血と血と血と血と血と血と血ときみがふれた光『ハピネス』10巻(完結)

ハピネス(10) (講談社コミックス)
押見 修造
講談社 (2019-05-09)
売り上げランキング: 1,325

 

『ハピネス』最終巻です。
黒基調で9巻まで来たコミックスの白も、最終巻は白くなりました(背の部分)
完結ということで改めて1巻のオビを見てみましょう。

 

ハピネス101

鮮血のダークヒーロー奇譚!!

 

うん。最初こそそんな感じでしたけど、後半なんかは完全にカルトホラー漫画と化していましたね!
というかカルト宗教編がめちゃくちゃ長い上に「少年誌でやるか?」っていう陰湿なエログロの嵐にちょっと精神参りそうでした。

 

けど、いい作品だったな。
終わりだけ見てしまえば、そりゃそうだと納得せざるを得ないややビターな味わい。けれど毎話ドキドキとさせてくれる、しっかりと内面描写とストーリー描写を濃厚に両立させながらエンディングにたどり着いてくれた。
たったひとりのレイトショーを見終えたような、充実感と孤独感。
深みのある読後感を与えてくれる作品となりました。

 

正直書きたいことは直接的にネタバレに関係することばかりなので
これから読む予定な人は下記戯言は読まない方がいいかと思います。
ネタバレ全開になってしまうので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・さて。いや俺はもう五所さんのことしか書くつもりがありませんが・・・。

ビジュアル的にも◎、フランクでいて陰があって「っす」って語尾につけちゃうイモっぽい娘がドストライクな娘がメインヒロインを張る貴重すぎる作品ではあったんですがいかんせん押見修造作品だし、しかも物語も吸血鬼と人間の共存なんて無理にきまってるじゃんってお話なわけで、けして王道のハッピーエンドを迎えられるなんて思ってはいなかったですよ。
むしろ結末を読んだら、物語としては本当に大切に描かれていることを実感できた。最後まで絆を感じさせてくれる。病院の窓ごしに視線を交わす場面では素でゾクゾクと感動で震えてしまった。
けど野暮ではありますが改めて言いたいのですが、

さすがに五所さんかわいそすぎるだろ・・・

こんな!こんな痛めつけるのほんとやめて!ってなっちゃったな・・・正直。
もう下半身もめちゃくちゃに犯される、乳○切り落とされるわで最悪オブ最悪ですよ。
しかもそれが長い長い。カルト宗教施設潜入~幽閉~陵辱~吸血鬼になりたい狂信者らのエサにされそう、っていうピンチの流れがね、なげえ。7巻から10巻前半くらいまでずっとボコられ呻くだけの五所さん。勘弁してくれ~押見修造~!!!!
おれは甘かった。押見作品でキャラ萌えなんか発揮しても報われっこないのに・・・「悪の華」で懲りずにまた俺はおなじ過ちを・・・何度繰り返せばいいんだこんなこと・・・

でもエピローグで幸せそうな彼女が見れて本当にホッとしました。
いいか。乳首がなくても育児はできる。母乳育児とかって話題はツイッタランドであんまり首突っ込みたくない面倒トピックですが、漫画にフィードバックすると案外興味深い。

五所雪子にとってのヒーローは誠だった。
同じ速度で歩めなくても、同じ場所で生きていけなくても。
そして彼女はもうひとりのヒーローと結ばれるんだよな。
なんの力もない、何の変哲もない、それなのに無我夢中で助けに来てくれた無力な人間に、彼女は人生をかけて救われていく。普通の幸せを手に入れていく。過去の呪縛から解き放たれていく。

 

ハピネス102

 

呪縛から解き放たれるような、ふたりの心象風景。
淡いタッチがエモすぎる&エロすぎる。

 

 

おおくの吸血鬼が直面してきたであろう、人間とモト人間の悲しい終わりの数々。
それらを思えば、誠と五所さんは限りなく幸せに良好な関係を保つことができた、稀有な例なのではないだろうか。
もちろんその過程にはただ事ではない悲劇があることを、我々は身にしみて知っている(特に6巻以降の悲痛な展開の数々によって)。だからこそ10巻のエピローグにて描かれていく、人々や街の光景にいくつか彼女の幸福な生活の断片に、震えるほど感動してしまう。
後述するが吸血鬼の悲哀というテーマと折り重なるように、五所雪子というひとりの人間が辿ったストーリーに宿る重厚なドラマがこの「ハピネス」という作品の魅力を決定的にしている。

 

 

吸血が背負う悲哀について。
吸血鬼は、街や歴史の陰に隠れながら、姿かたちを変えないまま闇にいきていく。
エピローグはとくに時間の経過速度が上がっていき、人々にガンガン変化が訪れていく。そして変わらない、いや変わることのできない吸血鬼という生き様の悲しみがより浮き彫りになっていく。
それは「永遠」という言葉に宿るどこか漠然とした憧れやきらきらしたイメージとは程遠い、
ただただ置き去りにされ、孤独に佇むしかない彼らの哀れな姿だ。
圧倒的な身体能力と生命力を持ってしても、けっきょく誰かの血を啜り、陰に潜んでいきていくしかない。依存しきった弱者。

この作品は結局のところ、彼ら吸血鬼という存在について非常に冷静に冷酷に描写を貫いてきたと感じる。ヒーローなんかじゃない。孤独で哀れだ。社会から阻害された弱者としての存在感のほうが色濃い。
ときに人間を蹂躙するほどの力を持っていても、物語後半でおおくの吸血鬼が人間の組織力・科学力に為す術なく屈服した。パーツごとに肉体を分解され培養液漬けにされるというバラバラリビングデッド状態にもなった。
それでいて、恐れられ、誰からも受け入れられず、飢えの苦しみにいつまでも支配されながら生きながらえていくしかない。
しかし終わりが無いかと思われていた吸血鬼にも死が訪れる場面があった。
第46話。とある重要なキャラクターである吸血鬼が死ぬ。
肉体を食われ、そしてその食った母体が死んだ時、ついに吸血鬼はしんだのだ。

