも物語的にも、作風も。
余韻感じれたり、感覚的な感情表現とも取れるし、ひとによっては薄っぺらに感じられてしまうかもしれない。

とある番組で南海の山里が言ってた、嫌いな女の特徴の一つに

やたらと空の写真とかのっけて改行ばっかりのポエムブログをアップして自分にはアーティスティックな感覚があるように見せようとしてるけど改行とっぱらった瞬間に自分になにもないことに気づいちゃうのが怖いんですよそういうヤツは、ってアツく語ってたんですけど、

そういう類の「空白」なんですよ。

作品としてそう悟られてしまうのってわりと致命的だとも、思いますね。

(こういう改行)

でもそれ込みでも愛してしまう領域までこの作品は届いてるように感じる。ネットで無料でいくらでも音楽を聞けるこの時代だからこそ、こういうファッション感覚の軽さが逆にこの作品の持ち味になっている気がする。決して否定されるべき要素ではない。白地が多いことはスカスカだってことと同義ではない。

とはいえ軽いだけでは作品として長く読み続けようという気もなかなかなり辛いのも事実。1巻として空気感を見せる役割は十分に果たされているわけで、これからのキャラクターの深化に期待したい所。オシャレな見た目で、実はドロくさかったり情念がこもってたり、カッコよく取り付くまでもないほどの失態を犯したり、なんかしらフックようなものが欲しい。

作中でも言われていたように、イイカンジのカバーアレンジだったり弾いてみた歌ってみた踊ってみたってその手の創作は毎秒どこかで生まれ落ちているこの時代。ネットで一瞬盛り上がってすぐに消費されていくだけの存在からどう一歩踏み出せるかっていう所が、皮肉にもこの作品にも似たことが言えてしまう。3巻くらいまでのこの物語がどうなるかを見守って、そこできちんと自分の中でこの作品を評価したい。

でもこれだけSNS世代の現代的な作品でありつつも、装丁がばっちりと気合入っているのが嬉しい。CDジャケットのようなカバーもお気に入りだし、書籍としての存在感が抜群。完成された佇まい。デザイナーさんすごい。モノではなくデータで、なんなら無料でだって楽しめてしまうのはいまや音楽も漫画も同じ。だからこそ、実際に手にとってはじめて味わえる感動というのも間違いなくあって、いまやその”感動体験”に我々は対価を払っているのだと思う。リスペクトが感じられるような装丁がちゃんとしてある本は大好き。体験にお金を払うからいまやこんなに音楽イベントだらけになったんだもんな。

 

 

 

 

 

 

……さっぱり作品の説明をしないうちに話が脱線しまくってました。

マンション管理人の仕事をしながらこじんまりと自分のための音楽ライフを満喫していた主人公、清澄。しかしバンドマン好きのやんちゃヒロイン、潮の登場により、彼の平穏は大きく掻き乱されていく。とりあえず職はなくなり住まいも追い出されたので、流れで潮の部屋に居候中。

自分の部屋で自分のためだけに音楽を作っていた彼にとって、潮をはじめ、音楽の邪魔をする存在はすべてノイズでしかない。疎ましく感じているとき彼のそばには黒いモヤがぐちゃぐちゃっと描写される。

環境や感情におけるエフェクト表現がなかなか特徴的ですよね。さっきの主人公がストレスを感じたときの黒いモヤだったり、音楽が流れているのを表現する円形だったり。音の聞こえないメディアだけども、なんとなく雰囲気とか伝わってくるもんな。エフェクトの使い方をいろいろ模索しているようで、それを読んでいく楽しさもある。

BUZZY13

このシーン、主人公がとんでもなく落ち込んでるシーンなんですけど、ふだん外部に放出されているモヤが彼自身のなかで発生しているんですよね。そして繰り返される、自分を慰めるためのモノローグ。そしてノイズでしかないはずのモヤが、視界を埋め尽くしていく…。ノイズ表現がたんなる彼のストレス表現だけではなく、彼を縛り付けるものの象徴としても描かれる。

主人公は清澄はきほん悲観的です。音楽で儲けようなんて思っていない。一般の仕事をして最低限の収入を得て、ただ一人遊びに高じていたいだけ。彼の言う言葉はとてもリアルなのです。SNSや動画サイトを中心として、あたらしい音楽を発信するもキャッチするも恐ろしく容易になった。ネットにあふれるアマチュア音楽家たち。そんな時代に音楽で食べていくことがどれだけ困難か………まぁでも、音楽で食べていく現実をこんなに語れるなら、清澄もいちどは考えてしまったことがあったと思うんですよ。好きなことをして生きていく。…一握りの人にしか許されないそんな夢を。けれど現実を見て、諦めたのだ。

彼は音楽を本気で本当に好きだけれど、だからこそ距離を取りたがる。音楽だけで生きていないけれど、それが叶わなかったときが恐ろしい。真っ当で最小限に暮らしと、”ただの趣味だし”って言葉で自分を守る。現実を、悲しい言葉で卑下する。純粋に音楽がしたいだけって言葉もきっと嘘じゃない。でも挑戦なんてはなからしようとも思わない。そういうリアルな若者像が見せつけられる。きっとこの日本に、同じようなことを言っている人が3万人くらいいる。

でも潮ちゃんがいい娘なんですよ。空気よめねーけど。いい娘なんですよ…
ゴチャゴチャ評論家気取りの小難しい千や万の言葉より、
いっこの「すき」が最強だったりする。

BUZZY11

彼女が勝手にSNSでアップした清澄の演奏が、しずかにSNSで拡散されていく。電波に乗らない伝播こそ、今の時代の象徴と言えますね。ふとんでゴロゴロしながらスマホのスピーカーで聞く、切り取られたたった数十秒。favしてRTして、人から人へと手動で届けられていく。たったひとつのtweetが、夜に静かに飛び散っていく。
狭い部屋の小さなマシンから、届くはずのない彼方まで。

自分もよくTwitterでMVだったり演奏動画を張りますけど、あるいは見てくれている人に届いてくれたらいいな、好きなものを共有したいなという思いもある(個人用のアーカイブでもある)。そういう点でこの作品で見ている風景は本当に毎日みているものだから、ちょっとおののく。

広がりだした彼の世界は、ちょっとだけ鮮やかに、たしかに騒々しく。
今の彼はきっとノイズすらも音楽に取り込んで見せる。愛すべき傍らの喧騒。

 

BUZZY12

 

 

あとは・・・スペシャルサンクスに地下室タイムズがあるので、うまいことメディアを使ってしゃらくさい音楽好き内でバズってくれるといいんですが。俺もあのサイト大好きなんですけど、あのサイトからバンドを知ったとバレたくないっていうサイトなんですよね・・・あたらしい音楽の発掘にすごく助かるサイトなんですけど・・・「あっお前地下室タイムズで知ったクチ?」ってバレたくないじゃん・・・・・・とかそういう面倒くさいこだわり持ってるしゃらくさい連中におすすめです。(話題が狭すぎる)