「死ねるんだ・・・オレ・・・」

ひどく穏やかな表情。
まるで人間だったころの穏やかな感情を取り戻したかのような。

死ぬことを喜ぶ吸血鬼の姿はとても印象的だ。
吸血鬼たちすらも「生」にしがみつくしかない。生命や永遠を超越した存在なんかじゃない。ある種、矛盾した弱さを抱えているのだいうことを突きつけられた。
たしかにダークヒーロー的な描かれ方もされていたのだけれど、だんだんと後半に向かうにつれて吸血鬼の負の側面、弱さやくだらない生き様、疎外感や生きることの苦しみ、そういった要素もかなり描かれてきたんだな。

巻末にある著者あとがきの中で、「死と病」「疎外」といったキーワードを出していたけれど、間違いなくそういったメッセージが描写に詰め込まれていたように思います。痛々しいほど、ヒステリックな絶叫のなかに、いろんな思いが乗せられている。

 

 

ラスボス的な立ち位置だった桜根という男のドラマも、猛烈な痛みを伴い印象深いものだった。どこまでいっても理解できない、底知れないおぞましさ。と同時にどこかその孤独なありかたについては共感してしまうような、あやういバランスで成り立ってた。
にしても結構ストレートに現実世界の事件をモチーフにしていましたね。明らかに酒鬼薔薇事件だったし、カルト宗教関連はよくわからないけど、狂気の果てに集団自殺をして壊滅するのはジョーンズタウンでしょう。「あっこれ哲学ニュースで読んだヤツだ!」ってなっちゃったもんな。オカルト進研ゼミかよ。
ただそういう現実世界を脅かした事件がもつリアリティが本作にもかなり意地悪く効果的に作用して、何度もいうように6巻以降の展開はかなりホラーサスペンステイストが強めで「ダークヒーロー奇譚はどこいったんだよ!!!」ってキレ散らかしてしまった。
桜根についてはストレートにやべーやつなんですけど、いつまでたっても妹や家族に執着してしまう幼さや哀れさのようなものもあり、やっぱり一筋縄ではいかない。でも彼は特殊な方向に個性出てしまっただけで、誰しもが大なり小なりだれかと違うところがあるはず。優れていても、劣っていても、社会の倫理に反していても、偉大な功績を残しても、背中合わせのように人間は「そっち側」にいく可能性を秘めているわけであり・・・。

 

 

 

それでラストシーンですが、ここまで果てしない未来までいくとはちょっとびっくり。
アダムとイヴってことでしょうか。それにしても、やっぱりどこかスッキリとしない不穏な終わり方だ。まぁ押見修造先生はだいたいこんな感じか。
個人的には、行き着くところまで全部見せてくれたような気分で満足感はありました。
無情だ。ただただ寂しく、かなしい。
けれどどこか美しく、甘やかな破滅。

 

この作品に「ハピネス」とつけられた意味。わりとわからん。
わからないなりに、「ハピネスっていう物語です」って手渡されたとき、ああそうなんだ、そうだったんだって納得してしまえるような心地。「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」銀河鉄道の夜の一節を思い出してみたりする。
そういえば、この作品も空を見上げることがひとつテーマになっていたな。
渦を巻く毒々しい夜空に吐き気を催すときもあった。
けれどラストシーン、彼らを待っていたのはすべてを滅びを見守り輝く、満点の星空だった。
彼らの歩みのさきに、人類の歴史の続きはあるのだろうか。

全10巻。でもかなりサクサク読めると思います。
1本の映画を見るような気持ちで、2,3時間、この作品に委ねてはいかがでしょうか。
血みどろの絶叫のなかに光る、なにかを見つけられるのでは。

 

死んでいく
ふたりきりで、ふたりしかいない世界で、死んだ世界でぼくら

 

 

 

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ここにいたいよ『春とみどり』1巻

春とみどり(1)

春とみどり(1)

  • 作者:深海紺
  • 出版社:フレックスコミックス
  • 発売日: 2019年04月12日

 

『春とみどり』1巻が発売されました。WEB掲載のときから楽しみにしていましたのですが1冊でまとめて読むと、あまりにセンチメンタルでやさしい。思わず読みながら何度も顔を伏せてしまった。
これを4月に発売するというタイミングも憎い。狙ったんだろうか。

ひとまず、この第1話を読んでほしい。

とても出来がいいし、節々に感情をたっぷりと含ませた間があって実にポエミー・・・こういうの大好きなんだよな。

https://comic-meteor.jp/ptdata/haru/0001/

 

「春がずっと嫌いだった」
ささやくような呪いの言葉から幕を開ける物語は、ひとりの女性と、それからずっと年の離れた少女の交流を描いていく。
31歳のOLの主人公みどりは、周囲に馴染めないままひっそりと暮らしている。
春、突然の報せが届いた。
いちばん好きだった、大好きだった、かつてのクラスメイトつぐみ。
密かな想いを寄せていたその親友がこの世を去った、らしい。
しかし向かった葬式で、ひとりの少女をみて呆然とする。
14歳の少女は春子<ハル>。つぐみと瓜二つの彼女は、つぐみの娘だった―――

身寄りのないハルをみどりは引き取ることを宣言。
初対面で、相手は大好きな親友の娘で、いびつに突然にふたりの同居生活がはじまる。

ストーリーは入り組んだところはないけれど、とにかく見せ方がうまいので表情も言葉も刺さる刺さる。さらさらと流れるように読めるのに存外にフックが多い印象。
正直言ってこの仕上がりっぷりで新人作家さんの初連載ってマジ?ってなる。
個人的に喪失を描いたストーリーはモロに性癖。「喪失によってつながる人間関係」最高なんだよな。疑似家族も大好き。もっと寂しさを共鳴させてほしい。もっとおどけた生活に癒やされてほしい。もっと痛みを隠して、それでも微笑んでいてほしい。

春とみどり11

つぐみへ寄せる想いの強さは計り知れないみどり。
普段は弱腰な彼女が、モノローグだけでも「私がいちばん」と言えるくらい
彼女にとってどれだけつぐみが大きな存在だったか。
清らかなだけではなく、信仰心、むしろ強い執着心のようにも感じられる。今は素振りもないが、どこかでみどりのこの危うさが炸裂しないことを願いつつ、そうなったら面白そうだなとも思ってしまうな・・・。

 

一方でハルはつよい少女として描かれている。
母親を亡くし身寄りもいなくても彼女は涙を流さない。その事を心無い参列者たちに陰口を言われても、彼女はじっと口を閉ざした。耐え続けた。

読み返してみると明らかに第一話のころのハルは目つきが通常よりも鋭いというか、険しい顔をしている気がしますね。
そこから徐々にやさしくなっていく。みどりとの生活の中で少しずつ笑顔を取り戻していく。しかしまだ彼女はきっと悲しみを受け止めきれてない。飲み下させてないし、もちろん消化もできてない。キャパを大幅に超えた悲しみと、新生活への戸惑いがまだ彼女のなかに強くあるように思う。
そりゃあフィクションの中で身寄りのない少女なんてたくさん出てきますし、だからといって彼女たちに悲しみがないなんてことはありえないわけで、一人ひとりの中に堪えきれないほどの絶望は息づいているのだ。

第一話で描かれることのバックボーンに、中学卒業以降おそらくつぐみの都合で離れ離れになり、二度と会えなかった事がすけて見える。
つぐみの家庭環境の秘密は、今後のみどりとの日々との関係してくるはずだし、今後のキーとなってくるだろうとは思う。

みどりもハルも、違った角度から「つぐみ」という存在を失った喪失感を抱えている。
それが反響させながら、いくつも思い出をかざしながら、少しずつ温度を取り戻していく。このゆっくりとした空気と、そこに漂う救いの光のようなきらめきが、めちゃくちゃに心を切なくさせるのだ。

春とみどり12

きっと長い付き合いになるだろうと思う。
だからこそゆっくりでいい。ゆっくりがいい。初対面から始まったこの奇妙な関係を、少しずつすこしずつ味わっていこう。

 

冒頭にも書きましたが、感情の含ませ方がとてもうまい作品。
全体的に淡いパステルカラーような感覚の物語なんですが、その中でハッとさせられる場面がとても多い。演出面がうまくストーリーも盛り上げてくれている。
この甘酸っぱい空気。けれど容赦なく突き刺す喪失の傷。このバランスが感覚がたまらないんだよな。2巻以降も楽しみな作品です。
「あなたのいない春なんて」
けれど今、あなたが世界にのこしてくれた体温に触れている。
こんなにもそばで息をしているのだ。想いを告げられないまま。あなたの微笑みを思い出しながら。

 

春とみどり13

余談ですがメロブ特典のカバーもいい。見比べると、つぐみと春子とではやはり表情がまるで違う。いつかハルも、母と同じように笑えるといい。

 

 

 

 

 

 

 

インターネット、僕らの呼吸が夜になり音楽になる。『バジーノイズ』2巻

とりあえず、しゃらくさいシティポップを聴いて口の中をセンチメンタルにしていくか。

SHE IS SUMMER / 出会ってから付き合うまでのあの感じ

ふぅ~~

 

 

「出会ってから付き合うまでのあの感じ」だァ~~~~~!?!?!?

 

 

・・・

よし!

 

 

バジーノイズ

バジーノイズ

  • 作者:むつき 潤
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2019年01月11日

 

バジーノイズ2巻が発売されていますよ、しばらく前に。
先日発表となりましたが、なんとバジーノイズをベースにライブイベントが開催されるみたいですね。その名も「バジーノイズライブ」まんまやんけ。でもせっかくリアル感ある漫画なので、こういった体験型の音楽イベントが出来るのは素晴らしいですね。ファンはぜったい行きたくなるやつ。参加アーティストが素で気になる。

作品のクレジットを読むとわかるように、地下室タイムズさんが協力していることもかなり影響しているような気はしますね。あそこはもはや完全にひとつのメディアと化していて、サイト単体の企画でフェス型イベントを開催できてしまう影響力があるし。主催の石左さんがいつだったか、一度会ってみたいバンドマンにGrapevineを挙げたら偉い人に「いつでも会える人じゃん」的なこと言われキレてたのがかなり好きなエピソードだ。

 

そんなことはさておきバジーノイズ2巻である。スピリッツにて連載中。

一巻の感想は前にアップしました。
夜に静かに飛び散った、ぼくらのSNSミュージック『バジーノイズ』1巻
1巻は主人公の清澄と、彼の日常を破壊していくサブカルガール潮のふたりでほとんど展開していった。ゆっくりとした進行だ。それだけ、清澄というキャラクターが外部へのドアを開けるのに時間がかかったという証でもある。

ただ2巻からはサブキャラも出揃いはじめ、徐々にではあるが世界がひらけていく。いや、膨らんでいく感覚。1巻のストリートライブの興奮は、読者も作品そのものも突き動かしていく。

相変わらず清澄はなにを考えているのかいないのか、ふわふわと漂うような生き方をする男だ。しかし世間が、世界が、彼がひとりでいることを許さない。いつしか彼の周囲には、本気で音楽をしたい奴が、人生行き詰まっている奴が、仕事と情熱のはざまで揺れている奴が集まってきている。

1巻で清澄は自分だけが楽しめればいいと、それで満たされる生活があればいいと言う人間だった。自己満上等。それでいい。はずだったのに。

 

バジー22

 

突き動かされたのは外野だけじゃない。当の本人だってあてられたのだ、あの興奮に。
音楽はそういう作用がきっとある。大好きな音楽に触れて、形作り、流し込み、高く飛べるようになる瞬間。そういのを与えてくれるはずなのだ。

というわけで、1巻よりグッと積極性を見せてくれる清澄くん in VOl.2
なんてこと無い変化だけど、代えがたい輝きがある。
臆病な少年がゆっくりとこちらを振り向いてくれたような、そんな嬉しさだ。

 

 

清澄のスタンスはこの作品の雰囲気をそのまま写し込んでいる。
音楽に全幅の信頼なんて置いていない、そんなもの置いちゃいけないことを知っている。本気になってもうまくいかない現実におびえている。傷つかないように「これでいいんだ」と自分だけの世界に浸っている。フォロワー数とかRT数に一喜一憂して、そんなことで本物なんて知ることはできないと薄々わかっていながら気楽で居心地いい価値観に埋没して。自室のモニターから世界を見て、わかった振りしたりして。

そういう空気感。あきらめも希望もぼんやりとした蜃気楼の向こうがわ。リアルなとこなんだと思うんですよ。リアルがなによりリアリティが薄い。感情も、評価も、存在さえ。

「どうせ」と「そもそも」と「もういいや」と・・・
そういう世界観を、清澄自らが突破していくことの気持ちよさ。
2巻、明らかにエンジンがかかり出している主人公にとても気分がいい。

 

 

清澄も好きだけど個人的には調子ノリまくりのサブカルガール、潮ちゃんがお気に入り。いつか絶対炎上して「どうしよ~~~~」って涙目になってて欲しい。アカ消しまえに醜態をさらす女であってほしい。間違えた。清澄をむりやりに引き上げていってほしい。だれかに求められること、寄り添い音楽を奏でることの心地よさを、彼に教えたのはきっと彼女なのだから。

バジー23

それにしてもすげーナチュラルにいっしょに風呂はいってて草ですよ。

まじかー。1巻でも匂わせ描写はあったけど。え、個人的にはふたりは付き合わないで欲しい・・・・・・いや付き合ってるかな・・・たぶんヤッてるか・・・なにげにショックだ・・・やっぱりバンドマンなんてクソなのか・・・

 

 

そんな潮。いつも暴走気味、炎上気味な彼女がふと、物思いにふけるシーンがある。

「出会わんかったらよかったと、思われてないやろか」

と。ああ、そういうことに怯える女の子でもあったのかと、再発見した気持ち。第一話でイタい目みていたので、ちょっと人間関係に臆病になってしまうところもあるはずだろう。それが普通なのに、意外とそういう一面を見せてこなかった潮。かわいい。かわE超してかわFやんけ。

彼女のそんな悩みに、さっそくアンサーがだされている。

1巻末のストリートライブでもそうだけど、清澄はここぞというときにモノローグを通じて感情を顕にする。2巻でもそう。前座としてステージにあがって、音楽を奏でるとき、ようやく彼は語りだす。音楽に合わせ、饒舌に、言葉が引きずり出されていく。

バジー24

ありがとう、だなんて。

ひとりきりの世界の壁を、文字通りブチ壊してやってきた潮を思い浮かべて、
こんな優しく微笑んで歌える。音楽のせいに他ならない。

誰かの前で歌えることは嬉しくて、出会いは嬉しくて、音楽に苦しむこともきっと嬉しい。それはひとりでは出来ないことだから。

 

 

 

おれがツイッターでポチポチとふぁぼリツするその向こう側で、だれかのドラマが動いている。そこに涙もあれば幸福もあり、突き進んでいく熱がある。そして自分もそのうねりの片隅に居場所を与えてもらっているような、そういう温かみとか感動がある作品なんですよ。すごく自分と距離が近い気がするんです、なんとなく。ステージでめちゃくちゃにかっこいいライブをするバンドマンを描いた漫画でも、こんな感覚にはきっとならない。インターネットによってつながる感覚というは、現場で音を浴びるのはまた別次元の快感なのだ。

それと同時に、つながりを一概に是としないような、孤独になにかを突き詰めることを否定しない空気感も魅力的だ。シニカルなシティポップの手触りのまま。

もちろん、せっかく音楽なのだから、その音を生で浴びれたのならそれこそ幸せだし、快感だ。いこう、バジーノイズライブ!この世界に生で触れることができるぞ!

・・・俺は金がないのでいけませんが。転職活動ついでに行けるか?無理か。

 

 

バジー21

 

いつまでもこんなしゃらくさい見開きが好きなので多分きっと一生そう。

インターネットで簡単に世界と繋がれるこの時代に、スマホも見ずに手ぶらでゆったりと、夜の岸を歩くのだ。
世界と自分と、海と陸と、夜と朝と、音楽と”ぼく”の、それぞれのはざまに。

浸って読むにぴったりの漫画です。

 

 

 

 

いびつな君、いびつな歯ならび、いびつな愛。『不完全で不衛生でふしだら』1巻

不完全で不衛生でふしだら 1

不完全で不衛生でふしだら 1

  • 作者:すのはら風香
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2019年01月25日

コンプレックスでグズグズしている少年に、かわいいけど変態な少女がグイグイくる。
なるほど、好きなヤツですね・・・!

本作でデビューとなるすのはら風香先生はもとは同人で活動していて、この作品もコミティアで発表された作品がベースとなっています。これで賞を獲得し、そのまま連載化となりました。

【C91/コミティア119】創作男女本サンプル | すのはら風香 #pixiv https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=60564696

個人的にもこの同人誌が好きだったので、連載となったのがとても嬉しかったですね。主人公の腐りっぷりと女の子と仲良くなれてしまったことの感動やとまどいが程よく合わさっていて、まさに思春期のクソガキなんですよ。かわいくてたまらないわけです。

ポイントはやっぱり、コンプレックスの逆転。
主人公は歯並びが悪くて、それを気にして常にマスクをしているとうまく周囲にも溶け込めない鬱屈っぷり。どうやら過去にトラウマも抱えているようだし、完全に陰キャ。口内コンプレックスこじらせ男子。

ふしだら11

なのにその少女は、突然現れて突然顔を掴んで、そのコンプレックスに素手で触れてくる。

とつぜん顔掴んで口ん中に指つっこんで、ぐりぐり、ねっとり、一方的に愛を告げてくるのだ。俺にじゃなく。俺の口内に。

同人版ではもっと主人公の歯並びが悪くて良かったんですが、コミックス版はじゃっかんマイルドになっているかな。でも、この歪んだ関係性にビビッときてしまう。

主人公の歯並びに強い興味を持つヒロイン、麻衣子。歯医者の娘だから幼少のころからいろんな歯並びを見ているうちに、たぶんあえて美しいわけじゃない個性的な歯並びを好きになっていったんだろう。
そんなわけで主人公と麻衣子はたびたび学校で、こっそりとイチャイチャしているわけです。飯を食べてるところ観察したり、歯に触れてみたり、ハミガキをしたり。・・・イチャイチャか?これ?
こんなんセックスとなにが違うんだ。なにが違うってんだ! 2度言った。

 

人様には見せられない、きっと納得も同意も得られない、ふたりだけの理解と接触の性愛。

人のコンプレックスも、美しくない歯並びも、そこにずけずけと触れてくる行為も、グロテスクなものだと思う。きつい言い方になってしまうけど、本来秘密にしていたいものだ。誰かに無遠慮に触れられたら痛むのだ。なのにそんな忌避されるべきウィークポイントに土足で踏み入って、たやすく触れてくる。そんなことほんとは許されないのに、彼女はその人のいちばん敏感なところを撫でてくる。グロテスクな行為だと思う。

けどそのグロテスクな接触が、こんな甘く映る関係性。ちょっとインモラルで、とてもクローズドな行為を通じて、恋愛未満セックス以上の世界が繰り広げられていく。
“ボーイ・ミーツ・ガール”って感じなんだよな。
やっぱり欠けたところを愛してくれる、違うもので満たして「あ、これでいいんだ」って思わせてくれるような救いの存在。都合がいい夢。そしてそれが相互であればもっといいわけで。

そういう意味ではヒロイン・麻衣子の特異性・異常性が作品のキーとなっているにも関わらず、作中ではそんなに浮いていないっていうのが意外なところかも知れない。

まぁ、だってね。かわいいもんね。

ふしだら12

はぁ~~~~~~~~~~~・・・・・・ コラッ!!麻衣子!!だれにでもそんなふうに微笑んでいるんだろう!? 「えっそんなことないよ!」「えっ、」「えっ。。」ってなるやーつ・・・(ED先生文脈

いや、手にしたペンチが不穏ですが・・・ いい。いいですよこれは。主人公にとって言い過ぎでもなんでもなく、神様みたいな女の子に映っている。どれだけ救われているか、どれだけ惹かれているかそれだけ主人公自身がどこまでわかっているのか・・・コラッ湯上麻衣子!いま気づいたけど名字が「ゆがみ」じゃないか!(今かよ)

 

変態性癖ラブコメヒロインとして必要な動きは十分にしてくれるし、小悪魔なのにちょっとポンコツなところが愛くるしいですね。気を引くためにあえて日課の歯磨きプレイをお預けしていたのに、主人公がとくに気にしているそぶりも見せないもんだから寂しくなって自分から言い出しちゃうやつ。はぁ~↑↑ こういうところなんですよ。いやらしいことはたくさんしてるのに付き合ってもいないし不思議な妙ちくりんプラトニックなバランスがいい。

 

 

あと、なんか興奮の度合いがやばいです。

 

ふしだら14

 

・・・。

彼女いわく、主人公の歯並びはあまりにも性的に卑猥すぎるためもはや顔面男性器と呼べる代物となっており、おもに下半身が大変なことになってしまうようです。

・・・読切版よりストレートに痴女になってんな!
これが「商業版」ってことか・・・!

しかして、個人的にはもっとインモラルな方向性に行くかという期待もあったりしていたので、1巻を読んだ限りでは変態性癖ラブコメとしてちゃんと電撃系列な作りになっていると思うが、ほんのりと物足りなさもある。

もっとドロリとした要素も欲しかったなぁ。「よからぬ関係性が始まってしまったぞ・・・!」という胸の高鳴りをもっと感じていたかった。かわいらしい2人なんだけど、あのむわっと湿り気の感じる質感がもっと出ていれば最高だった。

まぁ、かと言って麻衣子の特異性が作中でことさらに話題になって彼女が学校で迫害されたりとか落ち込むような展開なんて見たくない!俺は生ぬるいラブコメ時空でねっとりしていたいんだ。俺をここに捨てていってくれ。歪んだ性癖を許しあえるこの楽園に・・・。いや彼女の性格だったらうまく生き延びるだろうな。擬態、うまいもんな。

人様にはなかなか見せられない二人だけのオリジナルの性愛を描く作品なので、ディープにゾクゾクさせてほしいなという願望はあります。「どう展開されるんだろう?」という疑問については、1巻を読み終えても依然あったりする。
頼む!心配にならない程度にくらいムードの中で切実に求め合う”ふしだら”な少年と少女を!ド性癖!あと逆に麻衣子ちゃんが自分の口の中をまじまじ観察される羞恥プレイ絶対来てほしい。

どんどん深めていってほしい、この愛しくも歪な関係の、その甘やかさを。

 

 

 

ふしだら13

あとどんどん濡れていってほしい。

クリスマスだよエロ漫画2018!

クリスマスだよエロ漫画2018!

ブログも移転して一発目のエロ漫画クリスマス更新となりますが・・・
前ブログから数えると8度目となりました。年末のクッソ忙しい時期にいっきに一年分エロ漫画を読み返して書き上げているのでいつも12月中旬の記憶が薄い。そんなヤケクソムーブを続けております。

 

前回↓
クリスマスはエロ漫画だよ2017!

 

ということでつらつらと書いていきます。
抜いた、泣いた、染みたなどいろんな基準はありますが今年発売されたエロ漫画で好きな作品を10個選びました。それプラス番外編として追加でいくつか紹介します。

 

当たり前ですが18歳未満の閲覧は禁止でお願いします。

それにしても前回の「セッちゃん」の更新からの落差よ。

 

 

 

 

“クリスマスだよエロ漫画2018!”の続きを読む

付き合わないよと笑った 君と ならんで帰った。『セッちゃん』

 

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

セッちゃん (裏少年サンデーコミックス)

  • 作者:大島 智子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-11-12

 

セッちゃんの「セ」は  セックスの「セ」だった。

セッちゃんを見守るようにそばにいるようになったあっくん。ふたりの大学生活をゆるく描いていく作品。けれど第一話の冒頭から示されているように、抗えない圧倒的な暴力性が内包された作品でもある。

いろんなところで見かける「あの絵」の人、大島智子さんの初の漫画作品。ヴィレッジな波動を感じたならそれは正解です。俺の大好きな、しゃらくさい漫画です。

この作家さんを最初に知ったのってなんだっけと思い返すと、たぶん泉まくらのMVでしたね。

 

こんなにデフォルメされたかわいいイラストなのに、なんでこんなに切ないんだろう。女性の生活感とか、だれにも見せないかわいいところとか、メチャクチャかっこ悪いとところか、なんかぜんぶ空気で伝えてくる絶妙の筆致。たまらん。

そもこの表紙もいきなり心を掴まれてしまう。色彩のうすいぼんやりとした曇り空としずんだ街、まっすぐにこちらを見つめる女の子と、少しだけ赤いほほ。

初の漫画となった本作。やるせなくて、キラキラ光ってて、夢見てるみたいにふわふわしてるのに痛いくらいに鋭いリアルが描かれている。こんな優しいタッチなのに描かれるのは性と暴力の世界についてだ。喪失感と浮遊感で胸がいっぱいになる。

連載は読んでいなかったのでこのコミックスで初めて読んだのですが、おもわぬ方向性に進んでいく物語にハラハラしてしまった。こんなゆるふわでドリーミーでポエミーでラブリーなのにあっさりとテロで人が死ぬ。緩急つけすぎだし速度も出すぎである。でもこのコントロールされきってないテンポ感も魅力だ。

 

なにより魅力的なのは、ムカつくけどこういう大学生活に憧れたなぁ、という憧憬だ。くしゃくしゃのシーツ。コンビニ袋にはいったままのジュース。片付け忘れた洗濯バサミ、薄着の彼女が眠っていて。0.02mmのパッケージとアポロチョコ。それが当たり前のようにそこにある。とても俗っぽい。とても生っぽい。この生活感とエロスが完全に地続きになっていて、そこに感動がまるでないことが感動的。

セッちゃんとあっくんはたぶん似た体温の持ち主だ。あっくんは幾分器用なので、自然にふるまうことで「こっちがわ」でい続けられる男の子だ。本質は非常にドライで、虚無を抱えている。

あっくんとセッちゃんは同じように空白を胸にかかえていて、その虚無が反響しあうように心が接近していく。互いにパートナーがいるので、それは恋ではないけれど。

セッちゃん1

くだらないことをしているって見抜かれて、そして共有できてしまう。静かな空間に強烈なシンパシーでつながっていく。

 

大学生にとっての『リアル』ってなんだろうと考えた時に、周囲となじめないコミュニケーションだったり、足りない単位だったり、彼女と汗だくックスがしたいという夢だったり、なにかの思想に取り憑かれてしまうことだってひとつのリアルだろう。

この作品はちょっと前にネット上でも盛り上がってたSEALDsをモチーフとしたような描写がかなりあって、その時点で俺は「ゲッ」と思ってしまった。そういうのに極力触れたくなかったので。彼らの思想の是非なんてどうでもよくてそういう刺激を受けたくなかった、考えたくなかったというのが正しい。だって怖かったのだから。

個人的にネット上で政治的なことを極力言わないように意識はしてますけど、それは自分はなんにも考えてない上に学もないアンポンタンなのがバレてしまうので余計なことは言葉にしないというのが大きな理由なんですね。なにかしたい、なにかで自己表現したい、鬱憤から開放されたい、でも何にも手に付かないというエネルギーばっかり溜め込んだ若者がネットで蓄えた知識で勝手な正義感で達成感を味わえちゃうのは分かるので、俺も違うスイッチが入ってたらハマっていたのかもしれないという恐怖はある。宗教とかと同説に語るのは違うけど、興味ない人種からすると同じだけ近寄りがたくて、けれど意外とすぐそばにあったりする。

というか大学の時、巻き込まれてデモの紛い物みたいなのに強制参加させられたりもしましたね。名古屋でプラカード持たされて。なんだったんだ。速攻抜けて映画館でアニメ見た。まぁ、そういう活動がある大学というのは調べてみると案外珍しくはないみたいです。最初やべーとこ来ちまったと思いましたけど。

 

 

脱線しましたが・・・そういうリアルを思い返すに、この作品に描かれているようななにか使命感に燃えてデモ活動をしている若者たちも、団体がエスカレートしだして「犯罪まではするつもりじゃなかった」とびびりだす群衆も、達観してか興味がないのか頭が悪いのか「なにやってんだろ」って後ろから冷めた目でみてる人々も、みんないっしょの世界で生きていることが本作ではストレートに表現されているなと改めて感じる。

セッちゃんの乾燥した生き方とそれは対象的だ。デモに参加する若者たちは意味不明なエネルギーに満ちていて、怒りと使命感に突き動かされていて、世界を変えようとしていた。セッちゃんはそんなこと望んじゃいないしきっと考えたことなんてなかった。いつだって彼女は、周囲に自分を受け入れてもらおうと必死だった。
弱い生き物だった。

セッちゃんはそういう忙しい世の中からずっと置いてけぼりにされて、ずっとズレちゃってて、へんな目で見られて、少しずつ生きづらくなっていって、そして息が続かなくなってしまった。かわいそうな女の子だった。

主人公も述べているが、あのタイミングでなくても、誰かの殺意に選ばれてなかったとしても、たぶん彼女のこの世界にうまく適合することが出来なかっただろうと思う。

やさしくされた。だからお礼にセックスをした。
それは彼女にとって当たり前のことなのに、まわりなそんな彼女をみて小馬鹿にしたりあるいは近寄りがたいを感じたり、あるいは下心を持って近づいたり、彼女はひたすら周囲から搾取されていく。それが彼女にとって1%の幸福だった。決して満たされない、けれど一瞬心が安らぐ瞬間だけがほんのすこし彼女に居場所を与えていた。

描かれるセッちゃんはふわふわと空気みたいにそこにあるだけの存在で、意思はなく、誰かまかせの日々をずっと送っていて、セックスばかりしているのも誰かから求められることに真面目にきちんと応えてしまっていたからだ。
居心地がよければそれでよかった。愚かだった。でもそれって人にとっての1番の「ほんとう」だと思う。
切実で、ときに最も得難いものだと思う。
居心地を求めて生きてるよ、それだけだよ本当に。

セッちゃんのことを100%理解なんてできない。理解できたらきっと俺は安心できるのに。なんでこんなに胸がざわつくのか、理由を知ったら俺は「なるほど」って落ち着きを取り戻して、たぶんもうすぐセッちゃんのことを忘れてしまうだろう。
希薄な女の子だった。

 

セッちゃん3

 

大好きなシーンだ。セックスしなかったね、なんてわざわざ確認しあったりして。
あんなに縋っていた肉体のつながりなんて要らなかったのだ。たしかにセックスは楽だった。それだけしていれば「ありがとう」も「ごめん」も要らない気がした。身体だけで安らげた。けれどいまセッちゃんはそんなことをしなくても通じ得てしまったのだ。そんなことをしなくても男の子を好きになれたし、好きになってもらえたのだ。まるで冗談みたいに。

。もしかしたらこの時点で彼女は「セッちゃん」ではなくなってしまって、だから物語からいとも簡単に消えてしまったのかもしれない。

セッちゃんは欲しがっていたものを手に入れていたのかな。遺された彼女のテディベアみたいなポーチにはコンドームが入っていた。胸が締め付けられる。でもあっくんとセッちゃんはセックスをしたら壊れてしまうような儚い関係にも思えて、すべてが壊れてしまう直前の、幸福のさなかに好きな人の前で命を落としたセッちゃんは、もしかしたら案外人生に満足していたのかもしれないな。勝手な想像だけど。
セックスを通じてしか他者とつながりを持てない、色を持たない女の子だった。そんな彼女がひとりの男の子を追いかけて外国にまで行っちゃって、また会えることが嬉しくてしかたなくて、まるで普通の女の子みたいだ。虚しい結末なのに、不思議といいことばかりが思い浮かぶ。

 

セッちゃん2

 

途中へんな話をしてしまいましたけど、いい作品です。センシティブな世代にたいする視線の鋭さを感じる作風。イラストレーターさんだけあって、どきっとするコマがたくさんあって、空白を読む楽しさがある。すごく現代っぽい漫画なんですけど、触れたら壊れてしまいそうな繊細さは、じっと息を潜めて夜によみひたるにはぴったりです。ぐちゃぐちゃにこわれていく現実と、それでも続いていくくだらない日常と、かけがえない思い出のものがたり。無情なだけではない甘酸っぱい感触。

 




花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

花は泡、そこにいたって会いたいよ (新鋭短歌シリーズ37)

  • 作者:初谷 むい
  • 出版社:書肆侃侃房
  • 発売日: 2018-04-16

 

完全に余談だが大島智子先生が表紙を担当しているこの歌集が最高にエモキツい。ヘビロテしてる。ひとつの作品が2秒で読めるからな。それでいてずっと歌の世界にこころが置き去りにされてしまうのだ。

自分のなかの短歌という概念が完全にぶっ壊されてただ水のように体内に染みてくる言葉言葉and言葉。静かな読書をしたいぼんやりぐんにゃりな午後にぺろりとページをめくると一瞬で感情になる。一瞬で恋をする19歳の女の子になる。冗談はさておき本当に素敵な本で、短歌どころか言葉って日本語ってほんとうに自由が表現が可能なんだなという学びがある一冊。日常のささやかな一瞬を切り取って哲学から宇宙から女心やら自在に飛躍する混沌が楽しい。漫画もいいがこちらもおすすめである。大島智子先生のイラストを目当てに買うとあんまり載ってはないので残念かもしれない。でもほんと表紙がいい。そこにいたって会いたいよ。

 

 

好きな歌です。

ふるえれば夜の裂けめのような月 あなたが特別にしたんだぜんぶ

夜 きみのつまんない話に笑ってる 聖なる窓の埃を見てる

光ってみたり終わってみたり生活は降るようにあるめざましが鳴る

快晴がつくる逆光きみの名を一生覚えている気がするな

とこしえだ 言葉はぼくを響かせて骨をひとかけ花へと変える

言いたくてくしゃみにそれが消えてって夜のみなもに手を振っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浪漫ある大学生活は斯くも遠い・・・!!『江波くんは生きるのがつらい 』

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (1) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-02-09

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

江波くんは生きるのがつらい (2) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

  • 作者:藤田 阿登
  • 出版社:芳文社
  • 発売日: 2018-09-12

2巻を新刊売り場で見かけて買ったら大当たりした。久しぶりにクリーンヒットした新人作家さん。大学を舞台にしたラブコメ作品としてバッチリ面白いし(特に2巻から)さらに個性強めの主人公の空回りっぷりとか、ダメ男なのに周囲を引きつけてしまう天性の魅力を持っちゃってる感じがひたすらに面白い。

個人的に大学を舞台にしたぬるーい漫画がすきだってこともあってハマりましたけど、いやこれラブコメ的にもめちゃくちゃ面白いぞ!!なんで今まで見逃してたんだろ、悔しい。きららフォワードを雑誌を追う習慣がないからか・・・!

http://seiga.nicovideo.jp/comic/32745

ニコニコ静画で試し読みができる。1話も読めるのでぜひぜひ。
というかフォワード本誌からニコニコ静画へ移籍している。せっかく面白いのに、もしかしてこれってピンチなのだろうか・・・わからん。そうだとしたらとてもとても勿体無い・・・!

江波くんと同じく大学は文学部だったってこともあり個人的に共感するところが・・・・・・あるような無いような・・・・・・。大学モノのラブコメって絶対数が少ないという意味でありがたいですし、そのうえこんなキャラもぶっ飛んでて面白い漫画があるとはな。

 

 

とにかく主人公の江波くんのキャラがいいんだ。見ているだけで楽しい。
最初のうちは1話完結形式で、いろんなヒロインたちが登場してそれぞれと絡んでいく。けれど江波くんは文学青年で、小説を書こうとしていて、その題材のために劇的でロマンとセンチメンタルあふれる学校生活を送ろうともがいている。運命に導かれたドラマチックな瞬間を目指している。そのことのこだわりが強すぎて肥大化した自意識に絡め取られまくりなのだ。ようするに、イタい・・・!

 

江波16

 

ドラマチックな人生を演出するためのヒロインを探して入るものの、ちょっとでも出会い方を間違えると「あれは運命なんかじゃなかったんだー!」と発狂して関係を絶とうとしてしまう。
それ以外にも弱点が多すぎる。カラオケが苦手。集団が苦手。いざという行動が意味不明になる。こだわりすぎて小説をまったく書けていない、などなど。

こうして挙げてみると大体やべーやつなんだけど、そういう不器用で狭量で理想化でナルシルトなところが全部彼の魅力でもあり、読者をイラつかせないバランスに保てているのも何気にすごい。ヒロインとのフラグをびみょう~~~に立てながらも自分でバキンとへし折ってヒロイン置き去りに走って逃げてって、「お前なぁ!!」って言いたくなる、それが楽しい。

ひとりで高まって、ひとりで怖気づいて、ひとりで挫折して、ひとりで憤ってる。
もう全部ひとり。彼だけの世界で完結してる。
最初っから最後まで、相手のことなんてお構いなしで失敗していく。

 

江波11

 

それが面白おかしくて、ああコイツ面白いな愛らしいなって思うのに、ふとしたときに自分から距離を撮ろうとする時の彼の表情や言葉だったりがやたら切なくて寂しくて、胸かきむしられてしまうのだ。

 

江波15

 

本当に自分勝手だし相手を見ていない自己憐憫のくだらない真似事なのに、残念なことにわかってしまう・・・こいつのやってることやりたいこと、分かってしまう・・・!!!この共感性・・・!!!

女性に理想を抱くのと同じように、いやそれ以上に自分への理想が強すぎるせいで生きづらさが爆発している。作品タイトルに「生きるのがつらい」は重すぎやしないかと危惧がまずあって、その上で読んでみると生きづらさがギャグ的に消費されているシーンも多々あるので、薄っぺらに感じられてしまう可能性もある。

でもじっと読んでみると、やはり節々に彼の等身大の「生きづらさ」はそこかしこにある。自己実現に苦悩して、みんなができるいろんな物事が下手くそで、鬱になるとか自殺するレベルではないんだけれど、こういうちっぽけな悩みの連続が学校生活には当然のように満ち溢れているんだよなーって、思い出して甘酸っぱくなってしまうのだ。

友達もいないしもちろん彼女だっていない江波くんだけど、しょぼいなりに青春です、間違いなく。

ふざけてるみたいだけど江波くんは真剣に自分の創作へ情熱を燃やしている。そしてゆっくりだけどそれは進んでいく。失敗だらけでも、理想通りじゃなくても、彼は進んで行けているのだ。

 

そしてそんな江波くんを見つめるヒロイン。本作のやべーやつ第2号。
ほとんど江波くんのストーカーみたいなことしちゃってる清澄さん。

 

江波12

 

江波くんのイタさを見抜き(いや見抜くまでもなくダダ漏れだが)、以降ひそかに彼の動向を置い続けている彼女。せっかく美人で引く手あまたのに、なぜか江波くんを追いかけちゃってる。彼女の願いは「江波くんをいじめたい」である。

 

江波13

 

いろんなヒロインが登場するけれど、彼女はちょっと違う立ち位置。江波くんの日常をかき乱すトリックスター的な役割を担う。
江波くんの日常をかき乱すようにストーリーを動かしていくんだけれど、第13話では江波くんの初小説をはじめて読ませてもらえるという絶頂モノの役目をいただくことに成功している。

今後は江波くんの理解者、協力者としてのポジションを負いながらも、ひそかに彼女自信の欲望を追求していく感じだろうか。江波くんをいじってるときの清澄さん、メチャクチャ楽しそうで見てるこっちもにこにこしてしまいますよ・・・!

 

清澄さんの手伝い?もあって文芸サークルに入ることになった江波くん。いろんなヒロインが登場する本作ですが個人的イチオシの娘がこのサークルの宇家さん。

江波14

いっけんクールなのに地味に妄想爆発型のヒロインでして、この第12回のエピソードはアンジャッシュのコントみたいなすれ違いの会話劇がメチャクチャつぼでした。むしろ江波くんと似ている部分がかなりあるような気がする女の子ですね。

でも出てくる女の子みんなかわいい。それでいて、この記事内ではあまり触れなかったけれど、創作へのアツい思いもしっかりと閉じ込められている作品なのです。応援したいなぁ。あとこういう主人公が好きなのはもう趣味で性癖なので、どうしようもないですね。主人公のキャラの濃さが好き嫌い分かれるかもしれないとも思いつつ、コメディとしての出来がなにぶんいいので広くおすすめしたい。